第204話 よく出来た奥さん達

「――という訳でして……その……」


奥さん2人の前で正座をしながらそんな風に事の経緯を説明するトール。


ようするに、近いうちにピッケも嫁になるかもしれないと言っただけなのだが、まるで奥さんに浮気の言い訳でもしてそうなその様子は見ていて実に面白い。


そんな視線に気づいているのか、トールから恨みがましい視線をちょいちょい送られるが……いやいや、俺にはどうしようもないからね?


まあ、2人の顔色を伺いつつ、面白そうに眺めている俺に視線を向けてくるのだから、まだまだ余裕はありそうだが、それにしても二人とも実に静かだ。


この静けさは、ケイトを連れてきた時にもあったように思えるけど……これがデジャブだろうか?


不気味な程に穏やかなので、トールもかってないほどに内心ビビってそうだけど、嫁さんたちに恐怖してるのではなく、その後に待ち受けているであろう愛情の嵐が怖いのかもしれない。


嬉し恥ずかしいことがさぞかし待ってるのだろうが、愛されるというのも中々に大変そうだなぁと思っているとゆっくりとクレアは頷くと言った。


「分かりました。では、ピッケさんにお会いしましょう。ケイトさんもご一緒に行きますよね?」

「勿論です!」

「えっと……でも、クレアはまだ妊娠したばかりだしあまり動き回るのは……ケイトも忙しいかもだし……」


本来なら誤魔化そうとしての台詞にも聞こえるが、これが本心から出てくるのだからやはりコイツは根っからのイケメンなのであろうと自分との差を痛感している中、それを言われたクレアとケイトは実に嬉しそうにトールに抱きつく。


「心配無用だよ、ダーリン。でも、どうしても心配なら……今夜も一緒に寝ようね」


そう囁くように言うクレア。


「私も大丈夫だよ。ありがとうトールくん」


無邪気に抱きつきながらも、クレアに勝るとも劣らない愛情を向けているケイト。


目の前で繰り広げられるイチャイチャは、いつもなら俺も婚約者達とイチャイチャしてスルー出来るのだが、生憎とここはトールの部屋で婚約者は居ないのでそれが出来ない。


妊娠しているクレアの事を考えて、祖父母の屋敷に二人を連れてくるよりもこちらから説明に向かいたいと言われたので屋敷のトールの部屋に来てトールの嫁の二人にこうして説明しているのだが……長くなりそうだし、俺も婚約者を迎えに行こうかな。


予定があって来れなそうだった婚約者達だけど、タイミング良く誰かしらいればという淡い期待もなくはなかった。


せっかくだし、時間の合いそうな婚約者がいれば、

祖父母に会わせようかと思ってトールの意見を採用したので部屋を出ようとすると、必死に助けを求める視線を向けられる。


『殿下!何卒お力を貸してください!』

『えー、面倒臭いから嫌だ』

『お願いします!』


ここまでアイコンタクトで以心伝心出来てしまうのが嫌になるが、わざわざこのイチャイチャに割り込むような真似をするのも気が引けるし、何よりもクレアとケイトとしても、新しい嫁の存在を受け入れるためにこの行為はきっと必要なのだろうと分かるので邪魔をする気にもなれなかった。


トールはイケメンだし、内面も外見もスペックも何もかもが凄いから、この先嫁が増えるのは仕方ないと本人たちも分かってはいるのだろうが、それでもトールを独占したい気持ちを上手いこと消化してる時点で俺としては見事としか言いようがなかった。


そんな心根もトールが好いた相手らしいといえばらしいけど……それにしても、よく出来た奥さん達ですこと。


まあ、俺の婚約者達もその点は凄いんだけどね。


アイリスは出会ってからずっと俺の側で癒しになってくれてるし、レイナも心の拠り所になってるし、セリィのスキンシップも悪くない。


アイーシャも似たもの同士のような不思議な関係を築けてるし、俺は本当に婚約者に恵まれていると思う。


「エル様ー。いらっしゃいますかー?」


そんな風に内心で婚約者の自慢をしつつ、イチャイチャするトールを眺めているとトールの部屋をノックしてからアイリスが部屋に入ってくる。


タイミング良く入ってきた妹に実に嬉しそうな表情を向けるトールだったが、それが俺のさり気ないフォローなのに気づいたようで軽く頭を下げられる。


別にトールのために呼んだわけじゃないし。


俺がアイリスに会いたくて呼んだだけだからね。


……何となくツンデレっぽいが、そんな意図がないことは分かってもらえると思う。


トールのヘルプをスルーして立ち去っても良かったのだが、それをするとこの後に影響も出そうだったので仕方ない。


このままだと明日までトールが拘束される可能性もあったし、別の護衛を連れていくよりも、ピッケとの顔合わせも兼ねて皆連れてく方が手間もなくていい。


なので、程よいタイミングでアイリスに来てもらうように魔法を使っていたのだ。


遠距離から一方的にではあるけど、通信の魔道具なしでもこうして伝えられるのだから魔法とは本当に便利なものだとしみじみ思う。


それなりに難易度は高いし、魔力の効率もあまり良くないのが欠点だけど、こうしてノーモーションで悟られることなく伝えられるのだから、素晴らしいものだ。


















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る