第180話 騎士様のリフレッシュ
「うわぁ、まだやってるよ……」
訓練場に着くと思わずそんな事を口にしてしまう。
女性のお風呂とは長いものらしいが、今世からお風呂の魅力を知ってしまった俺もかなり長湯する方なので、トールと別れてからそれなりに時間が経っているはずなのだが、そのトールは訓練場にてまだ稽古をしていた。
イキイキとしたその様子は水を得た魚のようで、ああして自分を高めるのが楽しくて仕方ないのだろう。
強くなることが楽しいとは、根っからバトル基質だけど、俺は基本的に戦えないタイプなのでトールには好きにさせるとしようかな。
それに、妻帯者にしか分からないストレスもあるのかもしれないし、この程度で発散できるならマシなのだろう。
俺は結婚前に既に婚約者達と同棲してるけど、今のところ俺から婚約者達への不満は全くないどころか、一緒にいて落ち着くのでそれが分かる時が来るのかは不明だけど、もっと婚約者達に好かれるように頑張りたいものだ。
しばらく、ボーッとトールの稽古を見守っていると、満足したように一区切りつけて俺の元に戻ってくるトール。
「殿下、お待たせしました」
「楽しめたようで何よりだよ」
「殿下もお楽しみだったようで」
「風呂はね。そういえばさっきはよくも見捨てたな、この野郎」
げしげしと軽く蹴るけど、ダメージを与えられる訳もなく無駄な行為でしかないけど、一応恨みは晴らしておく。
「僕にはどうしようも無いので」
「まあ、だろうけどさ。途中で母様も加わったから、何とかして止めて欲しかったくらいだよ」
「殿下は愛されてますからねぇ」
確かに、前世の頃に比べたら天と地の差がある程には愛情を貰っている気がする。
無碍に断れないので、この年で一緒にお風呂に入ってしまったけど、家族として愛して貰えることは凄く嬉しいので複雑な心境でもあった。
「ほれ、飲み物」
「どうも」
そこまで汗をかいてないけど、冷たいタオルと水を渡すと爽やかに汗を拭き取ってから水分補給をするうさ耳美少年が一人、そこにはいた。
青年と呼ぶにはまだはやそうなので美少年と呼んだけど果たしてどこからが少年と青年の境目だったか……まあ、どうでもいいかな。
「ふぅ……有難いですけど、確かにこれは違いますね」
「だろ?」
俺からタオルや水を渡されるのと、好きな人から渡されるのではかなり違うので、やはり俺がフレデリカ姉様の訓練後に感じた気持ちは正解だったと胸を張って言えた。
トールからそうして渡されるよりも、アイリスから渡された方が最高なのはやはり真理であった。
「それで、この後のご予定は?」
「そうだね、とりあえずはもう少しこっちでのんびりかな」
祖父母の家に向かうお使いがあるのだけど、そこまで急ぎでも無さそうだし、今日はトールのリフレッシュが目的なのでそちらを優先するべきだろう。
なお、俺のリフレッシュの場合は婚約者達との憩いの時間があれば問題なかったりする。
癒し系美少女で、俺の好きな娘である三人に囲まれていれば、自然と心が癒されるのは自然の摂理と言えた。
「トールは寄りたい所はないの?」
「いえ、特にはないですね。というか行くべき場所には行きましたし」
「まあ、そうかもな」
トールの場合は、城下よりも城にいる騎士や職人に挨拶をする程度だしそこまで行きたい場所もないのだろう。
とにかく自己の鍛錬が好きなので、こういう時間に好き放題に試せるのは楽しくて仕方ないというのがトールという男であった。
まあ、才能もあるしスペックも高いし、本当に騎士が天職なのかもしれないけど、俺としてもトール以上に頼れそうな相棒も居ないのでこれからも是非とも頑張ってもらおう。
「でも良かったの?夜のお店の誘い断って」
「……聞いてたんですか?」
「いんや、適当に言っただけ。でもマジで誘われたんだ」
夜、大人のお店で、綺麗なお姉さんのお店に行こうぜ!みたいな誘いを成人したトールにする人に心当たりがあってカマをかけて見たら見事に当たったようで少し驚く。
「誘われはしましたが、勿論断りましたよ」
「だろうなぁ」
トールからしたら、嫁が二人も居るのだからそういう店に行く意味が分からないのだろうし、俺も可愛い婚約者が3人も居るので成人後もお世話になることはないだろうと思っていた。
「じゃあ、念の為クレアとケイトに連絡を……」
「絶対止めてください」
「疚しいことないんでしょ?」
「……誘った騎士が翌日、土の中に埋まっているのが見えませんか?」
「見えるな」
トールLOVEな二人にこの話をすれば、すぐにその騎士を見つけて消し去るかもしれないと予想がついてしまうくらいには、あの二人の行動力と愛情が分かっているのでからかう程度にしておくけど、それにしても、妻帯者も色々大変なのかもしれないなぁ。
俺は早く婚約者達と正式に夫婦になりたいという気持ちが強いのだけど、もう少し婚約者としてイチャイチャ過ごすのも悪くないので悩ましい所。
なるほど、これが贅沢な悩みなのかと考えつつも、トールを夜のお店に誘った騎士の名は伏せておくことにした。
なお、後日話してないにも関わらず、嫁たちにバレたらしいトールが何とか宥めて夜頑張ったそうだけど、好色じゃないとハーレムは大変そうだなぁとしみじみ思った。
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