第202話 ピッケの気持ち

「殿下、この状況を仕組んだ覚えたありますでしょうか?」

「逆に聞くけど、祖父母に呼ばれた要件から何から俺が仕組んでいた証拠ありそう?」

「……残念なことになさそうですね」


祖父母の家の自室につくと、フカフカのベッドにダイブしたくなる衝動を抑えて素敵な部屋を眺める俺。


そんなワクワクな俺とは対照的に、イケメン様は実に困ったような困惑した表情で俺を疑ってきた。


というか、俺だってこんな事頼まれるとは予想してなかったのだから、仕組むも何もない気がするが……トール的には、俺が原因の方がしっくりくるのかもしれない。


全く、失礼なヤツめ。


「それで、ぶっちゃけピッケのことはどう思ってるの?」

「ストレートに聞きますね……」

「受けるにしても、断るにしてもまずはそこを聞かないとね」


まあ、聞くまでもなく、考えてことすらなさそうな様子のトールだが、まずは本人の口からそこを聞かないと話にならない。


「……正直、好みのタイプなのかもしれませんね」


しばらく考えた末に出た最初の言葉は、予想外のようで、何となく分かっていた答えであった。


「真面目ですし、強くて、優しくて、無言でフォローしてくれる所とかも凄く好感が持てます」

「じゃあ、奥さん追加ってことでOK?」

「……ただ、これまで師のような存在だったので、少し複雑な気持ちもあるというか……」


同じ好みのタイプでも、クレアやケイトとは系統の違う上に、これまでピッケのことは師匠のように思っていたので、色々思うところもあるのだろうが……何にしても、とりあえず祖父母に悪い答えを提示する可能性は低くなったかな?


「それに、ケイトの事もまだご両親に話せてないのに、このままこの話を受けるのは、ケイトやご両親にも申し訳ないというか……」

「んー、じゃあ、とりあえずケイトの両親への挨拶を早めておく?」

「それは勿論なんですが……殿下、面白がってませんか?」

「そんな訳ないでしょ」


本当は少しだけ、トールハーレムの形成をニヤニヤ見守りたい気持ちも強くもあるけど、そんな事は決して口にしない。


「いえ、思いっきり口にしてますから」

「これは失敬」


ついつい言葉にしていたようだ。


「じゃあ、前向きに検討でOK?」

「……でも、ピッケさん自身の気持ちもありますでしょうし、ピッケさんが断ったら仕方ないですよね」

「あの様子を見て断るとでも?」

「……ですよねぇ」


そんな事を話していると、部屋のドアがノックされる。


返事をすると、入ってきたのは件の話の人物のピッケであった。


「……さて、少し外で日課の素振りでもしてこようかな」

「いえいえ、殿下。それは後で僕も付き合いますので今は大丈夫でしょう」


二人きりにしようと立ち上がった瞬間に絶対に離せないのに何故か全く痛くない力でトールに掴まれて離脱する機会を逃してしまう。


この状況で2人きりはトール的には早かったのかもしれないが……だからといって俺がここに居てもいいのかは悩んでしまう。


『トールくん。さっきはごめんなさい』


そんな事を思っていると、中空に魔力で文字を描くピッケ。


凄いな、そこまで魔力量は多くないのに、上手いこと魔力をコントロールして文字を描いてる。


「いえ、こちらこそ、突然の事で戸惑ってしまいすみません」


俺がその技術の高さに感心していると、トールの方は驚きから何とか立ち直っていつものイケメンスマイルで答える。


『さっきの旦那様達の話なんだけどね……私がトールくんのこと、特別に思ってるのは本当なの』


いつも無口なピッケが、魔法による文字での会話とはいえ話している様子は新鮮だが、その内容は実に俺がここに居ていいのか更に悩ませるものにも思えた。


『私、これまであんまり男の人に興味がなくてね。旦那様や奥様達もその気持ちを分かってくれていたんだけど……ただね、奥様が坊っちゃまやお嬢様を育ててるのをみて、ずっと子供が欲しかったの』


坊っちゃまやお嬢様……父や叔父叔母とかの事だろうか?


あるいは、孫である俺たちも含まれるのかもしれないな。


『夫婦になるなら、私はトールくんがいいなって思って……トールくんの子供なら、私は産んでもいいと思えたの。トールくんからしたら、迷惑かもしれないけど……旦那様達のお願いは凄く嬉しかったの』


紛れもない本心の言葉にトールは何も言えずに押し黙る。


『トールくんのこと、困らせたくないの。トールくんはこれからきっと伸びる。だから、大人として見守りたい気持ちもあるんだけど……不思議とトールくんのこと、男の人として意識してるの。変だよね、ずっと年下のトールくんのこと、そんな風に思うの。でもね、トールくんの真っ直ぐなその様子に私は凄く惹かれたんだと思うんだ』


偽りのない、本心からのそんな言葉は、普段の彼女の大人しい無口な様子から想像できないくらいに深い愛に満ちていたようだ。


『旦那様達のお気持ちは凄く嬉しいんだけど……でもね、それと同じくらい、好きな人を……トールくんを困らせたくないの。だから、もし、嫌だったら遠慮なく断って欲しいの』


そう微笑むピッケは、どこか切ない気持ちを隠すように微笑んだように思えた。


優しく、相手を慮っての好意からのそんな言葉に……しかして、答えない訳ないのがウチのイケメンさんであった。












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