第171話 久しぶりの休日
アクセル義兄様のお相手をした次の日。
約束通り、俺はトールを連れて故郷であるシンフォニ王国へとやってきていた。
まず真っ先に行ったのは王城……ではなく、オアシスである。
家族への挨拶は先日もしてるし、時間が取れなかったこちらを優先したかったのだ。
「この景色……プライスレス」
シンフォニア王国の象徴とも言うべき、我が国がほこるオアシス。
間近で眺めるのは久しぶりな気がするけど、やはり原点にして頂点と言っても差し支えない俺の始まりなのかもしれないとしみじみ思う。
「そうは思わんかね?トールくんや」
「いえ、相変わらず意味が分からないです」
「ふぅ……君にはこの素晴らしさはまだ分からないか」
やれやれと、やれやれ系主人公を真似た俺はきっと傍目にさイラッとする小僧に見えただろう。
とはいえ、トールは俺の様子に呆れたような表情をするだけであった。
きっと、俺の言葉に心底謎にしかならなかったのだろう。
全く、俺の騎士なのに俺と意志を共有できないとは……最近の若者は皆こうなのかね?
……などと少し年寄りぶるのも意外と悪くない。
「しかし、こちらは相変わらず暑いですね。あちらの気候に慣れると益々そう感じます」
「緑化計画は進めてるから、もう少しマシにはなるとは思うけどね」
植物の精霊のリーファと共に、広大なシンフォニア王国の砂漠の緑化計画を、マルクス兄様の提案で進めているが、結果が出るのはもう少し先になるだろう。
「さて、オアシスを見ながらかき氷でも食べようかな」
「相変わらずですね。それ楽しいですか?」
「無粋なヤツめ」
この良さが分からんとは……嘆かわしいねぇ。
「トールもいるでしょ?」
「まあ、頂きますけど……何か昔よりも速くなってません?」
トールの前では、最近かき氷を作らなかったからか、どこか驚いた様子のトール。
まあ、確かに作り続けているうちに慣れてきた感はあるかも。
アイリスとお忍びでこちらに来て、こっそりかき氷を味わう時とかあるしそれが理由かな?
控えめに言ってもめちゃ暑いこの地でのかき氷はとてつもなく美味しいからね。
「うん、やっぱりこの組み合わせは最高だね」
視界には美しいオアシス。
そしてキンキンに冷えたかき氷は、本日はなんと贅沢なことにオアシスの水を凍らせて作った特製だ。
その澄んだ味わいこそ、オアシスならではなのだが、トールは気づいた様子もなくペロリと平らげる。
……もう少し味わうという気持ちはないのかね?
まあ、いいけど。
「そうだ、後でみのりんに会いに行こうかな」
「みのりん?聞いたことはあるのですが、誰でしたっけ?」
「おいおい、一緒に出かけた相手にそんな事を言うなんて……トールさんや」
俺のジトっとした視線を気にした様子もなく、トールはしばらく考え込む。
すると、思い出したかのかその答えを口にする。
「……もしかして、殿下お気に入りのラクダラですか?」
「おうよ」
かつて、俺がまだ独身だった頃……と言うとなんか凄い違和感だけど、あの頃はまだアイリスとは婚約者ではなく、レイナにもセリィにもアイーシャにも会ってない頃なのでその表現でも問題は無いかな。
ダルテシア王国のレフィーア姉様に会いに行くためにシンフォニア王国の王都から俺を連れて行ってくれたラクダラのみのりん。
俺に懐いてくれたあの子を引き取ったのだが、ダルテシアに住むようになってからは、こうしてたまに顔を見せるだけなので少し残念。
ラクダラの乗り心地も悪くなかったし、また旅をしてみてもいいかも……なんてね。
「殿下の場合、空間魔法がありますしあまり乗り物は必要なさそうですがね」
「む、移動以外にもみのりんには俺を癒してくれる役割もあるから」
「まあ、何でもいいですけど……そのラクダラが人間になって殿下の婚約者にならないといいですね」
トールめ、自力で擬人化の概念を見つけてしまったか。
まあ、そんな如何にもな展開は絶対無いと断言するけど。
「その場合、トールも同じように妻が増えるから心配無用だと思うよ」
「……殿下、絶対にその未来は無しでお願いします」
切実なトールのその様子は、これ以上自分を求める人が増えた未来が見えたのか、ぶるりと身震いしていた。
「……まあ、なんだ。ストックは沢山あるから、いくらでも使いなよ」
「……ありがとうございます」
言葉にしなかったブツは、リーファ特製の滋養強壮剤だ。
毎晩戦士として大変そうなトールの手助けになってそうなそれだが、本来好色でない人がイケメンになって複数妻を娶った場合、やはりこの手のものはあるに越したことははないのかもしれない。
俺も3人も婚約者がいるし、お世話になる可能性は考えておかないとな。
まあ、あの可愛い3人がトールの嫁のクレアやケイトのように肉食系にジョブチェンジする様子は無さそうだけど、備えというのは無駄にならないはず。
そんな風に久しぶりのオアシスを楽しみつつ、トールの回復に努める。
不思議なことにこうして俺と無駄な時間を過ごしてると回復してるようなので、こいつも大概変わってると思う。
まあ、俺も人のことは言えないけど、それはそれ。
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