第178話 お風呂に拉致られ
お風呂とは素晴らしいものだ。
今世になってから、ようやく入れたお風呂は俺にとってはずっと憧れていた飛行機のパイロットになった少年のような純粋な気持ちさえ生まれるほどの娯楽だった。
体を洗っても痒くならないし、ブツブツも出来ない。
頭を洗うのも、顔を洗うのも、体を洗うのも全てが凄く楽しいとさえ思えてしまう。
シャワーで降り注いでくるお湯や水は、贅沢すぎるほどに俺の肌を伝って潤してくれる。
入浴という、日本人のDNAに刻まれている行為は特に素晴らしく、お湯の中に身を委ねていると気分も高揚してくる。
「やっぱり、浴場は改造して正解だったわね」
「ですね」
母様の言葉に深く頷く。
お風呂に拘っている俺は、ダルメシアの屋敷のお風呂も拘っていたのだけど、その前にこのシンフォニア王国の王城にも俺専用のお風呂を作らせるくらいには拘っていた。
そして、俺の影響か元からのものか、俺専用の浴室をよく利用していた母様やフレデリカ姉様は感化されたように大浴場の方をこの前リフォームしたのだけど、俺のアイディアも込められた大浴場は更にゆとりの空間へと変化していた。
「フレデリカ、泳ぐならもう少し離れなさい」
「はーい」
スイスイと泳ぐフレデリカ姉様。
お風呂で泳ぐなんてマナー違反と思うかもしれないけど、他人に迷惑をかけないなら問題ないとも俺は思う。
まあ、流石にこれが公衆浴場のような場所なら気をつかった方がいいとは思うけど、ここは王城で自宅とも言えるので気にするのこともあるまい。
マナーとは、互いに気持ちよく過ごすための決まり事だからその点さえ守られるなら寛容であるべきだろうとも思うのだ。
さて、そんな風にのんびりしている俺だが、言うまでもなく、この歳で母様とフレデリカ姉様とお風呂に入っていた。
母様やフレデリカ姉様は勿論裸だけど、それに何か思うこともないのでその辺は問題ない。
……いや、無くはないけど、断れないのなら受け入れるしかないので俺はお風呂に浸かってのんびりすることを優先したのだ。
アイリス達とも結婚したから混浴出来るんだよなぁ……凄く楽しみ。
「そういえば、トールくんはお嫁さんが増えたそうね」
「ええ、幼なじみの亜人の娘ですよ」
正確にはまだ嫁ではないけど、ケイトもほとんど嫁になるのは確定してるので頷く。
それにしても、母様は毎度何処から情報を仕入れているのやら。
「幼なじみかぁ……いいわね」
「ですね」
「そんなに良いものかしら?」
会話を聞いていたフレデリカ姉様がプカプカと浮きながら首を傾げていた。
まあ、フレデリカ姉様は色恋よりもバトルだし仕方ない。
「関係性なんかよりも、相性じゃないの?」
「ふふ、フレデリカにはまだ早いみたいね。まあ、でもダンテくんとの様子を見てると心配ないかしら」
上手いことフレデリカ姉様をコントロールしてる義息子に感心している母様。
俺としても義兄の凄まじさに驚くけど、俺の周りの男性の方々は軒並み高スペックなので、魔法以外は全てにおいて俺が最弱の自信があったりする。
「エルもトールくんもモテるから婚約者やお嫁さんはまだまだ増えそうね」
「トールはそうかもしれませんが、俺はそうはならないですよ」
確かに俺との婚約は旨みが強いのかもしれないけど、それとモテるはイコールではないと思われる。
貴族の娘として政略結婚で仕方なく俺に嫁ぐなんてあってはダメだし、俺なんかよりもいい人はいっぱいいるからそっちに行って欲しい。
まあ、アイリスやレイナ、セリィは俺しか幸せに出来ないと言い切るけど。
無論、本当はそうでは無い可能性もあるだろうけど、好きな人は自分で幸せにしたいのでそこは傲慢でも自信満々に言い切ってみせる。
「私も孫が多いのは楽しみだし期待しておくわね」
「俺の前にマルクス兄様とかなのでは?」
孫の催促をするにしても、俺よりもマルクス兄様達の方が先な気がすると首を傾げると母様はくすりと微笑んで言った。
「先の楽しみを見据えるのも、人生を豊かにするコツよ」
「勉強になります」
深い言葉に頷くと、フレデリカ姉様が立ち上がって出ていく。
「エルー、髪洗ってー」
「分かりました」
洗面台に座ったフレデリカ姉様からのお言葉に頷いて俺はフレデリカ姉様の頭を洗ってから背中を流す。
相変わらず綺麗な髪をしてるけど、あの炎天下でケアが最低限にも関わらず艶々した綺麗な黒髪なのが凄いと思う。
なお、その後に母様の髪も洗って背中も流したけど、一緒に入ると毎回させられるので慣れていた。
そういえば、昔は俺が洗ってもらっていたのに、いつの間にか俺が洗う側になってたミステリー。
これが歳を取るということなのだろうかと思いつつも、和やかに親子、姉弟の家族の時間を過ごしたのだけど……とりあえず年齢的にこれが最後の一緒にお風呂であることを願っておこう。
可愛がってくれるのは嬉しいけど、この歳でお風呂を一緒はやはり恥ずかしいのでそう思いながらもお風呂を満喫するのであった。
あれだね、お風呂はやっぱり素晴らしいものだね。
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