第216話 ケイトの両親
「ここが私の家だよ」
昔のトールの実家(過去形)からほど近い場所にある一軒家。
そこがケイトの実家らしい。
「確か、ケイトの家族はご両親と……」
「うん、お兄ちゃんが一人居るよー。私が家を出る前に結婚したから、もしかしたらお嫁さんの他に子供も居るかもしれないけどね」
ケイトが家を出る前に、ケイトの兄は幼なじみの女の子と結婚したそうだ。
その頃はまだ子供は居なかったらしいけど、ケイトがトールを求めてさ迷ってる間に子供を授かっててもおかしくないだろうとのこと。
それにしても幼なじみの女の子ねぇ……
「もしかして、そのお兄ちゃんもケイトみたいに情熱的なの?」
「ははは、私なんて比べようもないよー」
おいおい……ケイトにそう言わせるってどんな兄なのやら……
トールなんて今のセリフに若干青ざめてるし。
「じゃあ、入ろっかー」
「ちょ……ケイト、少し心の準備を――」
「ただいまー!」
トールの言葉が終わらぬうちに、実に堂々と室内に入っていくケイト。
まあ、トールの場合準備の時間を与えた方が踏ん切りがつかないかもだし、正しい判断だと思う。
その辺考えずとも実行できるのだから、やはりこの子はトールの嫁になるべくしてなったのだろうが……まあ、手網を握れる人間が多いに越したことはないだろうし、多少振り回すタイプがお好みなトールには丁度いいのかもしれないなぁ。
そんな事を思いながらトールの背を押して、アイリスと手を繋いでケイトの家に入ると、ケイトの両親らしきたぬき耳の中年の夫婦が驚いたようにケイトを見ていた。
「帰ってきたのか!ケイト!」
「お帰りなさい。思ったよりも早かったわね」
その反応はある意味対極的にも見えるが、父親の方はケイトの帰宅に感涙を流して縋り付き、母親の方はのんびりと里帰りをした子供を優しく迎える。
「ただいま、お父さん、お母さん」
「良く帰ってきた!うぅ……父さんは嬉しいぞぉ!」
「ふふ、だからこの子なら大丈夫だっていったでしょ?」
「それでも可愛い娘が心配だったんだ!」
「もう、お父さんったら……」
久しぶりの帰宅に満更でもなさそうなケイト。
そして、そんなケイトの様子にトールも一瞬、微笑ましそうにしていたが、父親の視線がこちらに向くと硬直する。
「……ところで、そちらの方々はどちら様なのかな?」
「えっとね……お友達のエルくんとそのお嫁さんで私の可愛い妹のアイリスちゃんだよ」
「初めまして」
「よ、よろしくお願いします……」
「こちらこそ、ケイトがお世話になったね」
妹と呼ばれて少し嬉しそうにしつつも緊張気味に挨拶するアイリスと特に気負わずいつも通りに挨拶する俺ににこやかな視線を送ると、ケイト父の視線は自然とトールに向けられる。
「初めまして。僕は――」
「お父さん、お母さん。この人がトールくんだよ!私の愛する旦那様の!」
トールの腕に抱きつき、心底嬉しそうにそう報告をするケイトだが、紹介された方のトールは表情を凍らせる。
なぜなら、その紹介を聞いた途端にケイトの父親から謎のプレッシャーが発せらせられたからだ。
そう……さながら、娘を奪いに来た男を見定めようとする義父のようなそんなプレッシャー。
「……そうか、彼がトールくんか」
「うん!今日はね、私を貰ってくれるための報告にきたの!」
「……トールと申します。娘さんのことを貰い受けるために本日は参りました」
一瞬気圧されそうになっていたトールだったが、何とか踏ん張ると至極真面目な表情でそう挨拶をする。
どんな強者に挑む時よりも真剣なその様子に、ケイトが見惚れてさらに嬉しそうにじゃれつくが、それがまた父親のボルテージをナチュラルに上げていくことにケイトは気づかないだろう。
「ふふ、とりあえず座ってください。何も無い家ですがおもてなしさせて頂きますね」
そんな男同士の様子を気にせずにお茶を用意するケイト母。
空気を読めてないというよりも、あえて読まないようなその様子は娘にも遺伝されてそうに思えるが、何にしてもケイトの母親らしいなぁとしみじみ思った。
「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて」
何とも言えない緊張感で視線を交差させるケイト父とトールを横目に俺とアイリスはお言葉に甘えてお茶とお茶菓子を貰って一息つく。
魔法で空を飛んできたので、体力的な疲れはそんなにないけど、それでも腰を下ろせるのはやはり有難い。
「ほら、お父さんも。いつまでもトールくんを見つめてないでこっちにきなさい」
「……分かった」
「ケイトはトールくんとそっちに座りなさい」
「はーい」
やり取りだけで、家の力関係が如実に見えるなぁ。
流石はケイトの母親というべきか、夫の扱いを心得てるその様子は将来的にトールの所で再現されてもおかしくなさそうに思えた。
クレアも居るし、本格的に癒し枠はピッケで決まりかな?
まあ、その当の本人は、ケイト母の言葉で何とか一息つけている様子だけど、本題とお許しがまだなので気持ちを切り替えるように表情を改める様子を見るに、奴なりに本気で本日に望んでるのがよく分かる。
そんなトールに存分に甘えるケイトと、それを見て謎のプレッシャーを発するケイト父、そしてそれを優しく見守るケイト母と何ともカオスだが、俺は隣でそっと手を重ねてくるアイリスに存分に癒されていたのでそこまで気にしてなかった。
俺はあくまで付き添いだしね。
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