第181話 ウッキウキトールさん
「いやー、人気者は辛いねぇー」
「もう少し緊張感があっても良いと思うのですけどね……この状況には」
のんびりしてから、最後に婚約者達へのお土産でも買いに行こうと街に出た俺とトールだったけど、何やかんやあって現在、路地裏にて俺たちはガラの悪い男達に囲まれております。
この辺ではあまり見たことの無いゴロツキに見えるけど、観光客かしら?
治安の良いシンフォニア王国の王都では久しく見たことの無い類の人達なので、恐らく外の人なのだろうけど、手際を見てると全くの素人とも思えなかった。
「おい、そっちの白いのがこの国の王子であってるよな?」
「だってさ、白いの」
「いえ、殿下のことですから」
まあ、そうだよねぇ……この国でなくても白髪に白い肌の俺はそこそこ目立つし、色々と動いているので顔を知られててもおかしくは無いよね。
「ナンパにしては華がないかな」
「美女ならお誘いに乗るですか?」
「可愛い婚約者が居るから、乗る必要性がないね」
お前もそうだろ?と視線を向けると無言の肯定をするトール。
向こうからの激しい愛情表現で霞んでしまうけど、このイケメンにも嫁たちへの愛はちゃんとあるのだろう。
「殿下に何が御用でしょうか?」
ニマニマとトールの内心を見抜いてからかおうとする俺を見事にスルーして、トールがそう男達に尋ねると、リーダーらしい男が実に良い笑みを浮かべて言った。
「なに、少し着いてきて欲しいだけさ。大人しく着いてくれば痛い思いはしないから素直に従ってくれると助かるが……騎士さんの方は亜人か?顔は良いし、貴族のアバズレには売れそうだな」
俺を拉致って身代金をたんまり&うさ耳美少年を貴族の夫人に売って楽して儲けるプランらしい。
甘いねぇ……ドーナツに砂糖と蜂蜜と練乳と生クリームを混ぜた液に浸したくらいに甘々なプランに呆れる俺と、ため息を着くトール。
俺は哀れみの視線を彼らに向けてから、トールに視線を移すとポンと肩に手を置いて言ってやった。
「トール、新しい主人によろしくね」
「いや、サラッと諦めないでくださいよ。というか、殿下は僕が負ける事がお望みなので?」
「それはないでしょ。ウチの騎士さんは世界最強だからね」
その言葉にトールが再びため息をつくが、それは相変わらずな俺の様子にやれやれと言わんばかりのものであった。
まあ、それでも俺には分かってしまう。
そのセリフにトールが少なからずやる気を出してきている事に。
「世界最強?くく、そいつは面白い冗談だな」
一方、俺の発言に下品に笑い出す男達だが、彼らからすればこの数の差で負けるという想定は微塵もないのだろう。
数とは多ければ多いほど、厄介なものでもあるけど、それはキチンとした戦力があるかないかで意味合いが違ってくる。
手際を見るに、彼らは他所ではかなり上手いことやれてた連中なのは分かったのだが……誠に残念なことに俺の騎士はそんな彼らの常識に当てはまる器ではないので内心この後彼らを襲う悲劇に多少の同情をしつつ合掌しておく。
「なら、俺が相手だ。最強さんよ」
ガタイの良い男が巨大なハンマーをチラつかせてそんな事を言うと、トールの了承を待たずにその大きなハンマーを地面にクレーターでも出来そうな威力で叩きつけた。
「おー、凄いなぁ」
「それはどちらに対してのコメントですか?」
「相手かな?」
凄まじい一撃と言えるレベルではあったけど、残念なことに俺の騎士はその程度では傷一つ付かないので無意味と言えた。
トールはガードすらせずにハンマーを鬱陶しそうに払うとデコピンでもするように、指を弾いて空気の塊を打ち出すとガタイ良いハンマー使いを一撃にてノックダウンさせた。
その光景に唖然とする彼らだけど、こんなのはまだまだ序の口なので俺はトールに開始の合図を出すことにした。
「トールくん、やっておしまい」
「承知しました」
その言葉と共に、久しぶりの多対一にウッキウキなトールは俺には見えない速度で移動して彼らを蹂躙していく。
凄いよね、俺を狙った攻撃を確実に潰して、彼らに恐怖を与えて実力差を見せつけて倒していく辺り、先を見据えているのだろう。
二度と俺に刃向かえないように、身体は殺さず心を壊す方向性なのは意外とエグいけど、俺としてもこの手のチンピラの改心には多少の犠牲は必要だと思うので終わるまで適当に水を飲んで待つことにした。
トールならこの場の全員を秒殺できるけど、そこまでする価値も必要もない相手なので逆に秒殺された方が来世までトラウマを抱えることがないので幸せなのかもしれない。
とりあえず、彼らにはトールの玩具としてストレス発散に付き合ってもらうとしよう。
なあに、死にはしないから、大丈夫だよ。
死にたくなるくらいの恐怖は与えられるかもだけど、トールを敵に回すという愚行の代償だと思えば安いほどだから、気にしない気にしない。
そんな事を思っていると、最後のリーダーらしき男を倒したトールが汗ひとつかかずにしれっと彼らを縛って衛兵に渡しに行ったが、やっぱりアイツは放っておくとバトル方面に偏りそうなので、嫁たちで平和のバランスを取るのは間違ってないのだろうなぁとそんな感想を浮かべながら、俺は婚約者達へのお土産リストにチェックを入れるのであった。
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