第213話 そこに水があるから
「む……あれは……」
アイリスとの楽しい空の旅を満喫していると、その途中で俺はとある場所が視界に写り思わず降下していた。
「エル様、お疲れですか?」
「いや、気になるものがあってね」
「気になるもの?」
首を傾げるアイリスに頷きつつ、安全に着地をすると、視界いっぱいに映るのは少し大きめの湖であった。
「綺麗ですね〜」
「だね」
景色も素晴らしいが、水質も魔法で感知した感じ悪くない。
亜人の村まではまだ距離はあるけど、近場の村でさえ既にかなりの遠さなので人が来ることがほとんど無いのは明白。
そして、この世界の水は汚染とはまだまだ縁遠いのと……魔法やら精霊といった特殊な力、存在の影響か前世とは比べるのも虚しくなる程の素晴らしい楽園と言えた。
魔法で軽くジャッジをしてから、手を軽く水面につけると心地よい冷たさを肌に感じられる。
それを堪能してからゆっくりと両手で掬うと一口……うむ、いいねいいねぇ、これこそ旅の醍醐味!
「冷たくて美味しいですね〜」
全国各地の水辺を制覇するという密かな野望をまたひとつ叶えたと少し達成感を覚えていると、アイリスも真似して同じように飲んでそんな事を言う。
「思わぬ発見だったよ」
「エル様は本当にお水がお好きですよね」
「アイリス達とは別の意味合いで愛してるよ」
「えへへ……」
「殿下」
そうしてアイリスとほのぼのしながら楽しんでいると、トールが音もなく着地をしてから涼しい顔で話しかけてくる。
俺と違って、魔法などは一切使わず脳筋も真っ青な方法で空を駆けていたトールに疲れは微塵も……いや、ケイトとのイチャイチャチュッチュで多少消耗してるけど……まあ、それはそれとして、移動に関しては準備運動にもならないようなので相変わらず呆れるほどにタフな奴だ。
「降りるなら声くらいかけてください」
「声をかけなくても気がつくでしょ?」
現に当たり前のように俺の動きを把握して降りてきたし。
「念の為です。それにしても何かと思えば……」
呆れたように俺と湖を交互に見るトール。
その顔が雄弁に語っていた。
『またこの人は水に吸い寄せられてるよ』――と。
仕方ないじゃん、そこに水があれば行かないのは俺じゃないし……
「最近は大人しくなってきてたと思ったんですけどねぇ……」
「失礼な。俺はいつだって大人しいさ」
「まあ、害のある趣味でないだけマシですか」
俺の行動を理解はできても納得はできないと言わんばかりにため息をつくイケメン。
まあ、俺の水に飢えた前世を知る由もないのだから仕方ないが、前世のことは誰にも(リーファは俺と繋がってるので知ってるがそれは例外として)言うつもりはないし、今世を満喫する気満々なので過去は忘れて前を見る所存。
「エル様、折角ですし少し休憩していきませんか?」
兄とは違い、優しい妹の方はそうやんわりと提案してくれる。
アイリスは本当に良い子だなぁ……
「エル様?」
「ごめん、つい可愛くてさ」
「そ、そうでしたか……えへへ……」
思わず頭を撫でると嬉しそうにうさ耳がぴょこぴょこと動く。
流石は婚約者の中でレイナと並んで癒し系筆頭のアイリスさんだ。
その様子だけで思わずほっこりしてしまう。
「ケイト、休憩らしいからそろそろ……」
「む〜、残念だけど仕方ないね」
名残惜しそうにトールから腕から地面に降りると、すぐさまトールの腕に抱きつくケイト。
1秒たりとも離れまいとするそのいじらしさを褒めるべきか、或いは両親への挨拶イベントがあるの中で、折角の二人きりを満喫するために普段よりもグイグイ行くその姿勢を評価するべきか……何れにしても愛されているものだ。
「エル様、お疲れはありませんか?」
「大丈夫だよ」
「お兄ちゃんは……大丈夫だよね」
「ああ、問題ないよ」
これが強がりでもなく事実なのがトールという男の恐ろしいところであり、それ以外でのラブコメパートの方が大量を使っているのもまたトールという男である。
「エル様、私重くなかったですか?」
「軽すぎて少し心配になるくらいかな」
アイリスは亜人ということもあり、凄く良く食べるし、美味しそうに毎食食べる姿が凄く素敵なんだけど、その割に全く太ることはない。
美少女体質というのだろうか?
健康的で健やかに育っているのはよく分かるのだけど、その割には全く重さを感じることがないので少し不思議に思ったけど、そういえばとある言葉を思い出して納得する。
「そっか、好きな人を抱く時はまた別なのかな」
「別ですか?」
「大切な人は愛情パワーで羽のように軽く感じるらしいよ」
「そうなんですか……だったら嬉しいです……」
モジモジしてそうはにかむアイリス。
超絶可愛いその様子を眺めつつ、のんびりと湖を眺めてアイリスがお茶を淹れてくれたのでそれを飲んでまったりとしばしの休憩を取るが、トールのこの後の挨拶イベントを考えるとこの程度の休憩はあった方がいいよね。
にしても中々いい場所だな。
今度はレイナやセリィ、アイーシャも連れてきてもいいかもしれないなぁと考えるけど、隣で嬉しそうに寄り添ってくるアイリスを見てると今日の思い出として二人だけで独占するか少し迷う。
まあ、婚約者それぞれとの思い出というのは多いし、これもその一つに数えるのも悪くないかもね。
何にしても、美味しいだけでなく見ていて落ち着く水というのは本当に素晴らしいものだと心底思えるのだから俺もまだまだ水への愛は止まりそうにないかな。
のんびりしながらの一杯……最高だね。
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