第190話 才能の塊

「ジーク義兄様、素人目に見てもフリードは凄いものですね」

「エルが素人なら、本当の素人さんの呼び方を考えないといけなくなるね」


俺の素直な感想に、そんな返答をするジーク義兄様。


中庭で、ウッキウキになって訓練用の木製の剣を振るフリードは、既にダルテシアの基礎の剣術をマスターしているようで、無駄のない洗練された動きを見せる。


「ええっと、念の為聞きたいんですが……フリードが剣術を習い始めたのって昨日からでしたよね?」

「そうだね。それであってるよ」

「……昨日だけで基礎をマスターしたんですか?」

「そうなるね」


……なるほど、本物の天才とはこういう物なんだろうと納得しつつも、無邪気に剣を振るフリードを優しく見守る。


合間合間で、トールがアドバイスを送ることで、更に動きが良くなる様子に驚きつつも、こういう物なのだろうと再度納得することにする。


幼い頃から、フレデリカ姉様やトールといった天才を見てきたけど、我が甥もやはり同類だったか。


「ふふん、ウチの息子は凄いでしょ」

「ええ、自慢の甥です」

「でしょでしょ!」


ドヤ顔から、実に嬉々として息子自慢をするレフィーア姉様だけど、それが全く嫌じゃないのはレフィーア姉様の人柄故だろう。


「フレデリカの時も凄かったけど、フリードも負けてないと思うのよ!」

「ああ、やっぱりフレデリカ姉様も凄かったんですね」

「凄かったわよぉ。初めて一日で近衛騎士団の副団長を倒してたわね」


俺の知らない、フレデリカ姉様の武勇伝だけど、近衛騎士団の副団長は何人か居るし誰かによってもまたレベルが変わってくるのだけど、それでもウチの国の近衛騎士団の副団長ともなればかなりの実力者なので、幼くてもフレデリカ姉様は昔からフレデリカ姉様だったのだろうと微笑ましくもなる。


「ジーク義兄様もフリードのような感じだったり?」

「流石にあそこまででは無かったよ。せいぜい、興味本位で訓練用の剣で石を両断したくらいかな?」


……石って両断するものだったかな?


「ジークの幼い頃の姿絵可愛かったわよねぇ。エルにも見せていい?」

「恥ずかしいから、レフィーアの胸のうちに閉まっておいて欲しいかな」

「ふふ、じゃあ、私の幼い頃の姿絵もジークだけの秘密ね」

「いいね、そうしようか」


弟の前でもこうしてイチャイチャすることは何度かあったけど、にしても本当に夫婦円満なのだろうと嬉しくもなる。


こういう時は空気に徹するのが良いと、長年の経験から悟っている俺は、二人から少し離れて邪魔しない程度の距離で、なおかつ戻ってきた時に違和感のない距離で甥の勇姿を見ることにする。


それにしても、フリードは飲み込みが早いものだ。


トールのアドバイスはかなり的確で、天才にありがちな説明下手とかは一切なく、教えるのも自身が覚えるのも上手い丁度天才形と言えるのだけど、それを差し引いてもトールが指導した中でも群を抜いて凄まじい速度で覚えてるように思える。


「おじさーん!」


一通り見せてから、トールのアドバイスも難なく受け入れて、満足したように駆け寄ってくるフリード。


「どうだった?」


まるで、褒めて欲しいとしっぽを振る犬のような無邪気なその姿は、絶対将来ジーク義兄様のような天然のイケメンになって多くの女性を魅了するだろうという確信が持てる。


そんな将来の様子を想像しつつ、可愛い甥の頭を撫でて俺は素直な感想を口にする。


「文句なしで凄かったよ。フリードは剣士としても一流になるね」

「えへへ、もっと頑張る!」


そう笑ってから、今度はイチャイチャが落ち着いた両親に天真爛漫に駆け寄っていくフリード。


「いつも以上に乗り気だったみたいで何より」


それを見送ってから、アドバイスをしていたトールが戻ってきたので、そう言うとトールは苦笑気味にそれに答える。


「将来は後進の育成も視野に入れたくはなりますね。ああして、若くて大きな才能を見ると余計にそう思えます」

「まだまだ現役では居てもらうから、それはそこそこ先の未来だな」

「ですね。何にしても、フリード様はフレデリカ様クラスになり得るとは思います」


天才のお墨付きなら、素人の俺よりも説得力があるものだ。


そんな事を思いながらも、トールがたまに面倒を見てる生徒達以上に熱を入れていたのも間違いないので、将来的には良き指導役になりそうなトールの様子も思い描けた。


「他人事のようですが、殿下も魔法に関しては規格外なのをお忘れなく」

「その辺は心配ない。少なくとも、剣術のお前やフレデリカ姉様のような圧倒的なものではないと思うよ」

「いえ、下手したら僕ら以上に殿下は理不尽な存在なので……」


謙虚で内気な陰キャに向かって失礼なヤツめ。


まあ、何にしても俺もそこそこ魔法は得意だし、トールみたいに教えお上手ではないけど、そのうち子供たちに指導できるくらいにはなりたいものだ。


たまにやってはみてるけど、人に教えるのは中々に難しいし、トールのように最初から上手くは出来ないものだから、こればっかりは練習あるのみだろう。





















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る