第212話 空の飛び方

亜人の村のある場所を俺は正確には知らなかったのだが、地図でケイトから教えて貰うことで近くの村まで転移することは容易であった。


直接、亜人の村に空間魔法で転移することは出来なかったのだが、空間魔法自体行ったことのある場所しか行けないのでそれは仕方ない。


近くの村……なんて気軽に言ったが、亜人の村自体人里からかなり遠くて、本当に外界と隔絶してるような場所にあるので近くの村のはずが距離的にはそう近くないのが実情なのだが、そこは俺には魔法があるし、トールには化け物チート身体スペックがあるので何とでもなるというもの。


「わぁ……浮いてます!」

「いい景色でしょ?」

「はい!」


俺はアイリスを抱えて、魔法と精霊魔法の応用で風の力を使って優雅に空の旅と洒落こんでいた。


道がどれだけ複雑だろうと、空から行ければ造作もないというもの。


まあ、空の魔物を倒せる相棒が居てこそなんだけど……


「しかし、トールは相変わらず凄いな」

「お兄ちゃんですからね」


不思議とアイリスのその言葉で片付けられてしまえるのだからトールという男は恐ろしいものだ。


俺は植物の精霊のリーファの力を少しとはいえ借りて、魔法と精霊魔法で風を操って空を飛んでいるけど、トールは脳筋思考のバトル漫画でたまーに見かける『空気を蹴って空を駆ける』という移動方法で悠々と空を飛んでいた。


それは果たして飛んでいるのかと問われると迷うけど、余裕の顔でケイトを抱えてケイトに負担を全く感じさせずに魔法で空を飛ぶ俺と併走するのだからそれはもう飛ぶと表現して差し支えないだろう。


「トール、落っこちるなよー」

「殿下こそ、魔法の操作を間違えたらすぐに教えてくださいね」

「そんなヘマしないよ。この程度なら寝ながらでも問題なく魔法使えるし」

「……相変わらず化け物ですね」


いやいや、君にそんな事言われたくないのだが?


そんな事を思っていると、ケイトが嬉しそうに抱きついてる姿が視界に映る。


蕩けたような表情でトールを見つめる恋する乙女のケイト。


さぞクレアが喜びそうなポジションに居るが、今日の主役だし正妻のクレアは妊娠して留守番してるのでこのくらいは問題ないだろう。


そんな感想を抱いていると、そっとアイリスが俺の胸に顔を寄せてくる。


俺は今、アイリスをお姫様抱っこ状態なのだが、近くに感じるアイリスの温もりに思わずドキドキしてしまうのは仕方ないと言えるだろう。


「エル様、また少し逞しくなりましたね……」

「そう?アイリスはますます美人さんになってきたよね」

「そ、そうですか?」

「うん、可愛いアイリスも好きだけど、綺麗なアイリスも好きだよ」

「えへへ……私も色んなエル様が大好きです」


……あの、アイリスさん。ナチュラルに可愛いを連発するのはちょっと……魔法がブレるかもしれないし……


『ふふ、ラブラブですねぇ〜』


俺を通してこの状況を見ている植物の精霊のリーファがそんな風に微笑ましそうに言うが、たまにイチャイチャの感想を言われるとそれなりに恥ずかしくなるので言うなら毎回にして欲しい所。


『風の精霊魔法は少ししか知らなかったのですが、エルさんは一発で成功させて相変わらず凄いですね』

『リーファの教え方がいいからね』

『いえ、それだけではないですよ。エルさんは魔法の才能の塊なのでしょうね』

『……この状況でそうして持ち上げるのは、俺を更にからかいたいから?』

『それもありますね』


ニコニコしながらそう頷くリーファ。


このやり取りが俺とリーファにしか分からない繋がりを介してのみ行われてるのだから不思議なものだ。


まあ、何にしても話し相手に困らないのは悪いことじゃないよね。


「アイリス、寒くない?」


風を上手くコントロールしているので大丈夫だろうけど念の為尋ねるとアイリスは俺に寄り添ったまま嬉しそうに頷く。


「はい、エル様の傍は凄く温かいです」

「そっか。それなら良かったよ」

「このまま……」


ん?


「このまま……ずっとエル様に抱きついていたいなぁ……なんて……えへへ……」


……アイリスさん、アイリスさん。ナチュラルにそうして可愛いを爆発されると俺としてはキュン死してしまいそうなるのですが……


「アイーシャさんが言ってました」

「……何を?」

「二人きりの時なら、もっと攻めた方がいいって」


なるほど、アイーシャの入れ知恵もあるのか。


まあそれを差し引いてもアイリスの天然小悪魔な魅了に俺はすっかり翻弄されているのだが、婚約者達はそうして俺を自在に虜にするから恐ろしいものだ。


そうしてアイリスとの空の旅を楽しむ俺だったが、その隣で空中を蹴って悠々と移動する(言葉にしてもよく意味が分からなくなる)トールもケイトとイチャイチャしていたのでお相子だろう。


向こうのはイチャイチャよりもチュッチュという感じだけど、空を飛ぶ権利がトールになければ何処かに連れ込まれて愛し合っててもおかしくないくらいにはケイトはトールに熱い視線を向けているようなので相変わらずラブラブなことで。


チラチラとヘルプコールが来るが、生憎と俺はアイリスとのこの楽しい時間を優先したいのでそれを鉄の意志(元々優先する気はないけど)でスルーすることにした。


まあ、あれだね。


こういうのもたまには悪くないよね。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る