第207話 必然というか運命

「それにしても、ワシらの無茶な頼みをよく聞いてくれたのぅ」


イチャイチャも一段落して、落ち着いて椅子に腰を下ろすとそんな事を言う祖父。


無茶な頼み……というのは、トールに頼んだピッケを娶ってくれということであろう。


「受けたのはあくまでトールですから。それに、トールとしてもピッケは好みの範囲内なので、遅かれ早かれ同じような話は出てましたよ」

「ふむ、そういうものか」

「ええ、俺がそのうちピッケを勧めていたかもしれませんね」


あまりにも情熱的な婚約者二人とは少し異なった、癒しとなれそうな存在は遅かれ早かれトールには必要だっただろうし、祖父母が今回話を持ち出さなかったら俺がさり気なく勧めていた可能性もなくはない。


誠に不本意なことに、トールの気持ちが手に取るように分かるので、その好みも何となく分かってしまう。


出来ればもう少し離れた適切な距離での友人でありたいものだが……これが腐れ縁というやつか。


「ふふ、ピッケったら凄く嬉しそうでしたね」

「じゃのう。まあ、何にしてもワシらが生きてるうちにピッケが嫁げて心から安堵したぞ」


嬉しそうな二人を見れば、心からピッケを案じていたのだろうと分かり、優しい祖父母に改めて敬意を抱くけど、それとは別にナチュラルに出てきた『自分たちが生きてるうちに』という言葉にどうしても感じてしまうものもあった。


祖父母は元気だし、余程のことがなければ長生きしてくれるとは思うけど……それでもいつか居なくなると考えると怖くもなる。


それが自然の摂理なのだと分かってはいても、大切な家族が居なくなるのはやはり寂しいものだし、悲しくもなると思う。


前世ではそんな気持ちを抱くことなんて無かったのに、大切な人が多い今世ではそうした別れもどうしても付き物なのだろうけど……せめて、その時は笑顔で見送れるように頑張らないとね。


「確か、お祖母様がピッケを見つけてきたと言ってましたよね?」


二人のイチャイチャに差し障りのない程度にそう尋ねると、祖父が実に誇らしげに頷く。


「うむ。ワシらがまだ婚約者だった頃……ワシが王位を譲られる前の童の時代だったかのぅ。可憐な乙女であったワシの婚約者……お前の祖母がある日拾ってきた亜人の子供がピッケじゃったな」

「ふふ、あの頃のあなたも素敵でしたよ」


ナチュラルに互いを褒めあってから、祖母は懐かしむように言葉を発する。


「私が出掛けた先で偶然見つけたのよ。あの頃のピッケは今以上に無口だったけど、可愛くて有能な所は昔からね」

「あの時は驚いたぞ。お前の屋敷に行ったらいきなり亜人の侍女が居たからのぅ」

「ええ、その顔は今でも覚えてますわ」


基本的に、父や祖父母の代からシンフォニア王国はクリーンで自由な気風になったらしく、祖父母の前の代は今以上に亜人へとあたりも大きかったらしい。


今でこそ正に『自由な国』と呼ばれても違和感のない我が故郷のシンフォニア王国だけど、それは祖父母や父様母様、そして次世代のマルクス兄様達によって作られたのだと考えると本当に尊敬しかない。


本当に凄い家族を持ったものだと心底思う。


「私がピッケを拾ってきたのは、確かエルちゃんがトールくんとアイリスちゃんの二人を拾ってきた時と大体同じ歳の頃だったわね」

「そうじゃったな。よもや孫であるエルダートが同じように亜人を拾ってくるとは思わなんだが……やはり容姿だけでなくその心根も似ておるのじゃろうのぅ」


そう言って俺と祖母をに交互に視線を向ける祖父。


そう言って貰えるのは嬉しいけど、流石に祖母のような魅力はないんだよねぇ……というか、絶対祖母の若い頃って超絶美少女しか思い浮かばないんだけど、今度昔の姿絵でも見せてもらおうかな?


祖父も美少年だっただろうしその辺は後で聞くとしよう。


「そうですね。それでアイリスや……一応トールにも会えたのならお祖母様の血筋に感謝です」

「ふふ、そう言ってくれるのは嬉しいけど、こうして隣に居ることを選んでくれたのはあくまでアイリスちゃんなのは忘れないようにね?」

「勿論です」


そっと隣に座るアイリスの手を握ると、アイリスは嬉しそうに耳を動かして握り返してくる。


しれっともう片方の手をアイーシャが手を繋いできたのだが……うん、大丈夫だから。アイーシャの存在を忘れてないよと握り返すと満足そうに頷く。


そんな俺たちの様子を見てから祖母は2人に言った。


「アイリスちゃん、アイーシャちゃん。エルちゃんのことこれからもよろしくね」

「はい!ずっとエル様と一緒に居ます!」

「承りました」


元気に即答するアイリスと、静かに頷くアイーシャ。


温度差があるように思えるけど、2人らしい返事に思わず微笑んでしまうが……何にしても、少しでも婚約者達にカッコイイと思って貰えるように俺ももっと頑張らないとな。


そんな事を思いながら色々と祖父母と話すけど、祖母が俺の目の前でアイリスとアイーシャにそれぞれ色々聞くものだから、素直なアイリスが俺とのイチャイチャをあれこれ話してしまって思わず恥ずかしくなったのは仕方ないだろう。


それにしても、アイリスの話の中の俺は美化されてるようにしか思えないのだが……うん、これはこれで目標にできるし前向きに頑張ろうかなと思う今日この頃であります。











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