第159話 4人目?
「あら、お帰りなさいませ」
戦いで爽やかな汗を流したトールが、現実に引き戻され、今度は自分の嫁たちとイチャイチャするターンに戻るために自室に連れ戻されるのをみおくってから、俺も婚約者達に会いに行こうとすると廊下でまたしてもアイーシャと遭遇する。
なんか、ここ最近帰ると必ずアイーシャに遭遇する気がするが……気のせいだろうか?
ここは自分の屋敷のはずなのだが……まあ、いいか。
「やあ、アイーシャ。今日も来てくれたんだ」
「ええ、お邪魔でしたか?」
「いや、アイーシャが来てくれるのは嬉しいよ。でも、こう連日だとご家族が心配しない?」
「いえ……むしろ、喜ばれてます」
……うん、余計な心配だったかな。
アイーシャの父親であるプログレム伯爵と兄であるカリオンとは会っているが、プログレム伯爵は娘が俺に嫁ぐという勘違いであれだけ喜んでいたし、俺の元に行く頻度が増えるのは喜ばれるのかもしれない。
カリオンの方は不明だが……カリオンもそれを望んでる節があるのでどちらにせよ賛成派に分類されそうだ。
……賛成派ってなんだろう?自分で言ってて意味不明だが、気にしてないでおこう。
「そっか、あ、そうだ。明日、例の護衛の件大丈夫そう?」
丁度いいので、帰り際に頼まれたアクセル義兄様を案内する件で、俺の護衛……というか、話し相手を任せることになりそうなアイーシャにそう尋ねておく。
「帝国の皇子様の件ですか?ええ、大丈夫です」
「良かった。今日トールが予想以上に消耗したし、助かるよ」
「あの方が消耗ですか?女性関連でしょうか?」
……トールよ、アイーシャにさえ、女性とのイチャイチャくらいしかお前が消耗する要素がないと思われてるらしいぞ。
化け物じみているのは、共通認識になりつつあるようだが、女性が弱点というのが中々凄いよね。
「いや、帝国の皇帝と手合わせしてね。予想外に強敵だったらしくて、明日回復間に合うか微妙に思えてね」
トールは問題ないと言っていたが、久しぶりに全開で動いていたようだし、多少懸念する要素があるのは仕方ない。
まあ、それでもどうせ強いのだが、何事も不足の自体は起こり得るので備えておくことは決して無駄ではないだろう。
「なるほど、でも帝国の皇帝陛下とですか……確か『剣帝』と呼ばれていたお方ですね。そんな方と戦ったのは凄いですね」
「珍しく楽しそうだったよ。まあ、最近強者に飢えてた感はあったし、良い息抜きにはなったのかもね」
バトルオタクやバトルジャンキーというほどのレベルではないと思うが、トール的には上には上が居た方がやる気が起きるのだろう。
まあ、そんなやる気をもう少し嫁たちにも向けても良いと思うが……トールの場合は嫁が肉食なので丁度いいのかもしれないな。
クレアの場合、肉食を通り越してそうではあるが、ケイトもそのカテゴリーに入りそうだし、トールは本当に愛されていると思う。
「ふふ、じゃあ明日は殿下の息抜きになるよう護衛の方、張り切りますね」
「俺の?」
予想外の言葉に少し驚いてしまう。
「ここ最近、お忙しいみたいですし、帝国の皇子様のエスコートの時に一緒に羽を伸ばすのもいいかと」
確かに、ここ数字では中々濃い日々を過ごしているので、多少羽を伸ばしたい気持ちはあるのだが……出来るかな?
まあ、トールの護衛力をアクセル義兄様に回すから早々心配ないかもだが、念の為近くにバルバンを待機させておくのもいいかもしれないな。
それに、プログレム伯爵家からも何人か陰ながら来るだろうし、俺の仕事はそこまで多くないか。
「うーん、まあ、アクセル義兄様はレインとイチャイチャしているだろうし、出来なくもないかも……でも、流石に1人は寂しいから、アイーシャも付き合ってよ?」
「ええ、勿論です」
不思議と話しやすいからか、気安く誘えるアイーシャ。
トールのような近すぎない、分かりすぎない丁度いいこの距離感は悪くない。
トールの場合はお互いに深く分かりすぎて、少し思うところがあるレベルだが、アイーシャは婚約者達より少し低く、でもそこそこ近しい感じが良かった。
しかし、我ながら女の子を誘うのなんて婚約者以外に初めてのはずだが、アイーシャだからかすんなり誘えたものだ。
下心が微塵もないからだろうか……まあ、俺の場合女の子相手に下心を持つことはあまりないのだが……婚約者の場合は愛でたくなってしまうので仕方ない。
だってさ、アイリスは話してて可愛いし、レイナは不思議と甘えたくなるし、セリィは向こうからごろごろ甘えてくるので可愛いしと、皆魅力的なんだもの。
そりゃ、いつの間にかイチャイチャしてるよ。
「さて、夕飯食べてくよね?」
「宜しいのですか?」
「勿論だよ」
「では、お言葉に甘えさせて頂きます」
そうして、今日もアイーシャはウチで夕飯を食べることになるが、本当にこの頃の俺には下心は微塵も無かったと断言出来る。
誘いやすいし、アイリス達も仲良くしてるから当然の誘いなのだが……既に、屋敷の人間たちはアイーシャのことを俺の4人目の婚約者と認識し始めていたなんて、俺には知る由もなかった。
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