第194話 イケメンの覚悟

翌日、俺はトールを連れて、隠居している祖父母の元へと向かっていた。


婚約者達も会いたがっていたけど、本日は予定があり難しいのでまたの機会となった。


「殿下、ケイトの両親へと挨拶についてなんですが……」


折角だし近くのお店で買い食いでもと思っていると、珍しいことにトールからそんな言葉が飛び出てくる。


「なんだなんだ?惚気とかかな?」

「違いますよ。近いうちに連れてって貰えませんか?」

「いいけど、急にどうしたの?」

「いえ……その、挨拶しないといけないと思っただけですよ」


そんな事を言うトールだけど、その表情に僅かばかりの焦りに近いものもある気がする。


「もしかして、婚前でケイトに手を出したことで罪悪感でも募ってるとか?」

「なんで知ってるんですか……」

「そりゃ、本人から聞いたし」


ケイトが嬉しそうに話してくれたのをしっかりと覚えているのだが、この世界の価値観的には、婚前交渉も上位の階級でもない限りはそんなに厳しくはないのだが、真面目で責任感のあるトールは、ケイトのお願いとはいえ、婚前にそういう事をしてしまったので、早いことご両親に許可を貰いたいのだろう。


「でも、珍しいな。クレアの猛攻にも耐えきったのに、ケイトのお願いでころりと手を出すなんて。昔の罪悪感とか、クレアの後押しもあったからかな?」

「……見抜きすぎてて怖いです、殿下」

「俺だって分かりすぎて怖いよ」


なんだってこやつの事がここまで分かるのやら……これが腐れ縁というやつなのかもしれないけど、アイリスとの縁も運んでくれたので、一概に悪いとも言えないのが何とも言えない。


まあ、こんな性格だからこそ、ああしてアイリスが真っ直ぐに育ったのだろうし、その辺は感謝しなくもない。


「……自分でも、不思議なんですが、どうにも二人のお願いを断れないんです。それが嫌じゃないので尚更不思議なんですが……」

「それだけお前が惚れ込んでるってことだろ?」

「そうなんでしょうね……何にしても、僕はクレアもケイトも幸せにしたいと思ってます。だから、先にケイトのご両親にはきちんとご挨拶をしておきたいんです。末永いお付き合いになりますから」


非常にカッコイイのだが……俺の前でカッコつけられてもねぇ……。


「その調子でもう少し嫁たちの前でもカッコつけたら?」

「それをした後の結果を知ってるので、非常に悩んでます」

「まあ、そうだろうね」


好感度がカンストしている二人の前で更にカッコつけたら、ますますイチャイチャはハードになるだろうし、いくら惚れてても、トールの本来の真面目さと固さと乙女ハートからしたら、あっという間に許容量を超えてしまうのだろう。


それでも、溢れ出した分を零さないあたり、こいつも楽しんでそうだけど……何にしても、愛されすぎてるトールらしいといえばらしいか。


「何にしても話は分かったよ。じゃあ近いうちに予定空けておくよ」

「ありがとうございます」

「にしても亜人の集落か……ケモ耳の人達の楽園とは非常に楽しみだなぁ」

「それ、心の声でなくて大丈夫ですか?」


おっと、口に出していたか。


「でも、心配無用だ。俺の中のナンバーワンにしてオンリーワンうさ耳はアイリスだけだから」

「いえ、それを兄である僕に言われても……アイリスに言ったらどうですか?」

「言ったら可愛い表情を見れそうだけど、それはそのうちかな。変人に思われるかも」

「皆知ってることなので大丈夫かと」


失礼なヤツめ。


まあ、自分でも多少おかしいのは自覚してるけど……何にしても、亜人の集落には行ったことがないので凄く楽しみでもあった。


「……そういや、お前は大丈夫なの?」

「何がです?」

「向こうに行ってだよ。良い思い出だけじゃないだろ?」

「……大丈夫です。僕は一人じゃありませんから。殿下の騎士である今の僕なら問題ないです」

「ならいいけど」


聞く限り、亜人絶対主義者なのはトールの父親とその周辺だけのようだし、そのトールの父親は既に居ない。


トールとケイトの話からある程度予想できる範囲で考えると、どうやらその亜人絶対主義者達は全体で見ればそれ程多くないし、声が大きい変わり者のような集まりみたいだ。


その割には派閥争いも活発みたいだし、実際に動くようなタイプよりも、口先だけの連中が多いみたいだし、トールが向こうに行って手を出すような間抜けは少ないと思われるが、何にしても俺が入るためには亜人になりきる事も必要になるかもしれない。


「トール、うさ耳の俺はどうだろうか?」

「率直に言って、微妙かと」

「アイリスとペアルックになれるからアリだろ?」

「その理屈だと僕ともペアになりますが……」

「そこは妹の幸せを考えて耳を隠すか変えてくれ」

「無茶言いますねぇ……」


実は亜人の集落に興味津々な俺の内心を見抜き切ってるように苦笑するトールだけど、向こうに行ってケイトのご両親に会ってケイトを娶る覚悟は出来てるようなのでとりあえず合格かな?


近いうちに連れていくことを約束しつつも、うさ耳の自分との親和性の低さに思うところがありつつ、気分直しにご当地の湧き水で満足する。


水はいいなぁ。











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