第198話 孫の気持ち
祖父の背中を流すと、今度は俺が祖母に頭を洗われる。
慣れたような手つきだけど、どことなく母様や姉様を思わせるようなそんな優しい手つきに身を任せることしばらく。
「エルちゃんは、前髪あげても似合うわね」
気がつけば、俺は祖母の玩具になっていた。
色んな髪型にされるけど、そんなに長くないからバリエーションが増えなかったのだけは良かったのかもしれない。
「ふむ、やはりこうして見ても、若い頃のお前にそっくりじゃのぅ」
「あら?今は似てませんか?」
「そんな事はないぞ。じゃが、昔よりも更に魅力的になっておるから、エルダートの歳ではまだまだ届くまい」
何だか、今世では家族のイチャイチャをよく目にする機会が多い気がする。
前世では俺とは勿論、それ以外でも家族間で会話があったかどうか定かではない……というか、静かに部屋に押し込められている俺にすら滅多に声が聞こえないくらいに静かな家だったし、聞こえてきた声も大抵が罵声や言い争い、そして憂さ晴らしに俺への嫌みやら何やらだったので、それと比較すると本当に仲良しな夫婦が多いこと。
まあ、前世はカウントしたくないけど、今世では仲良しな部分をいっぱい見れて、俺にも愛情を向けてくれるので、本当に有難い。
「……おっと、エルダートよ。すまんのぅ。ついつい話が逸れてしまって」
微笑ましく祖父母のやり取り見守っていると、祖父が俺の視線に気がついてそんな事を言う。
「そうね、アルバスも呆れてたわよね。自分もお嫁さんとイチャイチャしてるのに」
「あやつも嫁には甘いからのぅ……何にしても、こんなジジイとババアのやり取りなんぞ退屈じゃろう」
「いえ、むしろお二人が仲良しなのが嬉しいです」
これは本心からの言葉だけど、家族が仲良しなのを見るだけで、俺としては凄く幸せになる。
「俺も、好きな人たちとお祖父様やお祖母様のように、いくつになっても好きあえるように頑張りたいです」
そう言うと、二人は驚いたように顔を見合わせてから、優しく微笑んで俺の頭を二人で撫でた。
「あー、もう、エルちゃんってば本当に素直で良い子ね。他の子も皆アイシャさんに似て良い子だし、私たちは孫に恵まれてるわね」
「そうじゃな。特にエルダートは幼い頃から頑張っておって、祖父として本当に誇らしいものじゃ。それに、こうして真っ直ぐに育って将来は良い男になるじゃろう」
あのぅ……急にべた褒めは止めて頂けたらと……。
嬉しいけど、今世になってから初めて褒められるようになった俺はまだまだ褒められ慣れてないので、不意打ちではかなり心臓に悪く……いや、別に嫌な訳では無いし、凄く嬉しいんだけど、個人的には褒められるようなことは何もしてないので、どうしても困惑してしまうんですよねぇ……。
「レイナちゃん、アイリスちゃん、セリィちゃんに……あとはまだ会ったことがないアイーシャちゃんね。あの子たちがエルちゃんを好きになったのも、見る目があったのねぇ」
「そうかもしれんのぅ。良い娘達がエルダートを支えてくれることを願うとしよう。ワシらも出来るだけ長くは生きたいが……その時間が足りるかは神のみぞ知ることじゃからの」
まだまだ現役バリバリで若々しい祖父母だが、人間である以上、いつかは寿命というものがやってくる。
考えたくはないけど……俺が不慮の事故とかで死なない限り、祖父母を見とることにはなるだろう。
これまで漠然としか考えてなかった死という概念が身内に訪れた時、はたして俺は平静で居られるだろうか。
きっと、初めて失うことに色んな気持ちになるとは思うけど、それまでの思い出が消えることは無い。
だからこそ、前を向くと共に祖父母が褒めてくれた自分でありたいものだが……それはまだまだ先の話としておきたい。
無論、その覚悟は必要だろうけど、普通に考えれば祖父母の様子からずっと先とも言えるので、もう少しだけ準備や考える猶予はあるともいえる。
とはいえ……
「俺は、お祖父様とお祖母様が大好きです。だから、俺に子供が出来るまでは……いえ、出来ても長生きて欲しいです」
そう、心からの言葉が思わず口に出ると、祖父母はそれに対して優しく微笑んでから頷いた。
「無論じゃ。曾孫を見るまでは死ねぬよ。のぅ?」
「ええ、エルちゃんの結婚式楽しみにしてるわね。あと、曾孫も早く顔を見たいわね」
そんな風に和やかなお風呂になったのだけど、相変わらず祖父母は元気そうなので、そこは凄く安心できた。
にしても結婚式に曾孫かぁ……俺も頑張らないとなぁ。
あと数年の猶予はあっても、婚約者たちとはもっと仲を深めたい。
帰ったらまたイチャイチャしようと心に決めつつ、祖父とサウナに入ったり、祖母にお酌したりとお風呂を満喫したけど、俺もこうした見晴らしの良い場所に別荘を作るのも悪くないかもしれないとは思ったのだった。
外からは見えないように対策を万全にして、景色を楽しめるお風呂を作る……凄くやり甲斐がありそうでワクワクするよね。
色々やる事が再確認できるたし、祖父母に会いに来て心底良かったと思ったが、今度はやはり婚約者たちも連れてこようとも思ったのは間違いない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます