第160話 癒しタイム

「なるほど、それでお兄ちゃん珍しく上機嫌だったんですね〜」


夕食になり、婚約者達とアイーシャに本日のことを報告しながら和やかに食事をしていると、自然とトールが帝国の皇帝と手合わせしたことにも話が及び、アイリスが納得したような表情を浮かべていた。


やはり、妹から見ても上機嫌なトールには常に強敵が居た方が良いのかもしれないと少し思う。


まあ、俺には務まりそうもないし面倒なので相手をすることは無いだろうけど……その辺は色々考えるとしよう。


「上機嫌だったのですか?」

「……さあ?」


レイナとセリィが首を傾げるけど、会ったのが一瞬ならその反応も仕方ない。


そこそこの付き合いにはなってきているが、2人は日頃そこまでトールと長く接することもないし、俺やアイリス、あとは嫁のクレアとケイト辺りじゃないと分からないくらいには、奴も表情を作るのが上手いからね。


「……主のことなら分かるけど、トールは分かりにくい」

「そうですね、私もエルダート様の事でしたら分かるとは思いますが……アイリスさんもですよね?」

「はい!エル様の事は全部分かります!」

「ふふ、愛されてますね殿下」

「……まあね」


至極当然のように断言するセリィに、ごくごく自然に頷くレイナ、そして無邪気な笑みで肯定するアイリス……なんか、アイーシャに言われるまでもなく愛されてるのが分かって思わず照れそうになる。


ここまで真っ直ぐに好意を向けられるのだから、これで意識しない訳もなく、こうして日々俺は彼女たちに惹かれているのだろうと納得してしまうが、それは俺だって同じこと。


「でも、俺だってレイナやアイリス、セリィの事なら何でも分かるよ。例えば……アイリスはお昼少なかったからいつもより少しお腹が空いてるとか」

「あ、正解です!エル様凄い!」


まあ、トールでも分かることだろうけど、アイリスは本当に分かりやすいので可愛いものだ。


「レイナは今日面白い本見つけたから、後で俺に教えたかったりとか」

「ふふ、当たりです。流石はエルダート様ですね」


レイナはレイナで、面白い作品を見つけた時は俺に共有したくてうずうずしてるのだが、本日はやはりそのパターンだったらしい。


控えめながらも、こういう所は本当に愛らしいものだ。


「そして、セリィは今無性に俺に抱きつきたくてうずうずしてるとかね……気持ちは分かったから、少し落ち着こうね」

「……主、心読める魔法も持ってるの?」


というか、セリィは何かにつけて俺とスキンシップがしたくて仕方ない様子なので、そんな魔法なんて必要ないとは思うが……それにしても、最近は血よりもスキンシップが多い気がするのは気のせいだろうか?


「ふふ、相思相愛で羨ましいですね。私のことは分かりますか?殿下?」


からかうように、そんな事を尋ねてくるアイーシャ。


む、アイーシャはそうだなぁ……


「……実は、野菜が苦手だけど、ウチの料理で出てくるのが意外に美味しくて食べれる……とか?」

「凄いですね、正解ですよ」

「あ、本当に野菜苦手なんだ」


アイーシャ自身は、どうやっているのか俺たちが見てない時に食べているので、食べている様子とかは分かりにくいが、何となく最初アイーシャが野菜料理に手を伸ばしにくそうにしていたのは、気付いていたりした。


どうやら正解だったらしくて、少し誇らしくもなる。


「……主、アイーシャのことよく見てる」

「そうかな?まあ、皆程ではなくても何となくは分かるよ」

「それは光栄です」


いつもよりも少し嬉しそうな笑みを浮かべるアイーシャ。


まあ、知り合ってまだそんなに経ってないけど、何となくどういう人物なのかは分かってきたので、そのくらいなら何となくはわかるものだ。


とはいえ、やっぱり婚約者達や……残念なことにトール辺りの方が理解度は高いのは言うまでもないだろう。


婚約者達は知る度になんかますます好きになるんだけど、トールのことは知りすぎていて複雑な気持ちになってしまうのがねぇ……どうせなら好きな人の方が以心伝心出来ていたいものだが、現実は残酷なようで、うさ耳イケメン騎士の友人が最も互いを知っているのが残念なところ。


「……?エル様、どうかしましたか?」

「いや、何でもないよ」


とりあえず、美味しそうに食べている妹のアイリスの方を眺めて気持ちを落ち着かせてから、優雅に食べるレイナと、俺に抱きつく機会を伺っているセリィを眺めて癒される。


本日は色々あったけど、やっぱり我が家こそ安息の地であるらしい。


トールは今頃、クレアとケイトに捕まって色々やっている事だろうが……俺は子供だしそんな事は気にしないでおこう。


滋養強壮のドリンクとかの差し入れは必須ではあるだろうが、もう少し効果化の強いのをリーファと考える必要もあるかもなぁ……奴の場合さらに嫁が増えることも考えられなくないしね。


そんな感じで、濃すぎる一日の締めに婚約者達で癒された訳だが、そこに混じっても違和感がないアイーシャは本当に何者なのだろうかと疑問はあったが、それでもやはり癒しが欲しい俺は特に気にせずに婚約者達に癒されることにした。


やっぱり、我が家は落ち着くねぇ。


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