第206話 アイーシャの気持ち
祖父母の屋敷に戻ると、トール達を祖父母宅の俺の自室に残してから、俺はアイリスとアイーシャを連れて祖父母の自室にやって来ていた。
「まあまあ、久しぶりね、アイリスちゃん」
「元気そうじゃの」
「お久しぶりです、エレノアール様、アルダンドル様」
柔らかく微笑む祖父母に対して、いつもより少し緊張気味にそう挨拶をするアイリスだが、普段からの練習の賜物か、不思議と挨拶が様になっていた。
我が婚約者ながら、本当に可愛いものだ。
「ふふ、緊張しなくて大丈夫よ」
「そうじゃな。お主はエルダートの嫁になるのだ。既にワシらの義孫のようなものじゃからのぅ」
「そうね。是非ともお義祖母様と呼んでちょうだい」
「あ、えっと、その……」
グイグイ来る祖父母だが、アイリス的には本当に呼んでもいいのか毎回悩んでしまうのだろう。
その証拠に俺に視線を向けてくるし。
困ってるその様子も可愛いけど、ここは婚約者としてフォローもしないとね。
「お祖父様、お祖母様。それは後々慣れればよろしいかと」
「それもそうね」
「ふむ、ではそちらのお嬢さんを紹介して貰えると嬉しいのぅ」
あっさりと引き下がったと思ったら、祖父母の視線はもう一人の来訪者であるアイーシャに集まる。
祖父からは試すような視線が、祖母はいつも通りながらも何かを見定めようとしてるように思える視線を向けてくるが、そんな視線にたじろぐこと無くアイーシャは実に堂々と挨拶をする。
「お初にお目にかかります。プログレム伯爵家のアイーシャ・プログレムと申します。この度は殿下にお誘い頂き、こうして参りました」
「ふむ、中々堂に入った振る舞いじゃの」
「勿体なきお言葉、光栄です」
いつものアイーシャからは考えられないくらいに、淑女の振る舞いをしているが、それが様になるのだからやはりアイーシャは凄い。
とはいえ、俺としてはいつもの自然体のアイーシャの方が好きな気もするけど……こうしたきちんとしたアイーシャも綺麗に思える。
「プログレム伯爵から事情は聞いておる。じゃが、あえてワシから問おう。お主とエルダートはどういった関係なのか――とのぅ」
……なるほど、それを聞きたいがためにわざわざいつもよりも畏まった様子になっていたのか。
とはいえ、今のところ仲の良い友達という状態なので、その質問は時期尚早に思えたのだが……そんな俺とは違い、アイーシャはなんとも綺麗な笑みでそれに答えた。
「殿下とは恐れ多くも、ご友人としてお付き合いさせて貰っております……今は」
え?今は?
「ふむ、未来は違うと?」
「先のことは分かりませんが、全ては殿下の意思によりますので」
「それもそうかのぅ。ちなみにお主自身の気持ちはどうなんじゃ?」
「それはここではお答え出来かねます」
「理由は?」
「それを最初に告げる相手は、たった一人と決めておりますので」
そう答えると、優しく俺に微笑むアイーシャ。
そんな意味深な答えに祖父は暫くアイーシャを見てから、くつくつと笑い出す。
「中々面白い娘じゃの。どうじゃ?ワシは認めても良いと思うが……」
「そうですね……では、私からは一つだけ」
「何なりと」
「エルちゃんと一緒に居て楽しい?」
祖母からのその質問に、アイーシャは迷う素振りも見せずに自然な笑みで答えた。
「はい。殿下だけでなく、殿下と殿下のご婚約者様達と一緒に過ごす時間が私は好きです。これまでは、煩わしいこと、目立つことは嫌だった私ですが、殿下達とならそうあっても良いと思えました。だから、私は殿下のお許しになる限り、殿下のお傍に居たいと願っております」
その答えに満足したように微笑む祖母。
「そう、分かったわ」
「ふむ、エルダートよ。ここまで女子に言わせる魅力はやはりお前の祖母とよく似てるのぅ」
「それはあなたの方の遺伝じゃないでしょうか?」
「何を言う、お前の人を惹きつける魅力がエルダートにもあるのであろう」
「あなたの方が魅力的ですよ」
「お前の方が魅力的だ」
そうして気がつけばイチャイチャに発展する祖父母だが、これがナチュラルな状態でのやり取りなので思わず苦笑してしまうけど、それを見てからアイーシャはくすりと微笑んでからこっそりと俺にだけ聞こえるように言った。
「素敵なご家族ですね」
「俺もそう思うよ」
「殿下、私の家族が色々と余計なお世話をしてきてるのは知っています。でも……それらは気にせず、殿下は殿下の思ったように答えを出してください。私はどんな答えでも殿下の傍に居ますから」
そう微笑むアイーシャだが、その表情にドキッとした時点で俺の気持ちは恐らく既に決まっていたのだろう。
アイリスも俺たちの様子に優しく微笑んでおり、反対する様子もない。
それでも……もう少しだけ考えてから、それからきちんと答えを出したい。
既に答えは出てるようなものだけど、婚約者が増えるとなればアイリスやレイナ、セリィ達にきちんと相談もしたいし、それにしっかりと気持ちを決めてから自分からアイーシャに告げたいという、ちょっとした男心もなくはなかった。
何にしても、アイーシャにここまで言わせたのだ……俺も覚悟を決めないとね。
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