第195話 久しぶりの祖父母

シンフォニア王国とエグゼビエンス王国の中間にある、大きな山脈。


その見晴らしの良い丘に祖父母の隠居している屋敷はあった。


わざわざ、街道を整備して、人の行き来が出来るようにしているのだが、シンフォニア王国とエグゼビエンス王国との街道の整備に時間や費用が掛かるのを見越したように、その場所に隠居後の屋敷を構えた祖父母は何気に凄いと思う。


建前は、『豊かな老後のための年寄りの我儘』だそうだけど、両国の繁栄と、息子である父様や、エグゼビエンス王国へ貸しを作るのも忘れないあたり、切れ者だよね。


そんな祖父母の屋敷には何度か来てるので、空間魔法の転移で屋敷の前に飛ぶと、相変わらずの見晴らしの良い大きな屋敷に思わず呟く。


「やっぱり、今度は婚約者達も連れてきたいものだ」

「是非ともそうしてあげてください」


祖父母も婚約者達のことを気にしていたし、トールとしても妹と俺が仲良しなのは安心するのか肯定した。


「トールも嫁たち連れてきたら?俺の婚約者のお世話って名目で」

「それもいいですが……殿下のお世話ではないんですね」

「そりゃ、あの二人は婚約者とトール専門だもの」


俺のお世話に関しては名目的にそういうことにすることなくはないが、実務はほとんど一切ないと言えた。


俺としても、トールの嫁たちに自分のお世話をさせるのはなんかしっくり来ないし、婚約者の相手とトール専門の方が良いだろうという気持ちが強かったのだ。


それに、俺のお世話に関してはメイドよりも婚約者達がやりたがるような素振りが強いので、そちらの方が皆Win-Winであろう。


「エルダート様。お待ちしておりました」

「やあ、ビスカム。お祖父様とお祖母様は?」

「ご在宅です。こちらへ」


屋敷に入ると、執事のビスカムがいつも通り祖父母の元に案内してくれる。


一番眺めの良い、中央に二人の私室はあった。


「旦那様、奥様。エルダート様がお見えです」


そうビスカムが確認を取ると、直ぐに部屋へと通される。


広い室内には、俺の祖父母と、祖父母のお気に入りのメイドである亜人のピッケがおり、入ってきた俺たちに視線が集まる。


「おお、エルダート久しぶりじゃな。また大きくなったか?」

「お久しぶりです、お祖父様、お祖母様」

「ええ、久しぶりねエルちゃん」


柔和に微笑む祖母のエレノアールは、俺と同じ真っ白な髪と真っ白な肌の素敵なご婦人であった。


綺麗に歳を重ねたような素敵な祖母に対して、祖父のアルダンドルは父様が更にカッコよく歳を重ねたような渋くてカッコイイ、まさに紳士といった様子でありながら、俺には実に優しい笑みを浮かべてくれるそんな祖父。


二人とも変わりないようで少し安心しつつ、俺は手土産をいくつか渡してから、父様からのお土産のお酒も祖母に渡した。


「あら、アルバスったらちゃんと覚えてたのね。これが凄く美味しいのよ――あなたも飲みます?」

「ワシは飲めんからのぅ。いつも通りピッケと飲むといいじゃろう」

「――という訳で、今夜もお願いね、ピッケ」


祖母のその言葉にぺこりと頷くピッケ。


あまり話すタイプではないのだが、その仕事ぶりは一人で屋敷を管理できるようなとんでもないレベルなので、流石は祖父母の一番信頼している侍女であると感心していると、祖父は「ごほん」と咳払いをして言った。


「さて、わざわざ来て貰ってスマンのぅ」

「いえ、丁度お祖父様とお祖母様のお顔が見たかったので、むしろ良い機会でした」

「そうか?相変わらず優しい子じゃのぅ」


息子である父様にはそこそこ厳しいけど、俺たち孫にはダダ甘な祖父は俺の言葉に実に嬉しそうに笑みを浮かべる。


普通の笑い方さえも、渋くてカッコイイとか反則的なイケメンぶりだけど……俺もこの境地を目指したいものだ。


「とりあえず、要件は後にしましょうか。折角来てくれたのだし、私はエルちゃんの話を聞きたいわ」

「そうじゃな、ワシら年寄りはそうそう変わらんが、子供たちの成長は早いからのぅ」


そう言いながら二人は隣合っていた近い距離の真ん中に、少しだけスペースを作る。


「エルちゃん、ほらほら、こっちに来て」

「遠慮せんでおいで」


……ああ、なるほど、二人の間に座れということですか。


「分かりました」


祖父母と話すのに便利だし、俺としてもその程度で恥ずかしいこともないので素直に座ると、近くではトールが顔なじみの使用人さん達に挨拶してから、ピッケに軽く黙礼する。


まるで、弟子がきたかのような師匠の風格を見せてトールに頷くピッケだけど、ピッケは戦えるメイドさんなのでここに来る度に、何度か稽古を付けてもらっていて仲良くなったのだろう。


「さて、確か報告だと新しい婚約者が増えるかもしれないのよね」

「そうじゃったな。その子の話も聞きたいのぅ。レイナ達も元気そうか?」

「ええ、皆元気ですよ。また今度連れてきます」


そこからは、今世で初めて出来た祖父母にあれこれと近況を話すけど、二人とも優しく聞いてくれるので凄く有難い。


祖父母が居る……というのは前世から考えると不思議なものだけど、おじいちゃん子やおばあちゃん子が居るのも頷けるような、そんな素敵な人達に恵まれて良かったと心底思えるので嬉しい。















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る