第191話 甥へのプレゼント
「お水、美味しいー」
「でしょ?これがシンフォニアのオアシスの水だよ」
「お母様とおじさんの故郷だよね?凄い!」
流石に体力は幼いのもあってまだまだなのだが、この歳にしても動けすぎなその様子から、この子の底の知れなさを感じつつも、可愛い甥をせっかくなのでお世話することにした。
少し汗をかいていたので清潔なタオルと我が故郷のシンフォニア王国のオアシスの水をストックから取り出してフリードに振る舞う。
その水を美味しそうに飲むフリードに心から頷く俺。
動いた後にこの一杯……見てるこっちが羨ましくなるほどにそれは凄く美味しいと俺は長年(転生してから10年ほど)の水に触れられる人生にてそれを知っていた。
お水とは偉大である――と。
「殿下、フリード様はそこまでおかしな感想までは持ってませんから」
小声で俺の心の声につっこむトール。
このイケメンうさ耳騎士殿は、相変わらず俺の心をナチュラルに読むから困る。
まあ、俺も奴の内心が読み取れてしまうのだが……どうせなら婚約者とこのレベルになりたい所。
最近更に仲を深めてるし、今の距離は相当近いとは思うけど、トールが頭のおかしいレベルで以心伝心してくるので恐ろしい。
無意識だろうけど……俺でなくて嫁とやってくれと切に願う。
「だから、しれっと心を読むなってば」
「だったら、僕にだけ分かるような様子を見せないよう願います」
んな無茶な……。
「エルったら、手際が良いわね」
そうしてトールと小声でやり取りをしていると、フリードのお世話に手馴れている俺に少し驚いたような表情を浮かべるレフィーア姉様。
そういえば、こういった感じはこっちでらあまり見せる機会がなかったなぁ。
「フレデリカ姉様やトールに同じようなことしてますから」
「ふふ、フレデリカはエルが大好きだもんねー。でも、私もエルが好きよー!」
そう言いながら抱きついてくるレフィーア姉様。
向こうに居た頃から、年下の弟の俺の事をフレデリカ姉様がよく構っていたのを知っているから、納得してくれるのも早かった。
にしても、抱きつかれる度に思うけど……最愛の姉からのスキンシップは嬉しいけど、甥や義兄の前だとやっぱり恥ずかしいという思いもなくはないのがねぇ……いや、普通に家族からの愛情は嬉しいので断らないけど、そう思う俺は多分かなり贅沢なんだと思う。
「ありがとうございます。俺もレフィーア姉様が俺のお姉様で凄く幸せです」
「レフィーアは愛さてれてるね」
「ふふふ、大切な姉弟だからね!」
自慢げにドヤ顔をするレフィーア姉様だけど、それが可愛いのだから凄いものだ。
ジーク義兄様もその様子に微笑ましそうにするけど、やはりレフィーア姉様に向ける瞳はラブの気配が濃厚で、それが全くいやらしくない純粋なものなのでイケメンとはとんでもない存在なのだろうと改めて実感する。
「あ、そうだった。フリードに渡すものがあるんだった」
レフィーア姉様の抱きつきが終了して、何かを忘れていた気になっていた俺は、それをようやく思い出して声を上げる。
「え?何かくれるの?」
ワクワクといった様子のフリード。
そんなフリードに……俺は昔何度か遊んだことのあるそれを取り出した。
「殿下、それって……」
流石に知っているトールが、前よりもグレードアップされているそれを見て呆れたような表情を浮かべるけど、気にしない。
「何かしら?」
「不思議な形をしてるね」
フリードに手渡したそれに首を傾げるレフィーア姉様とジーク義兄様。
「おじさん、これは何?」
「水鉄砲っていう玩具だよ」
そう――水を贅沢に使う遊びの一つ、水鉄砲。
弾の代わりに水を入れて、それをぶつけ合うそれは、スポーツと言っても差し支えないほどに素晴らしいものだけど、残念なことに前世では触れることすら叶わなかった代物だ。
今世で、何度かトールやアイリスと水鉄砲で遊んだのだけど、トールが超人的な動きをしたり、アイリスが意外なことに、スナイパーばりの精密射撃をしたりと、俺がフルボッコにされる事が多かったものでもあった。
まあ、負けても楽しいものは楽しいし昔はそこそこ遊んでいたけど、いつの間にかやらなくなって、最近になって新しい伝手で色々材料が手に入ったり、職人を抱え込めたので新しく作ってみたのがフリードに渡したものである。
いやー、魔道具タイプも想定したけど、とりあえずシンプルな構造の水鉄砲をより美しく仕上げることに特化させたことで、綺麗な水鉄砲の色合いと水が調和して凄く良い。
何色に染まっても、その魅力を損なわない水とは何とも罪なものだと思いながら、首を傾げる3人に一通り説明すると、フリードは俺の入れた水で試しにやって嬉しそうにはしゃぎ、ジーク義兄様は興味深そうに頷き、レフィーア姉様は瞳を輝かせてフリードから借りて遊んでみていた。
うむうむ、老若男女問わずに遊べるこれは素晴らしいものだなぁ……まあ、服が濡れるという点が難点なのだろうけど、俺の場合はそれさえも魅力に思えるので、そこをフォローするように説明するトールは分かりすぎててやはり少し微妙な気分にもなるが気にしたら負けかな?
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