第163話 謎の安定感
「殿下、本日はよろしくお願いしますね」
「うん、こちらこそよろしく」
婚約者達に見送られてから、トールを連れてアイーシャを迎えに行くと、ラフな格好ながらもオシャレな普段着のアイーシャがそこには居た。
なるべく目立たない格好を意識してるのかもしれないが、シンプルな衣装も生えるのが美少女の特権なのかもしれないなぁと地味に思う。
まあ、アイーシャはプログレム伯爵家の裏仕事の技術を持ってるから、気配を消すのが上手いので早々目立たないのだろうが、それにしてもこれだけ可愛い子が目立たないとは凄い矛盾だよね。
「アイーシャ様、本日は殿下のことよろしくお願いします」
珍しくトールがそんな事をアイーシャに言う。
ふむ、本人としてもやはり今日は俺の命じたアクセル義兄様の護衛だけで手一杯になると予想してるからか、俺の騎士としてアイーシャにそう頼むのだろう。
「お気になさらず。殿下のことはお任せください。責任をもってお相手を努めますので」
こんな美少女にそんな事を言われると、何とも言えない気持ちになりそうになるが、他意はないのだろうと思う。
「じゃあ、城で待ってるアクセル義兄様の元に行こうか。ちなみにプログレム伯爵とカリオンは?」
「殿下の予想通り本日はお仕事ですよ」
「そうなんだ」
そうなると、アクセル義兄様のことは益々心配無さそうで少し安心する。
「とはいえ、父は相変わらずうるさかったですけどね。今日のことも私と殿下のデートだと決めつけて色々と要らないお世話を貰いましたし」
「あー、なるほど」
あの人なら確かにやりそうだ。
正確にはプログレム伯爵も、俺が帝国の皇子様のお忍びのエスコートをすることだと理解しているのだろうが、その上で持っている情報の中で心配している愛娘が唯一関心を向ける相手と出掛けるとなれば、暴走するのは何となく予想がついた。
「それで、カリオンに止められたと?」
「ええ、ただ兄も謎のエールを送ってきましたけどね」
曰く、「上手いことやれよ」とのこと。
何をだよと思うが、向こうとしては男っ気のないアイーシャのことを案じているのだろうとは分かるので、ある意味微笑ましいとも思うが、アイーシャ的には余計なお世話をする家族に呆れているのだろう。
「相変わらず楽しそうなご家庭だよね」
「賑やかではありますね。ただ、私としては殿下の所の雰囲気の方が好きですがね。実家は騒がしすぎますし、殿下と婚約者さん達と居る方が落ち着きそうです」
「そう?なら、そのうちウチに来るといいよ。部屋は用意しておくからさ」
「それは楽しそうですね。是非そうさせて頂きます」
本当に何気ない誘いだが、下心がないからこその自然なセリフであった。
この時の俺とアイーシャを見るトールの視線は、長らく謎だったのだが、後々になって考えると『お前ら早く結婚しろよ』と言わんばかりのものだと発覚するが、この時の俺にはそんな事はこれっぽっちも予想はついておらず、更に話を膨らませる。
「ご飯はなるべく一緒がいいかな。とはいえ、アイーシャの食べてる姿は見れなさそうだけど……一緒に住めば、そのうち目撃できそうだし期待しておく」
「ふふ、私の食べる姿は安くはないですよ?ちなみに兄は私以上に上手いので今度探ってみると面白いかもしれませんよ」
食べるのを上手いと呼ぶのは何とも凄いが、意識の外で咀嚼して、飲み込んで何事もなく振る舞うテクニックは確かに上手いと呼ぶべきものなのかもしれない。
レイナのような上品な食べ方や、アイリスのような微笑ましい食べ方、そしてセリィのように俺の血を飲む時の方が明らかに幸せそうな食べ方と、三者三様だが、そこにアイーシャも加わるとなると益々楽しみが増えそうだ。
「へー、流石アイーシャのお兄さんだね。まあでも、とりあえずはアイーシャの謎を解き明かしたいかな」
「ふふ、じゃあ私は殿下の謎を探ってみますね」
「俺の?」
「殿下の隠してそうなことを見つけて、私が独占しちゃおうかなぁ……なんて思いまして」
どこか蠱惑的な笑みを浮かべてそんな事を言うアイーシャ。
不思議な色香を感じてしまうが、友情を壊す気もなかったので、ほへーと、その魅力的な笑みに素直に、軽く見惚れつつも俺も不敵に微笑んでみる。
「なるほど、じゃあどっちが先に見つけるか楽しみにしてようか」
「ええ、そうしましょう」
軽い勝負や賭け事の類のようなものだが、そういえばトール以外と勝負や賭け事なんてした事ないなぁと今更ながら思い出す。
それだけアイーシャが気安い仲なのだろうと思うが、話していて妙な安心感があるのがアイーシャという女の子であった。
トールのような謎の以心伝心はないが、心を落ち着けて話せる相手……ふむ、俺が話が上手いわけではなくアイーシャが聞き上手なのだろうと思ったのだが、本人曰く、俺や婚約者達以外とはここまで落ち着いて話さないらしい。
特別ってことかな?
なんか嬉しいと思いながら、俺はトールとアイーシャを連れて城へと転移する。
今日は楽しくなりそうだ。
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