第203話 イケメンの答え

「嫌な訳ないです」


切なさを隠すように微笑むピッケに、トールはそう言い切る。


「ピッケさんの気持ちを聞けて、僕は心底嬉しかったです。そうして想ってくれていたとは知りませんでしたが……その気持ちは凄く嬉しいです」


先程まで俺の前で見せていた悩みようは何だったのかと言いたくなるように清々しく言い切る様子は、ある意味爽快だが……まあ、何にしても、ここでピッケに悲しい顔をさせたくないのは俺としても同感なので黙って気配を消して空気と化す。


「ピッケさん。少しだけお時間をください。僕にはまだやらないといけないことがあるんです。それを終えた時に……貴女を迎えに来ます」


……それ、プロポーズでは?


そう思ったけど、その言葉に瞳をうるませてから、嬉しそうに小さく頷くピッケの様子を見て、そんなツッコミをする野暮は出来ないと何とか空気を継続できた。


『ありがとう……トールくん』

「こちらこそ、ありがとうございます」


そんなふうに微笑み合う二人。


実に絵になるケモ耳美男美女だこと。


早急にこの場を離れたい気持ちが強いのだが、こうして口説きつつも俺が逃げないように上手いこと腕を掴んでいるトールのせいでそれが叶わなかった。


というか、俺本当に邪魔者だなぁ……空気として何とか邪魔しないようにはしてるけど、もう少しこう……俺のような不純物の居ない空間でこのじゃれ合いをしてもいいのでは?と、思ったが、カッコつけてるトール的にはいっぱいいっぱいなのだろうし、仕方ないと諦める。


そうして、カッコよく答えを出した後に、ピッケが部屋を出ると……トールはようやく俺の腕を離してから俺に聞いた。


「殿下……どうしたらいいんでしょう?」


先程のあの懐の深いイケメンぶりは何だったのかと問いたくなるようなそんな様子だが、トールらしいと言えなくもなかったし、答えは出てるので及第点だろう。


「知らんよ。まあ、とりあえずOKしちゃったし、早いとこケイトの方も済ませないとね」

「ですね。それにしても、その……」

「ん?さっきのピッケの本心にドキッとしたとか?」

「言う前に当てないでくださいよ……」


適当に答えたのだが、正解だったらしい。


まあ、気持ちは分かるよ。


普段無口だからこそ、余計にああして本心から話させるとそのギャップが強いのだろう。


にしても、ピッケにあそまでの魔力操作の技術があるとは……魔力で中空に文字を描くなんて、そこそこ魔法が得意でも難しいのだから、祖父母の見る目の正しさは間違いないのだろう。


「とりあえず、奥さん達にも報告しないとだけど……今夜は更にエキサイトしそうだね」

「何でそれを今言うんですか……」

「いや、必然的な未来を予想しただけだし」


トールに奥さんが増えること自体は、トールのイケメンぶりから、クレアやケイトも予想はしてるだろうけど、それはそれとして、そんな素敵な旦那様にますます自分の存在を焼き付けようとするのは容易に想像できた。


愛情も愛情表現も押しの強い二人のことだし、今夜も激戦になるのは必然的な未来と言えた。


幸いなのは、クレアが妊娠中ということで、多少は体力面がセーブできる点だろうか?


何にしても、愛されてるトールの様子を見ると、俺は自分の婚約者達のあのほのぼのと優しい空気が凄く肌にあうと再確認出来たりもした。


「さて、ピッケを奥さんにするのは決まったようなものだし、早速二人を連れて……」

「いえ、それは是非とも待ってください」


かなり食い気味なストップをするトールさん。


「怖いの?」

「ええっと、そういう訳ではないですが……その、もう少しだけ心の準備を」


バトルジャンキー疑惑のあるトール的には、ラブコメパートは嬉しくても体力的にも精神的にも大変なのかもしれないが……これを嫁さんの尻に敷かれてると言うべきは非常に悩む。


夫婦円満というのが非常に妥当だと思うが、それにしてもトールはこれで三人目の嫁さんが出来ることになった訳だし、俺と並んだね。


アイーシャを入れれば4人でまだ俺の方が多いけど……でも、トールなら近いうちに俺を越すだろうし、それによってますます嫁さんたちからの愛が強くなりそうなので、こいつも大変だなぁとしみじみ思った。


まあ、心から嫌がってる訳ではなく、ツンデレ面もなくはないので、このくらい強い愛情で丁度いいのかも。


放っておくと強さを求めて、無理をしそうなトールの手網を上手いこと握れているクレアと、それを支えるケイト。


そして、今のところ一番癒し枠になりそうなピッケとバランスの良い嫁さんたちのタイプは見事とも言えたけど、何にしても……


「5人……いや、10人かな……」

「それは何の数でしょうか?」

「聞きたい?」

「結構です」


子供と奥さん、どっちの数でも有り得そうな数字だが、何にしてもモテる男は大変そうだなぁと俺は見守ることしかできないのが非常に残念だ。


「いえ、残念そうには見えませんが」

「心を読むな、イケメン」

「顔に出すぎですよ」

「それは気をつけないとな」


とはいえ、ここまで見抜けるのはトールくらいだし普段はボロを出てないので大丈夫だろう。


そうして他人のラブコメを傍らで見ていた俺だっだが……後に、自分にも似たような出来事が起こることになるとは知る由もなかった。






















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