第192話 水鉄砲
「なるほど、水を押し出して遠くまで飛ばすか……面白いね」
水鉄砲を見ながら、何とも楽しげに微笑むジーク義兄様。
「エルは本当に面白い発想力を持ってるよね」
「いえ、たまたまですよ」
前世の知識がなければ、俺のような凡人がこの神のごとき玩具の水鉄砲を思いつく訳もないのでそう言うとジーク義兄様はトールにやり方を教わって楽しげに撃ち合っているフリードを見て言った。
「何にしても、玩具としては凄く楽しめそうだし、フリードも喜んでる。ありがとう」
「いえ、ただ服が濡れるのでその辺はご注意を」
「心配ないよ。子供はすぐに大きくなるから、新しい服を用意する楽しみもあるさ」
「そうね」
水鉄砲を手に走り回るフリードを見ながら、夫婦仲良く子供の様子を見守るその姿はかなり絵になっており、正直俺がめちゃくちゃ邪魔者にしか思えなかった。
なお、そんな中に置いても自然に溶け込んでるウチの騎士トールは相変わらず異常なくらいにイケメンなのだが、そのトールはフリード相手に実に上手いこと手加減して水鉄砲で遊んであげていた。
俺の時にはまるで手加減をしなかった癖に、フリードにはちゃんと手加減して当ってあげてる辺り、意外と子供好きなのかもしれないなぁと思っていると視線があう。
『殿下よりお強いですよ』
『黙れ、イケメン』
目と目でそんなアイコンタクトをするけど、俺よりも上手いのは事実なので後で素直に甥を褒めることにしようと思っていると、ジーク義兄様がポツリと言った。
「しかし、これは武器にも転用出来そうなアイディアだね。今のところ誰かに売ったり渡したりしたのかな?」
「いえ、個人的に楽しんでいただけで、家族やシンフォニア王国の王宮の限られた使用人しか知りませんよ」
そういえば、これを見た時に父様に同じようなことを聞かれたなぁ……なんて思っているとジーク義兄様は少し考えてから頷いて答える。
「なら、そちらは義父上と義弟くんに任せるとしようかな。売る時には絶対に私たちに相談してくれるかい?」
「ええ、勿論です」
「ありがとう。すまないね、色々と制約をつけてしまって」
そうナチュラルに言えてしまうところが、ジーク義兄様達の凄いところだよね。
大人ってもっと心の内が汚いものだと前世では思っていたので、俺としては将来はそういう大人ではなく、目の前に居るような大きな存在になりたいものだ。
「いえ、お気持ちは分かりますから。俺はまだまだ知らないことが多いので、是非ともご助言お願いします」
「エルは本当に素直だよね」
「可愛いでしょ?」
「うん、自慢の義弟だね」
そう言って頂けるのは嬉しいのですが……あの、二人揃って微笑みつつ俺の頭を撫でるのは何故なのでしょう?
これでは、俺が二人の子供のように見えてしまうし、フリードだって嫉妬……いや、ダメだ、こっち見てない。
その実子のフリードはトールと楽しく水鉄砲って遊んでおり、こちらを見てないのがせめてもの救いかな。
まあ、フリードがこの程度で嫉妬したり、俺の評価を落とさないとは分かっていても、絵面的にこれはあまり可愛い甥には見られたくないので助かる。
それにしても、二人とも撫でるの上手いなぁ……これでも、アイリスやレイナ、セリィの婚約者達の頭を撫でた時に凄く高評価を得てるので俺もテクニックには自信があるのだけど、やはり実際に子持ちの親とのテクニックにはまだまだ開きがあるように感じられる。
「やった!トールにまた当たった!」
「お見事です、フリード様」
「おじさん!おじさんもやろ!」
そうしてしばらくして二人の撫でから開放されると、何ともタイミング良くフリードが俺を水鉄砲での遊びに誘いに来た。
「そうだね、やろうか」
「じゃあ、おじさんと僕がトールをやっつけるの!」
「それはいいね。二人でトールをやっつけようか」
「うん!」
無邪気な甥とは裏腹に、少し黒い気持ちも無くはない俺に気がつき呆れているトールだったが、流石にフリード相手には手加減を継続するようだ。
問題は俺なのだが、フリードが見てないタイミングで当たり前のようにおかしな速さで動いて避けるので、俺には接待する気は微塵もないようだ。
やろう……上等だ!
久方ぶりのトールとの水鉄砲に、少なからず子供の頃(まあ、今もだけど)を思い出して何とか当てようとするけど、あの頃とは比べ物にならない速度で動くので前よりも更に当たらない。
フリードが楽しんでいる横で、バレないようにそんな駆け引きをしているのだが、当然その様子をジーク義兄様やレフィーア姉様は見ていたようで、珍しく年相応な俺の様子が微笑ましかったと、後々言われてしまったのだが……普段の俺、そんなに年相応じゃないのでしょうか?
それなりに年相応な様子も見せてると……うん、よくよく考えなくてもおかしな行動しかしてないし、可愛げない子供で本当に申し訳ございませんと謝りたくなる。
でも、そんな俺さえも愛してくれる家族や婚約者達がいる……今世は素晴らしいね。
何にしても、フリードには喜んで貰えたし、水鉄砲をプレゼントしたのは間違ってなかっと思えたのでとりあえず悪くない結果になったと言えよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます