第172話 愛嬌の差
オアシスでのんびりしてから、俺はトールと一緒にラクダラが管理されている飼育小屋へと向かっていた。
目的はそう、みのりんに会いに来たのだ。
慣れた道を歩き、馴染みの衛兵に挨拶をして向かう俺は実に常連っぽい。
そう、決して、みのりんのことを忘れてなんてないのだよ。
砂漠を共に渡った心の友みのりんとは、これまでもちょくちょく様子を見に来ていたし、ガチのマジで久しぶりという訳でもない。
とはいえ、乗ってあげられてないのも事実なのでそこはもう少しどうにかしたい所。
「……何だか、相変わらず凄いですね」
飼育小屋に並ぶラクダラ達を見て、そんな感想を漏らすトール。
「めんこい子が多くなったよね」
「いえ、その判断基準が分かりませんから」
「そう?」
まあ、確かにミノタウロスのような顔つきと、大きな体を見れば魔物にも見えるけど、人を乗せるのが好きな温厚な動物なので、割と親しみやすいと思う。
飼育も調教も面倒が少ないらしいし、いい子が多いのかもね。
「オスメスの区別くらいは分かるでしょ?」
「そこから不明なんですが……殿下は分かるのですか?」
「当たり前よ」
初見では、女の子のみのりんを男の子だと勘違いした俺だけど、その後触れ合えば自然とオスメスの区別はつくようになる。
なるほど、きっとこれが慣れという奴なのだろうとしみじみ思う。
「それを知ったら、アイリスが嫉妬しますよ」
「大丈夫、ちょくちょく俺とみのりんに会いに来てるから」
出会った時は互いにライバル視?していた二人だけど、今では仲良しになっていた。
まあ、アイリス側が俺の婚約者になったことで精神的なゆとりが出来たのかもしれないけど。
「まあ、いいですけどね。ところで、そのお目当ての子はどちらに?」
「向こうだよ」
他のラクダラの小屋よりも少しだけ贅沢な作りは、俺専用のみのりんの小屋であった。
その近くには、家族のそれぞれの専用のラクダラの小屋がいくつかあるけど、俺のように魔法での移動が出来ないと割と頻繁に頼ることになるらしい。
便利すぎるのも考えものなのかもしれないけど、手放せない中毒性がある。
これはそう、携帯とかに似てるんだと思う。
ネット記事で読んだことがある話だけど、科学の発達で携帯が身近になったことで、休みの日でも、職場から連絡が来ることがあるとか。
紛うことなき社畜でなくても、それがあるのだから前世とは恐ろしい世界であった。
まあ、水アレルギーを知ってたはずなのに、友達に悪ふざけで海へとダイブさせられた時点でそれはお察しか。
というか、それが無くても前世では人の暗い面ばかり見てたので、アイリスやレイナ、セリィが天使にしか見えない。
まあ、それはともかく。
「さて、みのりんは元気かな」
トールと小屋に入ると、みのりんが俺の来訪を察知していたのか嬉しそうに待っていてくれた。
「ぶもぅ」
「おお、みのりん。今日も愛らしいね」
「愛らしい……?」
後ろで疑問符を浮かべるトールには、この愛嬌が分からないようだ。
「トールもみのりんを撫でてあげたら?」
「いえ、遠慮します」
「怖いの?」
「……むしろ、殿下のその余裕が僕には怖いです」
失礼なやつめ。
「ほら、可愛い動物でリフレッシュって休暇っぽくない?」
「それは否定しませんが、殿下も僕もそういうタイプでもないでしょう」
それはまあ、確かに……休みならゆっくりしてたい気持ちが強いかも。
オアシスの畔で一日まったりとか、河原でちょっとお昼寝とか、雨音を聞きつつの鼻歌とか、あとはいつもだけど婚約者達と一緒なら心は自然と休まるというもの。
トールの場合は、嫁たちと居るとイチャイチャが激しいので、癒しにはカウントされてなさそうだけど、まあ、上手いことやれてはいるようだし無用な心配かもね。
「いっそ、夜は控えて欲しいと直訴するとか?」
「……それを言った時の悲しそうな顔を見たら拒否できませんって」
「ああ、それは無理だな」
ほっとけない……そういう性格だからこそ、トールはクレアやケイトのような人材を強く引き寄せるのだろうし、言えるわけないか。
「ふむ……パターンを変えて、トールから攻めてタジタジに……いや、無理だな」
「せめて想像の中でくらいは勝たせてあげてくださいよ。途中で切り捨てないでください」
自己完結したら文句をつけてる俺の騎士さん。
とはいえ、俺の中のトールが自分から強気で攻めた結果として、ますますイチャイチャが加速する未来しか見えないのだから仕方ない。
「みのりんや、今度トールとお出掛けするからその時は俺を乗せておくれよ」
「ぶもぅ!」
嬉しそうに鳴くみのりん。
あれだよ、子供が出来れば夜は落ち着くし、それまで頑張れば……なんて、気休めを言っても無意味なので、とりあえず今度出掛けてリフレッシュさせようという方向に決めた。
俺の気遣いにぺこりとお辞儀するトールと、久しぶりに俺と出掛けられるかもというみのりんの嬉しそうな様子。
不思議と後者が可愛く思えたのは、愛嬌の差だろうか?
慣れるとラクダラは可愛いと俺は思います。
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