第162話 デートの確約
朝一の水は健康に良いと昔、前世の何かの記事で見かけた気がするが、それを意図せず実践できるようになったのは今世になってからであった。
自由に水が飲める今世ではいつも毎朝好きな水を飲んでいる俺だが、本日はアクセル義兄様のエスコートもあるので、一番馴染み深いオアシスの水をストックから取り出して飲む。
空間魔法によって、別空間に新鮮な状態で保存されているので、そのままの状態で飲めるこの幸せ……うむ、贅沢だなぁと思う。
確か、人は寝ている間に350mlの汗をかくとか言う話もあったが、それを考えると朝の水分補給には水は最適と言える。
まあ、そんな事関係なく俺は水を飲むのだが……それはそれ。
美味しいものは、やっぱり美味しい。
うむ、当たり前というのはやはり素敵な響きだとしみじみ思いつつ喉を潤す。
「エル様、エル様」
そんな俺の至福の一時を見慣れているアイリスが、声をかけてくる。
「どうかした?」
「えっと……今日は帝国の皇子様のエスコートなんですよね?」
「そうなるね」
「その……落ち着いたら、私達もその……」
もじもじとするうさ耳美少女アイリスさん。
伺いをたてるようにぴょこぴょこと動く耳が実に愛らしいが、何を言いたいのかは直ぐに気づいたので微笑んでおく。
「うん、落ち着いたらデート行こうか。皆ででもいいけど……それぞれとの個別もいいかもね」
その言葉にアイリスは見ていてとても分かりやすくぱぁっと、笑みを浮かべるので何とも微笑ましい。
上品に朝ごはんを食べていたレイナも嬉しそうな表情を浮かべ、セリィもどことなくワクワク顔になった。
本当に分かりやすくて可愛いものだ。
「……主、今日はアイーシャとデート?」
「デートでは無いとは思うけど、護衛は頼んでるね」
「……トールとはよくデートしてる」
「いや、トールと出掛けるのはデートなんて呼び方にはならないからね」
というか、そんな想像するだけでかなり薄ら寒いので是非ともやめて欲しい。
気色悪いという意味合いもあるけど、クレアやケイトに嫉妬を向けられそうなので怖いのも事実。
不思議とこれまでそういう敵視のような嫉妬の視線は向けられたことはないが、気をつけるに越したことはないので、注意を怠ったりはしない。
……なんだか悲しい警戒だが、そもそも奴と分かり合いすぎているのが原因なので仕方ないとは思っているさ。
「そういえば、お兄ちゃん今朝は少しいつもより疲労が残ってそうでしたね。それを見越してエル様はアイーシャさんを……凄いです!」
「……ん、主は相変わらず賢い」
謎に褒められるが、そんなキラキラした目を向けられると何とも言いようがないが、とりあえずその期待を裏切らないようにしないとなぁとやる気を出してみたりする。
「時にエルダート様。本日のお帰りは何時頃になりそうでしょうか?」
「うーん、そんなに遅くはならないと思うよ。いつも通り皆で食べたいし」
「分かりました。ではお夕食を準備してお帰りをお待ちしておりますね」
すっかりと、俺の居ない間の屋敷の事にも慣れてきた正妻のレイナは相変わらずの笑みで頼りになる上に安心するような笑みを浮かべてそんな事を言ってくれる。
本当に俺には勿体ないくらいに良い娘だなぁ……まあ、誰にも譲る気はないけど。
それは、レイナだけに限らず、アイリスやセリィに関しても言えることであった。
3人とも、俺なんかでは釣り会えないくらいに良い娘だし、可愛いし、最高だけど、誰にも譲りたくはないこの気持ち……うん、もっと釣り会えるような素敵な大人の男に成長してみせようと、目標は高く持っておくことにする。
幸い今世は目指すべき背中は多いし、それらを目標にすれば迷うこともないだろう。
「エルダート様。アイーシャ様と無事のお帰りを心からお待ちしてます」
「うん、分かってるよ。ありがとう」
アクセル義兄様のエスコートというのは、普段出歩くよりも何倍も危険があるので、案じてくれる3人の婚約者達を安心させるように笑みを浮かべておく。
まあ、この3人に俺は演技なんて無理なんだけどね……作っても直ぐにバレてしまう。
前世では無理しても誰も気にしないし気づかなかったけど、今世ではそれらは一切通じない……嬉しいけど、少し複雑にもなるものだが、今世で気づいてくれる人に出会えたのは幸運としか言いようがないだろう。
それから、アイリスが朝から美味しそうに元気に食べている様子と、レイナの優雅な食べ方、そしてセリィの様子を眺めて和む一時を過ごす。
あれだね、見目麗しい美少女達を見てると本当に心が安らぐのだから不思議だ。
とはいえ、誰でもいいという訳では無論ない。
最愛の婚約者だからこその気持ちなのだろうと断言出来る。
まあ、有り得ないとは思うけどこの先俺が他にもそう思える人が増えたら……トールとの冗談が現実にならないでおくれと願ってはみるが、いつだって神様は俺には微笑まないというのを俺は覚えておかないといけないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます