第217話 娘さんを下さい! byトール

「さて、トールくん……だったね」

「はい」

「君の口から、きちんと本日の要件を伺うとしよう。ケイトとの関係もね」


お茶を飲んで一息つくトールだったが、その言葉で背筋を伸ばす。


「本日は娘さんであるケイトさんを私の妻として貰い受けるために参りました。娘さんとは真剣なお付き合いをさせて貰ってます」


ふむ、清い関係と言わなかったのはつまりそういう事なのだろうが……にしても、傍から見ていても父親のプレッシャーとは凄まじいものだなぁ。


俺の場合、義父にあたるのはダルテシア国王と……もしアイーシャとそういう関係になるのならプログレム伯爵もそれにあたるだろうけど、どちらも婚約にはノリノリなのでこういった修羅場のような光景はどうにも想像がつかなかった。


まあ、もしそうなったら俺も真剣に想いを伝えるだけだけどね。


好きな人を貰って幸せにする覚悟ならあるし。


「ケイト、この言葉に間違いはないか?」

「うん。私がトールくんに気持ちを伝えたの。それでトールくんがそれに答えてくれたの」

「トールくん。君はケイト以外にも奥方はいるのかな?」

「……はい。既に妻となった人と、婚約者、それにケイトさんを含めれば三人になります」


その言葉にケイト父の表情が少し険しくなる。


「他にも相手がいるのにケイトも欲すると?」

「……最初は驚きました。こんな自分のことをずっと覚えてて慕ってくれてたケイトさんのことを」


ちらりと隣を見てから、トールはゆっくりと言葉を選ぶように言う。


「その気持ちだけで、遠くにいた僕の元まで来てくれたこと。最初はその勢いに呑まれたということも否定はできません」


……うん、というか思いっきりケイトのペースに呑まれて既成事実化されてたような気もするけど、それはそれだよね。


こんな真剣な空気で茶々を入れるほど野暮でもないので俺はアイリスとトールを見守ることにするけど。


「ですが、ケイトさんと触れ合う中で僕は彼女を想う気持ちに気が付きました。こんな僕を慕ってくれる彼女を幸せにしたいと……そう思ったんです」

「トールくん……」


潤んだ瞳をトールに向けつつ、ちゃっかりと体を寄せるケイト。


その行動だけでケイト父のメーターが大きく回ってそうではあったけど、いつもならケイトのその行動に大きく狼狽えるはずのトールがそれらに反応せずに真剣な表情をしていることで奇しくも気持ちは伝わり始めたようだ。


「僕は今、ダルテシア国王にてある方の騎士をしております。そこで彼女を幸せにすると誓いました」

「……それで?」

「許しを貰いに来た身ではありますが……あえてこう言わせて頂きます」


そう言うとトールはケイトを自分の胸元に抱き寄せると強気な笑みで言った。


「お義父様。娘さんを頂いていきます」


それは強敵を前にした時と同じような笑みで……同時にどこまでも安心感を感じさせるものでもあった。


それにしても、トールってば、テンションが振り切ってむしろ素のバトルジャンキーな部分が出てくるとか本当に戦闘狂の素質が高いのかもしれないなぁ。


「……よろしい。ならば言葉は無用だろう」


唖然としたのは一瞬のこと。


ケイト父はトールのその言葉にむしろどこか嬉しそうにニヤリと笑うと立ちあがって家の外へと向かった。


「着いてくるといい。外でその覚悟が本物かどうか確かめさせて貰おう」


あぁ……この人もバトルジャンキーの気質があるのかぁ……。


チラリと視線をケイト母に向けると、夫の行動にも娘の連れてきた男の言葉にも一切動揺せずにのんびりとお茶を飲んでいた。


本当に強い人だなぁ。


「……加減は出来るか分かりませんよ?」

「笑止。若造に負けるほど訛ってはいない。娘が欲しいのなら力づくで奪っていくといい」

「……ええ、そうさせて貰います」


そう言うと二人して外に出ていってしまうが、それを追いかけるのはケイト一人であった。


俺も、アイリスもそしてケイト母もそれを見守りながら立つこともなくお茶を飲んでのんびりとする。


ケイト父の実力がどのくらいは定かではないけど、亜人であり奥さんのケイト母の様子から武闘派なのは間違いないし、トールがなぶり殺すようなワンサイドゲームにはなるまい。


そんな惨い仕打ちをケイトの前で見せることもないだろうし、それに今のケイト父からはどこか熟練の戦士のような気配もあったしむしろ良い勝負になりそうなので放っておいて問題ないだろう。


「アイリスは見に行かなくていいの?」

「お兄ちゃんなら大丈夫ですし、エル様と一緒がいいです」


可愛いことを言うアイリスにほっこりするが、何にしても暫くは男同士で楽しんできてもバチは当たらないだろう。


ヒロインポジションのケイトもトールのいつに無いワイルドさにメロメロのようだし、楽しそうで何より。


「トールさんよー。あんまり派手にやり過ぎるなよー」


念の為にそう言ってはおくけど、届いたかは定かではない。


何にしても、奴なりの挨拶を義父にしてくるのだろうし、こっちはこっちで話を進めておこう。


それにしても、あの様子だとケイト父とトールは相性良さそうだな。


まあ、義家族と仲良しなのは良い事だよね。














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