第193話 ちょっとした思い出話

「水鉄砲ですかー、懐かしいですねぇ」


何だかんだとお隣のアストレア公爵家に行った後に、あれこれと忙しなく動いていると時間は過ぎていき、俺は本日の疲れを癒すために婚約者達と夕食を共にしていた。


トールは妊娠した嫁とこれからする嫁の相手が本日も中々ハードそうだけど、昼間の水鉄砲での恨みを忘れてない俺は実に良い笑みで送り出したけど、あくまで善意なのでそこは勘違いなきよう。


アストレア公爵家での事を話していると、当然フリードにプレゼントした水鉄砲にも話は行くので、存在を知っているアイリスが何とも楽しげに言うと残りの三人(本日もしれっと居るアイーシャ含む)が首を傾げた。


「……主、水鉄砲ってなに?」

「私も知りません」

「私もです」


実物を見ないとしっくり来ないかもしれないので、俺はその疑問に答えるべく空間魔法の亜空間から水鉄砲を取り出すと、分かりやすく実演をして見せたが、無論部屋を汚さないように撃った水を魔法で回収するのは忘れない。


トール曰く、この技術だけで魔法使いとしての圧倒的な差が分かるとか言っていたけど、流石に大袈裟だとは思う。


頑張れば出来る魔法使いは居るだろうし、やはりそこは個人の頑張りによると思うんだ。


「面白い玩具ですね」


特に水鉄砲に興味を持ったのは、アイーシャのようで、試し打ちする度に俺が水を回収する事にはなったけど、これの面白さを知れば仕方ないと分かっているのでその辺は察して動く。


「お兄ちゃんが凄く上手でしたよね〜」

「アイリスも上手かったよ」

「そうですか?」


うん、マジで熟練の狙撃手なんじゃないかと思えるような正確無比な射撃の腕を持っていると当時は驚いたものだ。


うさ耳癒し系美少女がスナイパー……ギャップでますます惚れそうだけど、とりあえず今再選しても当時と同じ結果になりそうなのは昼間のトールとの戦いで分かっているので、そのうち越えよう。


「アイリスさんは多才ですね」

「そ、そんな事ないですよ〜。レイナ様の方が色々出来て凄いです!」

「……二人とも、どっちも凄い」

「そうですね。流石は皆さん殿下のご婚約者ですね。好きな殿方の隣に居たいその乙女心が凄いです」


……あの、アイーシャさん?それを本人の目の前で言うのはどうかと……


現に、初心なアイリスとレイナが照れてしまっているし、セリィも……いや、セリィはいつも通り気にせず水鉄砲をいじってるな。


「そういえば、一番昔から殿下のお隣に居たのはアイリスさんなんですよね?」

「は、はい……そうです」

「その後がレイナ様、そしてセリィさんと」

「エルダート様に救っていただいたから、私はここに居られます」

「……主と出会えたの運命」


ナチュラルな人達ばかりが居るこの場において、恐らく俺とアイーシャが最も俗に近いのだろうけど、にしても相変わらず上手いこと場をコントロールするものだなぁ。


「殿下は昔からこんな感じなんですか?」

「えへへ〜、エル様は昔から凄くかっこよくて、優しかったんです!」

「確かに、昔からエルダート様は素敵な殿方ですね。年々更にカッコよくなられてますし……」


無邪気に笑みを浮かべて答えるアイリスと、頬を赤くしてチラッと俺を見るレイナ。


ハッキリ言おう――可愛すぎると。


「……主、最近ますます美味しくなってる。私はもう主にメロメロ」


二人とは違い、表情にはあまりでないセリィだけど、俺には分かる。


心からうっとりしてる表情なので、本当に俺の血は年々美味しくなってるようだ。


というか、しれっとメロメロって言われるのは照れるなぁ……


「良いですね。私ももっと前から殿下のこと見ていたかったです」


そんな独特の様子の三人に微笑みつつ、アイーシャがポツリと言った言葉は……多分、本物だろうと俺は直感で感じた。


まあ、昔というほど歴史を重ねてないけど、確かにもっと小さい頃の事を自分だけ知らないのは少し寂しいのかもしれない。


「じゃあ、これからはアイーシャも俺のことちゃんと見ててよ。俺もアイーシャのこと見てるからさ」


そう言うと、アイーシャは驚いたような表情を浮かべてから、くすりと微笑んで言った。


「口説くのがお上手ですね」

「本心しか言ってないよ。少なくとも気を許してる人にはね」

「では、私は殿下の懐に近いのかもしれませんね」

「それは間違いないかな」


そこから、アイーシャがあれこれと三人に昔の俺のことを聞き出したのだけど、褒めちぎる三人の言葉に俺が照れてしまったのは仕方ないだろう。


にしても、アイーシャもすっかり俺の婚約者達と仲良くなったよなぁ……そう思ってから昼間のジーク義兄様の言葉や最近のあれこれを思い出して、少し考える。


(近いうち……アイーシャの気持ちも寄り添ってくれるようなら、その気持ちには答えるべきかもしれないな)


外堀を順調に埋められているけど、アイーシャも満更でも無い様子に見えなくもないし、その辺はアイーシャの気持ち次第だけど、俺としてはアイーシャなら良いという気持ちにはなりつつあった。


まあ、婚約者達にも相談はするけど……何にしても、四人になった食事も悪くないので、アイーシャとは今後も仲良くしたいものだ。

















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