第208話 癒し枠確定
お手洗いのタイミングでさり気なく自室(祖父母宅における俺の部屋)に顔を出すと、意図的に残してきたトールが嫁二人とピッケと共に、比較的穏やかな空気を醸し出していた。
ピッケの性格上、修羅場ることはまず無いだろうと思っていたのだけど、それでも少し癖のある性格(トールが絡むと)のクレアとケイトと仲良くなれるのは流石としか言いようがないだろう。
「殿下、御用ですか?」
すぐに立ち去ろうとそっと扉を音もなく閉めようとするが、トールが何とも安心したようにそう声をかけてくるので立ち去れそうになかった。
まあ、俺がどれだけ気配を消そうが、超人たるケモ耳イケメンには通じないのだが……それにしても、嫁たちと居る時よりも俺が来た時の方が明るくなるのは良くないと僕は思います。
本人的には気づいてなさそうだけど、無意識なのが逆にちょっと悩ましくもなるのだが……まあ、幸いなのは嫁たちはそれに関して気にしてない(というか、トールの内なる自分たちへの好意を分かっており、熟知してるので俺に妬かない)ということだが、それでも俺としてはもう少し嫁たちにストレートにデレてくれると助かるのだが。
「いや、大した用事じゃないから。邪魔したね」
「そう仰らず是非ともこちらに」
さっさと戻ろうとすると一瞬で回り込んできて部屋に押し込まれる。
「まあ、いいけど……んで、仲良くなれそう?」
ナチュラルに人外な動きをされたけど、それにいちいち驚いては身が持たないので、そこはスルーしてそう単刀直入に尋ねると、クレアがニコリと微笑んで答えた。
「勿論です。これからダーリンを支える家族になるのですから。ねぇ、ケイトさん」
「はい!でも、クレアさんもピッケさんも大人の女性って感じで羨ましいです。私ももう少しセクシーになれたらなぁ……」
「今のままが素敵ですよ。ねぇ、ダーリン」
「そうだね。ケイトは今のままがいいかな」
「えへへ、ありがとうトールくん♪」
……よし、今のうちに戻ろう。
元々そこまで心配してなかったけど、和気あいあいとしているようだし、イチャイチャも始まったようだしここに居ても仕方ないとゆっくりと外に出ようと足音を殺して進む俺は、我ながら中々に忍んでいたと思う。
「殿下、お足元にご注意を」
……だというのに、それを当たり前のように察知して逃がすまいと回り込んでくるトールは何なのだろうか?
「ありがとう、トール」
「いえいえ」
一見微笑ましいシーンに見えるが、今のやり取りを変換するとこうなる。
『いや、俺さっさと戻りたいんだけど』
『もう少しだけ居てください……あと数秒でいいので……』
仲良くしてる様子を見ていても、新しくピッケを嫁に迎えることに多少罪悪感でも感じてるのだろうトールからしたら、俺という存在がオアシスにでも見えてるのだろうと予想は出来るが……なるほど、人はモテる過ぎると逆に同性に癒しを求めるのは本当なのかもしれないとしみじみ思った。
俺はモテないから、普通に婚約者たちの方がいいんだけど……まあ、元々異性への興味が薄いトールからしたら仕方ないのかもしれないなぁ。
そんな事を考えていると、ふとピッケが新しくお茶を入れ直していた。
『お二人共、宜しければこちらをどうぞ。私が趣味で育てたものなんですが』
器用に中空に魔力で文字を描くピッケ。
自然なその魔力操作は相変わらず凄まじいものだ。
「良い香りですね」
「ですねー」
『トールくんも、お茶を入れ直したので良かったらどうぞ』
そう微笑むピッケにトールは一瞬ドキッとしたのか視線を逸らしてから頷く。
『殿下も宜しければどうぞ』
「あー、ごめん。俺はそろそろ戻らないとだから。その分トールにご奉仕してあげなよ」
「ちょっ……殿下……!?」
「帰る時になったらまた来るから」
そう言ってから部屋から出ていくけど、あの様子なら心配いらないだろう。
クレアは妊娠したばかり、ケイトも両親への挨拶イベントが近いと知ってワクワクな様子だし、ピッケはピッケでトールに嫁げることがほぼ確定して嬉しそうなので何よりだ。
モテる我が騎士に関しては、好みの女性に好かれてるのだから多少は苦労も仕方ないしね。
それにしても、改めて見てもつくづく役割のハッキリしてそうなメンツだよなぁ。
正妻のクレアは情熱的に愛して戦闘狂疑惑のトールを家庭に留める役目、ケイトはクレアのサポートをしつつ幼なじみという優位性も発揮してトールに甘えて、そして新入りのピッケは二人の過剰な愛とは違い、少し引いた位置でトールを支える癒し枠のようなポジションになりそう。
上手いこと手網を握れる嫁たちに恵まれたものだけど……まあ、トールはあれくらい過剰に愛された方が幸せだろうし、俺としてもバトルジャンキーになりそうな危うさを打ち消してくれてるので特に問題は無い。
ラブコメパートでトールがある意味大変なのかもしれないが、本気で嫌なら逃げるだろうしそれが無いのだからトールも心から嫁たちを愛してるので、夫婦円満は良い事だよね。
俺も早いとこ部屋に戻ってアイリスとアイーシャに癒されようかな。
そんな事を思って祖父母の自室に戻ると、そこでは更に俺との恋バナに花を咲かせる婚約者と祖母がおり、それはそれで大変楽しめてしまったのだが……まあ、それはそれかな。
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