第189話 お母さんの凄さ

「あ、そういえばトールの奥さんのクレアも妊娠したんだって?」


ふと、部屋の隅に待機しているトールを見てからそんな事を言うレフィーア姉様。


流石というか、俺の婚約者達から聞いてたのだろうなぁ……本当に婚約者と姉が仲良しで嬉しい限りです。


「ええ、そうらしいですね」

「トールとクレアの子供かぁ……きっと素敵な騎士になりそうね」


どちらの血を受け継いでいても凄くなるのは確定に思える。


まあ、生まれによって人は異なるとも言うけど……その辺は気にすることもなさそうに思えるのがトールクオリティだろう。


「確かにね。トール、大丈夫かい?」

「……はい、大丈夫です」

「そうか。少しだけ経験談を話すと、こちらの不安を吹き飛ばすような逞しさが愛する人には既に備わってたりするから、気負わずにゆっくりね」

「そうですね……ありがとうございます」


凄いな、ジーク義兄様のこういうナチュラルなイケメンな発言は俺には真似出来ないし似合いそうもないけど、憧れたりはする。


父親としても夫としても、人生の先輩としてトールに送る言葉には確かな心強さがあって、自分もそうなりたいと思えるから不思議だ。


「お母様。そろそろおじさんに剣を見てもらっていい?」


お菓子も食べ終わり、話だけでは少し退屈に思えてきた頃合にそう控えめにレフィーア姉様に尋ねるフリード。


かなり大人びた所もあるのだけど、年相応な部分も勿論あって微笑ましいものだ。


「そうね、じゃあ移動しましょうか」


優しく微笑むとそう言って嬉しそうにフリードと手を繋いで歩き出すレフィーア姉様。


ナチュラルに着いてくることが決定してしまったけど、大丈夫なのだろうか?


ジーク義兄様に視線を向けると、苦笑気味に頷くので大丈夫という事にしておこう。


「お母様、お腹の赤ちゃんはいつ頃出てくるの?」

「そうね、もう少ししたら出てくるわよ。フリードもお兄ちゃんになるわね」

「お兄ちゃん……僕頑張る!」


お兄ちゃんになるとやる気満々なフリードと、それを優しく見守るレフィーア姉様。


ちゃんと、お母さんをしてるレフィーア姉様をたまに見るけど、母性とは全くもって凄いものだと見る度に思う。


というか、ナチュラルに現時点でそれが垣間見える俺の婚約者達がある意味凄いのだけど……レイナやアイリスのあの優しい母性にはどうしても抗えない自分がいるのも確かだった。


まあ、抗うつもりもないけど、もう少しカッコイイ姿を見せたいのにどうしてもその優しさで俺の方が緩んでしまうのだから不思議だ。


「私も見に行っていいかな?」

「それは勿論ですが……ジーク義兄様、お仕事は大丈夫ですか?」

「可愛い息子と義弟のやり取りで和む時間くらいは作れるさ」


サラッとそんな事を言えてしまう辺り、本当にジーク義兄様は罪なお人だと思う。


レフィーア姉様が惚れるのも納得のイケメンぶりだけど、ジーク義兄様もレフィーア姉様にベタ惚れなのでお似合いなのは間違いない。


「しかし、トールの子供となると競争率が高そうだね」


楽しげに前を歩くレフィーア姉様とフリードを守っていると、ふとそんな事を言うジーク義兄様。


「やっぱりそうなりますよね」

「エルの子供の跡継ぎに最低二人と、エルとの子供の前に繋がりを作りたい貴族たちから子供を婿や嫁に欲しいとモテモテになりそうだね」


俺の最も信頼する騎士であるトールは、それだけ重要なポジションにいるので、当然のようにシンフォニア、ダルテシアの両国から婿や嫁に欲しいと言われるだろうと予想がつく。


「帝国からもそうなるかもね。他国にもエルの名前は轟いてるだろうから、その一番の騎士であるトールの子供は是が非でも欲しいと思う貴族は多いと思うよ」

「ですよね……」

「大変だな、トールさんや」

「殿下、楽しんでるのが顔に出てますよ?」


失敬な。完璧に隠せてたはずだぞ?


「殿下の騎士になると誓った日から、そういう覚悟も出来てました。ただ、願うのは子供たちには無理なく幸せになって欲しいですね」


自分とアイリス、そして今は亡き母を思ってのセリフだろう。


どこか優しい顔をしながらそんな事を言うトール。


やれやれ……


「そこは断言しなくちゃな」

「では、殿下のお力もお貸しくださいね」

「考えとく」

「相変わらず仲良しだね」


ジーク義兄様……今のやり取りでそんなセリフが出てくる要素ありましたか?


まあ、俺としてもトールはともかく、クレアやケイト、そしてまだ見ぬトールが惚れて惚れられる予定の嫁たち(かなり高確率で出てきそう)とトールの子供には幸せになって欲しいし、出来ることはするさ。


とはいえ、全てを俺たちが用意するのは良くないし、自分で選んで歩んでくれればよしかな?


俺の子供たちも俺が爵位を貰ったことで大変になれかもしれないけど、その負担を減らしつつ元気に歩いていってくれるなら、親としては安心できそうだ。


そうして、まだ見ぬ子供たちに思いを馳せるけど、その前に俺は婚約者達との結婚を待ち焦がれてるので、早く夫婦になりたいものだ。


でも、婚約者という関係もかなり愛着があるので捨てがたい……むむむ、贅沢な悩みではあるが、悩ましいものだなぁ。


まあ、どんな関係でも愛情が変わることはないけどね。







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