第166話 溺愛という溺れるだけでは足りぬ愛

お忍びという名のダブルデートか、ダブルデートという名のお忍びか。


少なくとも、アクセル義兄様にとっては前者も後者も違い、ただのレインとのデートなのだろうが、それは言わぬが花というもの。


俺の案内でのダルテシア王国の城下のお忍びではあるが、基本的にはレインとのデートパートが多めに思えるのは、俺とアイーシャがアクセル義兄様とレインに気を使っている……という訳ではなく、予想通りイチャイチャしているから退避していたからだろう。


「なんというか、想像以上に凄い方ですね」


アクセル義兄様とレインのイチャイチャを見てのアイーシャの感想である。


まあ、気持ちは分からなくはない。


チラッと視線を向けるとそこでは正にイチャイチャが展開されていた。


「これなんてレインに似合うね」

「少し派手ではありませんか?」

「そんな事ないさ。ほら……似合う」

「そ、そうでしょうか……?」

「……うん、でも僕以外の前では禁止ね」

「き、禁止ですか?」

「だって、可愛すぎるんだもん。僕のレインに悪い虫がつくのも困るし……2人きりの時に見せて欲しいかな」


……そんなセリフを平然と言えるアクセル義兄様マジパネェ。


俺も今世では大胆に婚約者達に愛を告げているつもりだが、ここまでドストレートには難しいかも。


イケメンだけき許させる特権というやつか……何にしても、俺には届かない高みがアクセル義兄様なのだろうと思う。


「情熱的で、スペックの高い帝国の皇子様……そして、一途とは凄いですね」

「アイーシャも実はああいうタイプが好みだったり?」

「ふふ、分かっててお尋ねになってますね」


まあね。


アイーシャという人物を知ってる俺から見ても、アクセル義兄様とアイーシャの組み合わせは中々相性が微妙に思えた。


「確かにカッコイイですが、私はあそこまで情熱的なのは少し苦手ですね。それに、目立ち過ぎて一緒に居るのは大変そうです」

「アイーシャらしいね」


容姿や地位、能力の有無よりも、アイーシャの場合は自身との相性を優先するのだろう。


「殿下としては、レインさんのような大人の女性はどうですか?」

「……それをここで聞くの?」


アクセル義兄様に届いて不評をかわないか心配になるが、今のところイチャイチャに集中しているようではあった。


とはいえ、いつ視線があって射殺されてもおかしくないので軽く答えることにする。


「まあ、美人だとは思うけど、アクセル義兄様とレインのカップルに横入りするような野暮はしないかな。というか、異性としてどうこうは難しいかも」


確かにレインはかなり容姿も整っていて美人さんだが、俺としても一緒に居て落ち着く相手の方がいいので、その点では難しいかもしれない。


「というか、アイーシャこそ分かってて聞いてきたでしょ?」

「どうでしょうね」


くすりと微笑んでそんな事を言うのだから、アイーシャもいい性格をしている。


まあ、こういう所は嫌いじゃないけどね。


「それにしても、思ったよりもお忍びの案内という雰囲気ではなさそうですね」

「あのイチャイチャ空間があるとねぇ……」


これまでは手加減していたのだろうと分かるくらいに、アクセル義兄様はレインを愛でていた。


義弟の案内は聞いてくれるし、話せば答えてはくれるが、やはり一番はレインなのだろう。


これは、トールに向こうの護衛を丸投げして正解だったかもしれないな。


まあ、俺には護衛は無理だけど、最強の矛と盾をアクセル義兄様に付けたので問題なかろう。


あれを間近で見ているトールには、後でブラックコーヒーでも差し入れするべきかもだが……いや、むしろ自分のイチャイチャを思い出して黄昏てるかもだし、元気の出るものでも渡そうかな。


「凄いですね、一見凄く無防備なのに、どうやっても騎士さんに斬られるイメージしか湧きません」

「ウチのうさ耳イケメン騎士は優秀だからね」

「これなら、安心して私は殿下の護衛が出来ますね」


そう言いながら、再び腕に抱きついてくるアイーシャ。


……その天然な行動は、きっと多くの思春期の男子を勘違いさせること間違いないが、自覚がないのかあるのか不明なのでつっこむことも出来ない。


うーむ、これはここまで俺に気を許してると取るべきか、それとも……いやいや、深読みしても仕方ないな。


「頼りにしてるよ。魔法は少し得意だけど、俺は戦いに関しては素人だからね」

「ふふ、ご謙遜を」


いやいや、マジだって。


そりゃ、多少の心得くらいは習ってるし分からなくもないが、俺自身は魔法が無いと戦闘力は並だろう。


フレデリカ姉様の長年の指導で、そこそこ運動も出来るが上位ランクの世界を知ってしまうと自分の弱さは身に染みて分かるというもの。


まあ、女の子に守ってもらうのはカッコ悪いと言う人が多そうだが、俺はアイーシャを頼りにしてるし、何かあったら俺も頑張るつもりはちょびっとあるので勘弁して欲しい。


……にしても、アクセル義兄様がそのうち宿屋にレインを連れ込みそうに思えてしまうのは、長年トールとクレアの攻防を見てきたからだろうか?


まあ、アクセル義兄様はその辺をきちんと弁えた上でレイン至上主義なのだろうし心配無用かもな。














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