第209話 嵐の前の癒し

「そうでしたか、では私とセリィさんも後日伺わせて頂きますね」


祖父母と話してから、屋敷に戻ると嫁たちに連れられていくトールを見送ってから俺は自室に戻って出先から戻っていたレイナとセリィを加えて五人でのんびりする。


そんな中で、アイリスとアイーシャを祖父母に会わせた件と、祖母が会いたがってた件を話すとそう微笑むレイナは相変わらず見ていて安心出来る。


「その際はエルダート様にお手間をおかけしてしまいますが……」

「気にしなくていいよ。そのくらい負担にもならないし」

「ありがとうございます」

「……主、優しい」


そう言いながらかぷかぷと腕を甘噛みしてくるセリィはそろそろお腹が空いてきてるのかもしれない。


俺の腕はそんなに美味しくないと思うけど……まあ、でも魔法で俺自身には汚れとかはないから、不潔という訳でもないしそこは一安心かな。


何にしても、本当にこの子は甘え方がストレートなものだ。


「それで、レイナ達の方はどうだったの?」

「本日はビスキイ公爵家のお茶会に行ってきました」

「あんまり無理しなくていいんだよ?」

「ありがとうございます。でも、私もエルダート様の妻として頑張りたいですから」


俺を安心させるようにそう微笑むレイナ。


その無自覚な優しさは本当に自覚がないのだろうけど、アイリスといい癒し系美少女にはデフォルトで備わっているのかもしれないと思う今日この頃。


「そっか、ありがとう。でも、俺はいつもそうして周りを見て気遣える優しいレイナが大好きだから、これからも傍にいて欲しい」

「エルダート様……」


うるうるとした瞳を向けられて思わず見つめあってしまう。


お淑やかで、自己主張が強い方ではないレイナだけど、そんな彼女にこうして気持ちを告げるのは本心からの言葉だからだ。


そんな俺の本心をレイナも分かっているからこそ、思わず二人で甘い空気になってしまう。


にしても、相変わらず可愛い子だ。


そんなレイナに微笑んでから、抱きついてきているアイリスとセリィの頭を撫でてきちんと言う。


「勿論、二人もだよ。いつも本当にありがとう。俺を支えてくれるアイリスも、いつも甘えてくれるセリィも大好きだから、ずっと傍にいて欲しい」


それぞれの目を見て、きちんと心から思ってることを言うと、二人はそれぞれ嬉しそうに反応してくれる。


「勿論です、エル様」


頬を赤くしてそっと抱きついてくるアイリス。


うさ耳が嬉しそうにぴょこぴょこ動くのが実にキュートだ。


「……主とずっと一緒」


口数の少ないセリィは普段の積極的なスキンシップからしたら少し控えめだけど、嬉しそうに抱きつきつつそう答えてくれる。


気持ちが高ぶって、八重歯が出てきてるけど、そこも可愛い。


「そうですね。皆さんでずっと一緒です」


何となく和やかになる空気に、アイーシャが微笑んでいるのを見て、俺はアイーシャにも言っておく。


「アイーシャも。いつもありがとう。今後も共にいて欲しい」

「ふふ、殿下は狡いお人ですね」

「そうかもしれないね」


それとなく互いの気持ちが分かってきて、正確に口にしてないタイミングで言うのは狡い気もするけど、何れ気持ちを定めていくためにも口にはしておく。


それを分かっているようにアイーシャは微笑んで一礼する。


「勿論です。殿下とレイナ様達と一緒に居ると退屈しませんから」

「褒め言葉として受け取っておくよ」

「そうですね」


そうして気持ちを新たにする中で、ほのぼのしたこの空気を俺は心から堪能する。


まだ婚約者という立場だけど、大切な家族という気持ちが、愛しい人達に強く思う。


祖父母の関係を見ていると、改めて俺もそうなりたいと思えた。


まあ、祖父母だけじゃなくて、父様や母様、兄様や姉様達の夫婦仲も最高に理想的なので参考にはするけど、本当に俺の周りにはラブラブな夫婦が多くていいものだ。


トール?アイツはまあ、ラブラブなんて可愛い単語では足りないからなぁ……ピッケが嫁に来ればもう少しイチャイチャも落ち着きを見せるかもしれないけど、少なくとも愛情がカンストしている二人が相手だと毎晩大変そうだなぁと他人事のように思う。


実際、他人事だし、あそこまで愛されてるのは凄くいいとは思うけど、俺としては今の婚約者達の微笑ましいイチャイチャがちょうど良い気もする。


まあ、婚約者達が皆クレアやケイトのような暴走ラバーになっても受け入れられる気はするけどね。


確かに大変そうではあるけど、トールよりはラブコメ適性があるはずなのでむしろ可愛いと俺からも愛情が加速しそう。


ヤンデレアイリスやヤンデレレイナなんて、想像すると少し楽しそうだけど……まあ、でも今こうして癒し系美少女2人の様子を見てるとこの微笑ましいいい感じの距離も悪くないと思えるから不思議だ。


「さて、そろそろ夕飯にしようか。実は今日はお祖母様からお土産もあってね」

「そうなのですか?楽しみです」

「私、先に行っておきますね!」


食事と聞いて嬉しそうに飛び出していくアイリスとお土産と聞いて少し楽しみにしているレイナ。


じゃれついてくるセリィを連れつつ、レイナの車椅子を押して、アイーシャと話しながらアイリスの待つ食卓へと向かう……うんうん、こういう日常は良き良き。


まあ、明日は大変そうだけど……こういう日常があるからこそ頑張れるというもの。


やっぱり俺にとっては婚約者達は癒しなのだなぁと心底思うのは仕方ないよね。













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