第211話 本日の同伴者
「……殿下、ついにご乱心になられましたか?」
ケモ耳を装備した姿を見たトールの第一声がそれであった。
割と本気でそう思ってそうなのは失礼極まりないけど、まあ、俺が自ら似合わないケモ耳をしてる事に関しては察してそうなのでスルーしておくことにする。
「お兄ちゃん、エル様はお兄ちゃんのためにこうして可愛くなってくださってるんだから感謝しなくちゃ」
「それは分かってるけど……」
「全くだ。アイリスはいい子だねぇ」
「えへへ」
トールにもこの純真さと優しさがせめて一割でもあったなら……きっとそれらは全て妹のアイリスのためにお母さんのお腹の中に置いてきたのだろうけど、それにしても毎朝イチャイチャの激戦を経てるからかある意味清々しい表情をしているトールは本当に愛されてるものだ。
最も、愛してる側のクレアやケイトには微塵の疲れもなく、むしろ艶々した顔をしてるのできっとトールから色々と搾り取ってるのだろうと予想が着く。
新しい嫁さん候補のピッケが来れば少しは落ち着くかもだが……どのみちピッケ側の準備もあってしばらくは一緒には暮らせないので、クレアの妊娠があるとはいえ、もうしばらくは二人からの愛情の嵐が続くのだろうなぁとモテモテなイケメンに軽く同情を抱きながらもこほんと話を切り替えるように言った。
「さて、じゃあ今日はケイトの実家に行くけど……覚悟は出来てる?」
「ええ、昨晩固めました」
「ベッドの上で?」
「……それとは別にもしてますよ」
婚前交渉に多少の後ろめたさがある真面目なトールは視線を逸らしてそう答えるが……何にしても、思ったよりもしっかりとしてるようなのでそこは少し安心かな。
「じゃあ、二人をケイトの実家に送ったら俺は村を楽しんでくるから……」
「いえ、ここは殿下にも是非とも一緒に居て貰えればと。護衛もありますし」
さり気なく同伴を遠慮しようとするが、それは難しいのかそんな言い訳で同伴させようとしてくるトール。
俺はコイツの保護者ではないんだけどなぁ……まあ、でもどのみち俺も聞きたいことがあったし、仕方ないか。
「そんな訳で、留守は頼んだよ」
「はい。行ってらっしゃいませエルダート様」
「……任せて」
「残念ですが私達は別の機会にですね。今日のところはアイリスに譲ります」
元々トールの送り迎えがメインのお仕事だし、行く場所が行ったことのない亜人の村なので、婚約者達には留守番をしてもらう事になるのだが、アイリスだけは連れていくことにした。
本当はアイリスも連れてくか少し迷ったけど、アイリスの気持ちも考えると連れて行く方がいいだろうし、それに俺なんかよりもアイリスはよっぽど強いし大丈夫だろう。
もしもの時は俺が魔法で時間稼ぎしてる間にトールを召喚すれば一発解決だろうしね。
「アイリスさん。エルダート様とのお出掛け楽しんできてくださいね」
「……ん、主とイチャイチャしてくるといい」
「ですね。今日はアイリスのターンということで。その代わりきっと後日私達との時間も作ってくれますよね。ねぇ、殿下?」
「当たり前だよ。というか、誘うつもり満々だから楽しみにしててよ」
ここ最近忙しかったし、それぞれとのデートは元々考えていたので即答すると嬉しそうにしてくれる婚約者達。
俺とのデートでそういう反応をしてくれるのが非常に嬉しいが、このトールの挨拶イベントのついでのデートでは流石に少し不平等な気もするしその辺は考えとこう。
最も……
「レイナ様、美味しいものあったら買ってきますね」
「ふふ、期待していますね」
「……アイリスは美味しいもの見つけるの得意だから楽しみ」
「うん、色々探してくるね!」
「せっかくだし、少しくらい積極的になるのも良いと思うわ」
「積極的……が、頑張ります!」
嬉しそうに婚約者達と話しているアイリスからは、俺とのお出掛けが楽しみでならないという無垢な気持ちが伝わってくるので本当に心から愛おしく思えてくる。
「殿下、デートは結構ですが話し合いの最初だけは居てくださいね」
「分かってるってば。それにトールが万全に動けるようになってからじゃないと回りにくいしね」
離れた場所に居てもトールを呼び寄せる魔法を編み出したとはいえ、ケイトのご両親に挨拶中に呼び出す訳にもいかないし、タイミングは大切だろう。
魔法がないと俺はか弱い子供なので、その辺はきちんと安全を確保できるようにはしておくことにする。
まあ、俺よりも同伴するアイリスの安全の方が俺としては大切なのだが……何にしても魔法でアイリスを守るのは勿論だけど、アイリス自身もかなりハイスペックなのでその辺はあまり心配いらないのは助かるかも。
魔法も俺の指導で上手くなってるし、護衛としてと動きもトールから教えて貰ってるし、亜人なので身体のスペックも高くてアイリスさんは地味に凄いのだ。
最も、それを可愛いが凌駕してしまってるのだが……それはそれ。
「殿下の場合、魔法があるので護衛は不要な気はしますが……まあ、それが僕のお仕事なのでそこはしっかりとさせて頂きます」
「その前にケイトのご両親にきちんと挨拶しないとね。頑張ってね」
「勿論ですよ」
どうやらやる気はあるようだし、覚悟の決まった顔もしてるので大丈夫だろうと思いながら俺は亜人の村へと行く準備をするのであった。
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