第170話 夕飯は皇子様と

「ようこそおいで下さいました。このような姿で失礼します、皇子殿下。私は――」

「ああ、そういう堅苦しいのはいいよ。今ここにいるのはエルの婚約者達だけだろ?なら、気にせず普通にしてくれて構わない」


レイナの挨拶に対して、アクセル義兄様は軽くそんな事を言う。


車椅子のレイナや、うさ耳の亜人のアイリス、そしてハーフヴァンパイアのセリィと……地味に同席してくれている、プログレム伯爵家のご令嬢のアイーシャとアクセル義兄様は俺の婚約者4人を見渡すと実に楽しげな笑みを浮かべた。


「うんうん、可愛い娘達だね。それに、見たところエルのことが心底大好きだと見える。いいねぇ」

「殿下、そういう事は……」

「ふふ、分かってるよ。でも、僕が一番可愛いと思うのは君だけだよ、レイン」

「もう……」


乗っけから隠すことなく普段の自分を見せて、しかも自分とレイン関係までバラす辺り、信頼してくれているのだろうが……それにしても、ここでもイチャイチャとは、昼間だけでは満足いかなかったのだろう。


まあ、好きな人を求めたい気持ちは分かるし、邪魔はすまい。


「えっと、何だか凄い人ですね」

「……凄く積極的」


アイリスとセリィの実に素直な感想。


レイナも似たような意見なのか、くすりと微笑んでいる。


まあ、大丈夫だろうとは思っていたが、アクセル義兄様が俺の婚約者達と接触して何も無かったので少し安心。


「アクセル義兄様、続きは夜にして先にご飯にしませんか?」

「そうだね。そうしようか」


その言葉にレインが赤面して黙り込む。


俺の言葉の裏の『続きのイチャイチャは夜にでもしてください』という意味をきちんと分かった上での反応だろう。


その様子にアクセル義兄様はニマニマしそうになるのを堪えていた。


愛でだしたら止まらないし、自重してるのだろう。


本来なら、使用人のレインの席を用意するべきかは微妙なところだが、私的な空間だしアクセル義兄様の隣に堂々と席を用意しておく。


その俺の気遣いに気が付き実に良い笑みを浮かべるアクセル義兄様。


お気に召して頂いたようで何よりです。


「おや、見覚えのない品が多いね」

「ええ、あまり出回ってないものを選んでみました」


カレーや、ピザなんかは割とここ最近は出回るようになってきたし、ダルメシアの王城でも出てきたので避けてみた。


まあ、変わり種としていくつか混ぜたものあるけど、それはそれ。


「白い生地に……これは、中身はお肉と野菜でしょうか?」

「ええ、その通り。餃子という名前です」

「ふむ、何やら2種類あるけど……焼いたのと煮たので分かれてるのかな?」


餃子といえば、焼き餃子と水餃子だろう。


お米は目星はついて、きたのでそのうち出せるようにはなるはず……とはいえ、俺としては白米で食べてみたい所。


そして、水餃子という名前がもう好き。


水の餃子とか読んでる字から好みすぎるし、アツアツなので物凄く美味しい。


俺のオススメの水餃子ではなく、アクセル義兄様とレインが先に手を付けたのは焼き餃子。


何とか少量確保した醤油に軽く浸してから、食べる。


「へー、美味しいね」

「ええ、とっても美味しいです」


あ、そういえば……


「そうそう、そちらの料理は食べた後臭いが凄くなるので、良かったら食後にお口直しのものを用意しますね」

「そ、そうなんですか……」


少し口を気にするレイン。


そんなレインにアクセル義兄様は思いついたように軽く……そう、本当に軽くキスをしてから、何かを味わうように少し考えると素直な感想を言った。


「うん、これはこれでいいね」


その言葉に顔を真っ赤にするレインと……それを見ていた俺の初心な婚約者達。


あまり他人のラブシーン(トールは別)を見ない初心なウチの嫁たちには少し刺激が強いかもしれないな。


いかんな、そう考えると、アクセル義兄様ってば、お子様お断りの18禁指定の人なのかもしれない。


「アクセル義兄様、食事中ですよ」

「エルも婚約者達とやったらいいんじゃない?」


その言葉にレイナは少し恥ずかしそうに、アイリスは動揺しながらも何とか堪えて、そしてセリィはバッチコイと言わんばかりに構えていた。


……いや、やらないよ?


そして、セリィさんや、バッチコイじゃないよバッチコイじゃ。


「それよりも、せっかくの料理が冷める前に頂きましょう」

「それもそうだね。見たことの無いものが多いから興味が湧くし」


何とか話題を反らせた。


そこからは和やかに食事がスタートするが、アクセル義兄様は俺の婚約者達に俺とのイチャイチャを聞いたり、レインとイチャイチャしたりと自由であった。


まあ、楽しんでいるのならいいけど……よっぽど、城でのパーティーが面倒だったのだろう。


こういう私的な食事で実に楽しげであった。


まあ、将来アクセル義兄様はそういう煩わしい柵一切から解放されて、レインとまったりスローライフを送りたいのだろうし仕方ないか。


俺はもう、引退しか退路はないし、どうせなら目指す自分を目指して、婚約者達やこれか出来る家族のためにも頑張っていかないと。


コンセプトの違いというやつだが、アクセル義兄様のルートも楽しそうなので少し憧れる。


まあ、今に後悔は一切ないけどね。


可愛い婚約者達にまったりとした時間……いいね。








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