第201話 祖父母の頼み

「さて、エルダートよ。わざわざ来てもらったのには理由があってのぅ」


しばらくして落ち着いた頃合に、そんな事を言う祖父。


「エルちゃん……というか、トールくんへのお願いになるかしら?」

「うむ、そうじゃな」

「私……ですか?」


突然の指名に首を傾げるトールだけど、俺としては先程のピッケの様子と、祖父母の反応から何となく何を頼まれるのか察していので続きを待つ。


「うむ、とはいえ、お主の主はエルダートじゃ。じゃから、エルダートへの頼みとも言える」

「可愛い孫に会いたい気持ちと同じくらいに大切なお願いなのよ」


俺と会うのを大切に思ってくれてるのは非常に嬉しいので、話を聞く前に二つ返事をしそうになるけど、そこは何とか堪えた俺は頑張ったと思う。


「それで、そのお願いとは?」


そう聞くと、祖父はゆっくりと視線をトールに向けてから真面目な表情でそれを言った。


「トールよ。ピッケを妻として迎えては貰らえぬか?」


あー、やっぱりそういう頼みかー。


何となく予想出来ていたので、俺にはそんなに驚きはなかったけど、流石にトールは察してすらいなかったからか、非常に驚いており、いつものように表情を隠すのが少し遅れている始末であった。


とはいえ、驚いたのはトールだけではなかったようだけど。


「……!」


ほとんど表情を変えないピッケが実に分かりやすく動揺している。


このトールへの結婚話は、ピッケからの頼みではなく、祖父母のお節介と見るべきだろうか?


それにしても、トールのやつ、落ち着いてきたら真っ先に俺の方を見て『殿下、また何か仕込んでましたよね?』と疑うような視線を向けてくるのは失礼極まりないと思う。


俺が今までにそんな事をした事……なくもないけど、クレアもケイトも不可抗力なので、そこはノーカンでいいと思う。


「……それは、ピッケさんも了承済みということでしょうか?」


分かりやすく動揺しているピッケを見てもそれを聞けるのだから、トールのやつ、案外冷静なのかもしれない。


「いいや、これはワシらのお節介じゃよ」

「ええ、トールくんになら、ピッケを任せても良いと思えたから頼んでるの。ピッケもトールくんのこと、気にしていたしね」


その言葉に顔を真っ赤にするピッケ。


その様子は、まさしく恋する乙女のようで、トールのことを意識してると判別するのに十分と言えたので、流石にトールもピッケが自分に好意を向けてると気がついたようだった。


「ピッケは要領もよく、美人でスタイルもいい。亜人であるお主となら良き夫婦になれるじゃろう」

「それに、二人がくっついてくれば、エルちゃんがここに来る理由の一つが増えるから、私達の我儘も入ってるのよ」


そんな事を言う祖母であったが、控えめで強調しない大人しいピッケの気持ちを優先した結果というのは何となく分かった。


ピッケを昔から知っており、この歳までピッケに相応しい相手を見つけられなくて、思うところもあったのかもしれないが、トールになら任せられると思ってくれたのだろう。


きっと、ピッケだけならその気持ちを心にしまって終わっていた可能性もあるからこそ、こうして無理矢理にでも話を持ち出した祖父母は……本当に、心からピッケの幸せを願っているのだろう。


まあ、トールからしたら、突然の話に驚きが強いのかもしれないが……俺としては確かに相性的な意味でも良さげだし、上手くいくようにも思えた。


「どうかしら?考えてもらえる?」

「すぐに返事をしろとは言わぬが、ピッケを少しでも意識するのであれば、考えてくれると有難いのぅ」


祖父母の優しくも強いお願いに、トールはしばらくしてから何とか言葉を口にする。


「……すみません。少し殿下と話す時間をください」


……俺に話してどうするよ?


そう思わなくもないが、とりあえずトールとしては俺と話して気持ちを整理したいのかもしれない。


「うむ、ついでじゃから新しく作ったエルダートの部屋を見てくるといい」

「ええ、素敵に仕上げたから自信作よ」

「分かりました。ありがとうございます」

「ああ、それとじゃ」


なんて事ない、世間話のついでのように、祖父は言う。


「お主の他の妻との序列は乱さないとだけ言っておく。その上で一人の女性としてピッケをどう思うかを聞こう」


不思議なくらいに、威厳のある声でそんな事を言う祖父だけど、祖母も同じ気持ちなのか、期待するような視線を俺に向けてくる。


いやー、俺としては断る理由もないし、ピッケだったら知ってて安心だからトールの妻として迎えるのも悪くないと思えるけど……とはいえ、流石にトール自身がきちんと決断しないと答えはすぐには出せないよね。


とはいえ、トールに断る選択肢があるのかは不明だが……イケメンとはかくも大変な生き物なのだろうと思いつつ、祖父母の視線と、赤くなってあわあわしている何とも可愛らしい乙女なピッケを残してトールと祖父母の自室を出るのであった。


あれだね、人の結婚話ならこうして落ち着いてきけるあたり、俺も割とミーハーで野次馬根性もあるのかもしれないなぁと、しみじみ思った。

















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