第199話 風呂上がりの一杯

「うむ、牛乳とはやはり美味しいものじゃのぅ!」


腰に手を当てて、風呂上がりの一杯を満喫する祖父。


飲んでいるのは、近くから定期的に仕入れられるようになった牛乳だ。


なお、この風呂上がりの一杯を満喫するスタイルは、俺がやってるのを見て祖父が覚えたようで、気がつければそれが祖父の中では一種の当たり前の作法になっていて、少しびっくりした。


「こちらのフルーツ牛乳も美味しいですよ」


そして、そんな祖父に微笑みつつも、上品にフルーツ牛乳を飲むのは祖母であった。


祖父のような豪華な飲み方ではなく、いつもの上品な飲み方で飲む祖母は風呂上がりもあってか、実に絵になる。


そして、そんな二人と居ると霞んでしまう俺は本日も風呂上がりの一杯である、故郷のオアシスの水を飲んで一息ついていた。


やっぱり、故郷の味は素晴らしいものだなぁ……これこそ、きっと愛国心というのだろうと、少し変な方向性の思考をしてしまうが、これを守るために出来ることは何でもやれるかもしれない。


まあ、その前に家族のためにシンフォニア王国とダルテシア王国は死んでも守るけどね。


大切な人達が居る場所を守れるなら、俺に出来ることは何でもする。


とはいえ、俺は魔法が少し得意なくらいなので、そうそうそんな事態は起きないだろうけど、その場合はウチの騎士のトールさんの出番だろう。


トールなら、例え相手が宇宙人でも、古代龍でも、死者の亡霊や怨念だろうと剣一つで叩き潰す姿が目に浮かぶよ。


きっと、肉体のない相手とか、上位の神様とかでも素手ではっ倒せるだろうし、一家に一台トールだよね。


まあ、家電感覚でポンポン各家庭にトールが居たら、きっと世界のバランスが崩れるから我が家だけで良いのかもだけど。


「そうじゃ、エルダートよ。この前部屋を作っておいたから、今度からは気兼ねなく泊まっていくと良い」


そうして、風呂上がりの一杯から思考が逸れつつある俺だったが、そんな祖父の言葉に思わず首を傾げそうになる。


はて、部屋を作ったとは如何に?


「ええっと……それって、父様や兄様達みたいな私室ですか?」


この屋敷には、父様や兄様が来た時に使える専用の部屋を事前に用意していたが、これまでは俺の部屋はなかったので恐らくそれを作ってくれたのだろうと何とか理解する。


でも、父様や兄様は専用の部屋があっても違和感ないけど、俺に作る意味はあるのだろうか?


客室でも全然良いのだけど……


「うむ、如何にも」

「エルちゃんがもっと頻繁に来てくれるように、私達が考えて決めたのよ。エルちゃんが一番色んな場所に行けて来やすいし、別荘代わりにでもちょくちょく来てちょうだい」


流石に祖父母の家を別荘代わりに出来るような器の大きさはないけど……嬉しいことには変わりないので、感謝を伝えるのは忘れない。


「そういう事でしたら、是非に。ありがとうございます。でも、お祖父様やお祖母様に会いに来る事の方が多そうです。お二人の顔が見たいですから」


そう言うとまたしても二人に撫でれれてしまうが……今日だけで何回撫でられたのやら……。


嫌なわけなく、むしろ嬉しいけど、俺も愛でられる側から、愛でる側への意向を推奨したいところ。


ギリギリ子供の範囲だろうけど、それでも婚約者たちの手前もあってカッコよくなりたいという思いは強くなるので、頑張りたいところ。


「お祖母様、髪の毛乾かしますね」

「ええ、ありがとう」


落ち着いたところで、魔法で髪を乾かしてから整えるけど、本当にサラサラした綺麗な髪だなぁ……俺と似てるなんて、本当におこがましい気持ちになるくらいに祖母は上位の存在であった。


「これも好きな子達にやってあげてるのかしら?」

「正確には、こっちが今のところメインですね」


実家に居た頃は母様や姉様達にしてあげていたけど、ダルテシアの屋敷では婚約者たち全員の風呂上がりの髪の手入れを俺がしていた。


魔法で素早く乾かせて、髪型も多少イジれる俺が適任なのと……あとは、婚約者たちとの触れ合いの一種にしているからだ。


こうして髪を乾かして、整えるのは、今世ではやはり心を許した人や信頼出来る使用人関連の人になるので、ここの触れ合いは重要とも言えた。


まあ、婚約者の髪を乾かしているのは話を聞く限りでは俺くらいのものだけど。


魔法を使えない人だっているし、そもそも同性の使用人のお仕事になりやすいからだろうけど、我が家では俺がしてあげると婚約者たちが凄く喜ぶし俺も是非にやりたいのでやらせてもらっていた。


アイリスの綺麗な水色の長い髪も、レイナの輝くような綺麗な長い金髪も、セリィの短めのライトグレーの髪も三者三様で実に素晴らしい。


そういえば、この前お泊まりとか言って、泊まっていったアイーシャもお風呂上がりに婚約者達に混じって髪を触らせて貰ったけど、紫の綺麗なショートヘアで癖もなくて中々良かった。


「エルちゃんは天然であの子たちを虜にしてそうねぇ」


俺が髪を乾かして、整えるとそんな感想を漏らす祖母であったが……その言葉の真意は俺には分からなかった。


まるで、スキンシップで虜にしてるようにも聞こえるけど、そこまで計算高くないので、そこだけは誤解なきように。



















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