第205話 タイミングの問題

俺が呼んだアイリスが入ってきたことにより、トールと嫁たちのイチャイチャがとりあえず落ち着いたのだが、あっさり引き下がったクレアとケイトの様子を見るに、今夜まで取っておこうとしてるように俺には見えてしまい、何となく哀れみの視線をトールに向けてしまう。


「お兄ちゃん、新しい奥さんが出来るの?」

「……そうなりそうだね」

「そっかー、おめでとう!」

「……ああ、ありがとう」


最も当の本人は、それには気づかずに、救世主のようにタイミング良く部屋に来てくれた妹にそうして祝われて何ともいえない表情をしそうになっていたが。


「アイリスさんのお兄様はおモテになるんですね」


しれっとアイリスと共に部屋に入ってきたアイーシャは、もはや屋敷に居ても違和感がないのである意味凄い。


「それで、アイリスは大丈夫なの?」

「はい!今日のお勉強は終わりました!」

「そっか、頑張ってくれてるんだね」


俺の婚約者というのは、覚えることもやる事も多いのだが、それでも頑張ってくれている事に感謝してアイリスの頭を撫でると、アイリスは嬉しそうに微笑む。


「エル様に相応しい女性になりたいですから」

「今でも十分に魅力的だけど……そうだね、楽しみにしてるよ」

「はい!」


ニコニコなアイリスが実に可愛い。


俺も婚約者達に誇れるような自分になれるようにもっと頑張ろうと本心から思えるのだから、我ながらかなりベタ惚れのようだ。


「レイナ様はお茶会だそうですよ。護衛にはセリィさんが着いてますのでご安心を」


しれっとそう報告してくるアイーシャだけど、やはり二人とも外出中だったか。


二人の反応が屋敷にないのも、本日のその予定も知っていたので驚きはしないのだが、セリィが居た場合、俺が転移した時点で気がついて飛んできていただろうし、予定通りといえた。


足の悪いのレイナだが、車椅子のお陰で護衛さえいれば出かけることも可能になった。


その関係で、定期的にお茶会などにも参加して、王女様として、俺の奥さんとして、あれこれと社交のための下地作りをしてくれているようだ。


本当によく出来た婚約者だ。


俺としてはそこまで頑張らなくてもと思わなくもないが、無理をしてる訳でもないし、何よりも俺の事を思って動いてくれてるのが凄く嬉しいので、俺もそれに答えるべくもっともっと頑張れるというもの。


「そっか。ならアイーシャも一緒に来る?」

「ふふ、殿下はいつも大胆ですね」


何故にそうなるのか少し考えてから、なるほどと少し納得もする。


見方によっては家族に紹介するような流れにも見えなくはないのか。


まあ、確かに家族に会わせるという意味では間違ってなさそうではあるけど。


「そうだね、アイーシャが嫌じゃないなら来て欲しいかな」

「そうですね……では、お言葉に甘えて、ご一緒させて頂きますね」


割とすんなりと頷いてくれるアイーシャ。


プログレム伯爵……というか、跡継ぎのカリオンによって外堀がかなり埋められているのは恐らくアイーシャも知ってるのだろうけど、それでもこうして着いてきてくれるのは好意的な印象を持たれてると思っても良いものか。


自惚れはしたくないし、勘違いをするのもあれなので、あまり深くは考えまい。


「えへへ、じゃあ今日は私とアイーシャさんでエル様を独占できますね」


そう言いながら右腕に抱きついてくるアイリス。


純真な笑みが眩しい。


「そうなりそうね。殿下、ちゃんとレイナ様たちとも時間を作ってくださいね」


そう言いつつしれっと左腕を取るアイーシャ。


右手にアイリス、左手にアイーシャ……珍しい組み合わせかもしれない。


まあ、それはそれとして。


「当たり前だよ。ちゃんと二人とも時間を取るよ」


祖父母もレイナとセリィに会いたがってるだろうし、好きな人は平等に愛したい所存なのでそこは言われるまでもないのだが、そんな俺の言葉に嬉しそうにするアイリスとくすりと微笑むアイーシャはやはり優しいのだろうとしみじみ思う。


「それに、日頃の感謝で今度デートも考えてるから、楽しみにしててよ」

「本当ですか?楽しみです!」

「ふふ、そうですね」


俺が2人と、そんな微笑ましい会話をする傍らで。


「ダーリン、私達もデート楽しみにしてるからね」

「うんうん!トールくんと色々見て回れるの楽しみにしてるね!」

「……うん、楽しみだね」


何がどうしたのか、そうしてデートの確約をされているトールの姿が横目に映るが、あちらの夫婦もおアツいようで何より。


妹の訪問で中断されても、こうしてこちらで盛り上がれば自然とイチャイチャするのだから、クレアとケイトは相変わらず凄いと思う。


トール的には、とりあえず早く二人にピッケに会わせてひと心地付きたいのか、ちょくちょく視線が向けられるけど、もう少し俺としても2人と話していたいのでそれをスルーする。


決して、嫌がらせをしてる訳ではなく、向こうとこちらのイチャイチャを両立させるためだとは言っておこう。


それにしても、天真爛漫なアイリスと少し蠱惑的なアイーシャ……タイプは違うのに不思議と傍にいて違和感のない感じなのはなんとも微笑ましいものだ。

















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