第210話 変装のコツ

翌日、婚約者達と爽やかな目覚めを味わってから、服を着ながら俺は考えていた。


朝食の内容……ではなく、本日の予定である、ケイトの両親への挨拶(トールが娘さんを下さいと言いに行くためのタクシー)のために俺がどうすればいいか。


ただのタクシーなので、トールが挨拶してる間適当に亜人の村を見て回れば良い気もするけど、あのいっぱいいっぱいな様子のトールが俺が自由に動き回るのを良しとするとは思えないし、必然的に俺もトールに付き合うことになりそうだから、余計に考えてしまう。


そう……


「アイリス、どうかな?」

「何がで……えぇぇ!?」


振り返ったアイリスが変な声を上げる。


「え?え?エル様?」

「やっぱり似合わないかぁ……」

「いえいえ!凄く似合ってます!その耳素敵です!」


そう、亜人の村に行くために――俺は似合わないうさ耳カチューシャ(魔道具で付けると亜人にしか見えなくなる優れもの)を付けてみていた。


鏡で見るとかなり微妙な気もしなくはないけど、試しに近くにいたアイリスに見せれば嬉しそうにぴょこぴょこ跳ねて絶賛してくれる。


「本当ですね。アイリスさんとお揃いで可愛いです」

「……似合ってる」

「ですよね!凄くいいです!」


レイナとセリィも俺の声に振り向いてそう感想を行ってくれるけど、二人よりもアイリスのテンションが高すぎて少し驚く。


「えへへ……エル様とお揃い〜」


並んで跳ねるアイリスがそう笑みを浮かべる。


……可愛すぎませんか?


「そうだね、ペアルックってやつかな?」

「ペアルック?」

「好きな人とお揃いの格好をすること……かな?」

「じゃあ、レイナ様達も是非しましょう!」


ノータイムでそうナチュラルに言える所が、アイリスのアイリス足りえる所なのかもしれないとしみじみ思った。


俺の事を好いてくれているのと同じくらいに、レイナやセリィのことも大切に思ってくれてるのだろうけど、アイリスだけでなく、レイナやセリィもそういう娘だからこそ、俺は彼女たちに心から惚れたのだろうなぁ。


「可愛いですけど、私に似合ますでしょうか?」

「絶対似合います!エル様もそう思いますよね?」

「うん、レイナもセリィも良く似合うと思うよ」


アイリスと肩を並べる癒し系美少女の代表格のレイナにケモ耳は超絶似合うだろうし、セリィも小動物的な可愛さがあるので似合わないわけがない。


そう思って、ひっそりとレイナ達の分も作ってもらっており、それが俺の空間魔法の亜空間に仕舞われているのだけど……流石にこのタイミングで出すのは気持ち悪いような気もするし、スマートに試して貰えるタイミングを考えるとしよう。


「そ、そうですか?では、エルダート様の前でだけなら……」

「……私も主の前だけならしてもいい」


少し恥じらいつつも頷くレイナといつも通り頷くセリィだけど、同じ言葉でもそれぞれ良く特徴が出ていた。


レイナは人前でそうした格好になるのが少し恥ずかしいので、俺の前だけを望み、セリィは単純に俺以外に見せる気がないのでそう言ったのだろうけど、どちらにせよ、俺の中の面倒な独占欲を察してくれてるようにそんな事を言うのだから、益々俺が彼女たちを大事に思ってしまうのも仕方ないと思う。


皆、可愛すぎだよ。


「ありがとう。なら、その時を楽しみにしてるよ」

「エル様、今日はケイトさんのお家に行くんですよね?」

「そうだよ。トールの付き添いだけどね。だからこうして変装してみたんだけど……でも、アイリスとかトールみたいにナチュラルに素材が良い人達と比べると不自然に思われるかな?」

「そんな事ないです!私、このエル様も大好きです!」

「私も似合ってると思います」

「……主、可愛い」


全力の肯定をする3人だけど、セリィの最後のセリフはどうなのだろうかと少し迷ってしまうが……うん、とりあえず3人に引かれなかったのだから良しとしよう。


「アイーシャには笑われそうだけどね」

「そんな事ないですよ。むしろ、後で見せましょう!」

「そうですね。アイーシャさんだけエルダート様のの可愛らしいお姿を見れないのは不公平ですから」

「……主を愛する権利は皆平等」


そんな事を話しながら、3人の意見(途中で朝早くから来てナチュラルに部屋に入ってきたアイーシャも含めて4人の意見)を聞きながら本日のお出かけのための変装をしてみるが、何事も準備が楽しいというのはある意味真実かもしれないと思えるくらいには、婚約者達との時間は尊いよね。


まあ、何にしてもあれだ。


アイリスやトールはナチュラルにケモ耳が似合うから良いけど、俺みたいな一般人にケモ耳は中々親和性が心許なくも思えるので、自然に出歩けるような空気なら今度からは自然に出歩こうと決めたのだが、それはそれかな。


それにしても、俺とお揃いでテンションが高くなってるアイリスはいつにも増してご機嫌だけど、こうして俺なんかのケモ耳で喜ぶのなら多少の恥は苦にならない辺り、我ながら何ともゲンキンなものだけど、好きと可愛いには勝てないので仕方ない。


勝つ気もないしね。


この可愛さ……プライスレス。












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