第165話 ダブルデート

「おや?そちらの女の子は初めてお目にかかるね。情報には無かったけど、エルの新しい婚約者かな?」


シュゲルト義兄様が仕事に戻ると出ていってから、さて俺達もお忍びに行こうという段階になって、アクセル義兄様が先程まで気配を消していたアイーシャを発見したらしくそんな事を尋ねてくる。


レインは最初から気づいていたようだが、アクセル義兄様も本当はもっと前から気づいていたのではないかという疑いもなくはないが、アイーシャの隠形はプログレム伯爵家の一流の技なので見抜けてない可能性の方がリアルではあるかもしれない。


というか、何故に最初に見当をつけるのが俺の婚約者ってどうなのだろうか?


「違いますよ。こちらは俺の友人のアイーシャです。今日はアクセル義兄様の護衛もありますし、念の為誘ったのですが、大丈夫ですか?」

「うん、構わないよ。それにしても凄いね。気配の消し方が上手すぎるし、この国でそこまでの技を持つとなると……もしかしてプログレム伯爵家のご令嬢かな?」


……うん、やっぱりこの人は敵にはしたくないかななぁ。


皇帝の座に興味無いとか言いつつも、レインのために不足の自体を回避するために情報を集めているのだろう。


アイーシャのことは知らなかったはずなのに、一発でプログレム伯爵家の人間だと予想するあたり、やはり裏の情報まで握ってそうな感じもしたりする。


レインガチ勢のアクセル義兄様……恐ろしや。


「お初に目にかかります。アイーシャと申します」

「よろしく。ところで、エル。もしかして僕とレインがイチャイチャするからその間の暇つぶしに彼女も誘ったのかな?」

「否定はしません」


お忍びとはいえ、アクセル義兄様はレインとの時間を楽しみたいはず。


そして、意識せずともイチャイチャしはじめるのが目に見えるので、アイーシャの存在は必須であった。


「なるほど、確かに必要かもね。僕としても他人のイチャイチャ空間に1人で同席するのは気が引けるし、これでダブルデートって訳だ」

「アクセル様、お忍びです。デートではありませんから」

「レインは僕とのデートはご不満かな?」

「ち、違います。ただ、ここは他国なのでお忍びであることをちゃんとご自覚ください」

「分かってるってば。でも、義弟カップルとのダブルデートも楽しそうだと思わないかな?」


視線を逸らして恥ずかしがるレインを実に愛しそうに眺めるアクセル義兄様。


……なるほど、今ので流れは理解出来た。


こういう風に自然とイチャイチャにシフトしていくのだろうと把握していると、アクセル義兄様は実に良い笑みを浮かべて言った。


「アイーシャさんだったね。君もエルとのデートを楽しむといいよ。時々案内で借りるけどそこは許してね」

「ありがとうございます。承知致しました」


……アイーシャさんや、それはアクセル義兄様へ何か意見するのが躊躇われての回答なんだよね?


それにしては楽しげな表情をしていたが、気のせいだろうか?


というか、ダブルデートというにはトールや他にも影から見守る護衛が居るはずではあるのだが、それはいいのだろうか?


なんにしても、トールは今日は大変そうだなぁ。


アクセル義兄様とレインのイチャイチャを見守って護衛するのだから、きっと普段の俺の護衛の方が楽だろうが、奴としては己のイチャイチャがハードなので他人のものを見て悟りをひらくかもしれない。


「あ、夕飯はエルの家でもいいかな?エルの婚約者達を見てみたいし」

「ええ、構いませんよ」


何となく言い出しそうでもあったので、念の為備えるよう頼んでおいて正解だったかな。


とはいえ、後で連絡は入れとかないと。


「エルは新しい料理を思いつくのも得意なんだってね。こっちで広まってたものは食べさせて貰ったけどどれも美味しかったし、楽しみにしてるよ」


そして、さりげなくハードルを上げるこの感じ……アクセル義兄様ドSっすね。


そういう感じのはレインに向けて貰っていいでしょうか?


きっと、素敵な表情が見れてアクセル義兄様としても捗ると思いますよ……と思いつつも無論大人な私は流しておく。


「お口に合うかは分かりませんが、それなりに目新しいものはご用意してますよ」

「それは楽しみだ。じゃあ、まずはダブルデートに向かおうか」


そう言いながら、レインと腕を組むが、レインの方はどこか諦めたように従っていた。


きっと、本人としてはこういう公のイチャイチャは苦手なのだろうが、アクセル義兄様にいつも流されるのでその結末を分かっているので、最初から従うのだろう。


何となく、トールが女の子になってクレアやケイトが男の子になったら似たような光景が見られそうだが……トールが女の子になったら絶対少女漫画とか、乙女ゲームの主人公になりそうに思えるのは俺だけかな?


……うん、想像すると大分テンションが下がるので考えちゃダメだな。


「ええ、行きましょうか」


何故かアイーシャもさらりと俺と腕を組むのだが、その意図は一体……?


まあ、きっとカップルの演技だろうと一応納得しながらも、アイーシャの柔らかさに軽くドキドキしてしまうことに少し罪悪感を覚える。


……うん、アイーシャは友達だし、こんな感情向けるのはダメだよね、静まろう。


それが既に俺とアイーシャの友人のラインが揺らいでいた兆候だと後からは何となく察せられたが、この時の俺は知る由もなく、ただただ無心を心がけていたのは証言しておく。


やましい気持ちなどないよ……多分。
















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