第158話 成長が止まらない
「殿下、世界はまだまだ広いんですね」
タクシーを終えて、屋敷に戻るとそんな事を呟くトール。
「渋々だったのに、随分と満足いく結果になったみたいだね」
帝国の皇帝陛下……剣帝と呼ばれる、世界最強クラスに指名された時は実に引き攣った表情を浮かべていたトールだが、終わってみると何とも清々しい表情で青春でもしてたのかと思わされてしまう。
あの激しい剣戟を見れば、青春なんて言葉が入る余地はまるでないが、今のトールを見ればそうとしか言いようがないので恐ろしい。
まるで、部活でもして、汗を流して、仲間と協力して、強敵と切磋琢磨した――そんな、爽やかな達成感にでも満ち溢れていそうなトール。
負けるとは思ってなかったが、ギリギリ引き分け……いや、稽古でも付けて貰っていたようなので、やはり俺の騎士は規格外なのだろうと思わされてしまうが、今さらなので言っても仕方ないだろう。
「次は勝てる?」
「いえ、もう何度か手合わせしないと追いつけないかと」
「そっか。まあ、最後に勝てるなら、文句はないけどね」
というか、大陸最上位の存在との手合わせを経てもこの余裕……やはり、俺の選んだ騎士は凄かったらしい。
まあ、偶然拾っただけなんだけどね。
「それにしても、久しぶりに全力を出して思ったよりも疲労が溜まりました。今夜はゆっくりしたいものですが……」
「うん、そんな夢は見ない方がいいと思うよ」
「ですよねぇ……」
仕事で流した汗とは別の、夜に流す汗に戦慄すら覚えていそうなトール。
剣帝相手にあれ程勇ましかったのが、今夜の妻との逢瀬に震えている。
クレアさん凄いねぇ……いや、下手したらケイトも混ざってるのだろうか?
トールが婚前交渉をするとは思えないが、向こうから迫られて……というパターンなら考えられなくもない。
貴族なら婚前交渉などは推奨されてはいないが、トールは貴族ではなく、俺の騎士なのでうるさく言う連中は少ないし、俺の屋敷内に放てるような人材を持ってる貴族などまず居ない。
よって、俺が何か言わない限りは自由なトール達なのだが……今夜くらいは労わるように言うべきかもな。
まあ、気が向けばだけどね。
「それで、そろそろクレアとの子供は出来そうなの?」
ほぼ毎晩ベットに連れ込まれているトールは、色々吸われているはずだが、まだ報告は受けてないので、しばらくは新婚生活を楽しむモードで行くのだろうか?
でも、クレアの性格上、そろそろ本格的に子孫繁栄を目指しそうなものだが……はてさて、どうなのやら。
「……出来たら、夜は静かになりますかね?」
「今度はケイトのターンになるだけじゃない?」
どこか縋るような視線を向けてくるトールだが、残念ながら子供が出来ようと今度はケイトとの夜の生活が幕を開けるだけだというのは予想出来た。
羨ましい悩みだが、トールはあまり色方向には欲が傾いてないからか、気持ちは嬉しいけど、体が大変なのだろう。
「まあ、そうなりますよね……でも、子供が出来るのは少し楽しみでもあります」
その過程のイチャイチャがハードではあるようだが、トール的には自分の子というものへの憧れもあるようだ。
「男の子なら、僕を越える騎士にしたいです」
さらりと恐ろしいことをほざくトール。
それはいくら何で酷では?
「無茶振りすぎじゃね?」
「いえ、妻の血が混じると有り得なくもないかと……」
亜人と人間のハーフ……なるほど、トールとクレアの子供なら確かに無くはない未来かもしれない。
ケイトとの子供は普通に亜人のはずだが、そちらもトールが父親なら色々と凄そうではある。
「子供か……俺も欲しいけど、その前に結婚式が先かな」
「殿下のお子ですか……想像すると恐ろしいですね」
「その言葉、そっくりそのまま返す」
というか、俺なんて魔法が少し使えるだけのか弱い子供なので、トールと比べれば全然可愛いものだと思う。
まあ、俺の子供はきっと婚約者達に似て可愛いのは間違いないけどね。
俺とアイリスの子供……うさ耳ふわふわの可愛い子。
俺とレイナの子供……癒し系のふわふわの可愛い子。
俺とセリィの子供……ちょっと変わった可愛い子。
……うむ、完璧だね。
まあ、過剰な期待かもしれないが、どんな形であれ愛する婚約者達との愛の結晶ならきっと可愛いと思う。
「トールの子供が騎士になりたがったら、俺の子に仕えるといいよ」
「親子揃ってお世話になります」
「今さら気にしなくていいけどね」
というか、親子どころかトールの妹を娶ることになるのだから、本当に今更なのだが……まあ、無理強いはしなくても、トールの子供が俺の跡を継ぐ子の騎士になるのは中々楽しげではある。
なるほど、貴族が縁によって人を雇うというのはこういう事も理由なのかもしれないなぁとは思ったが、あくまで未来の話だし、俺達にはどうしようも無いので、その後のことはまだ影も形も無い我が子に委ねるとしよう。
そんな感じで世間話程度に語った話ではあったが、後に本当にトールの跡継ぎが俺の跡継ぎの騎士になるとは、この時の俺達には無論知る由もなく、ある意味当然の流れになったのだが……それはまだ語れないのでご勘弁願おう。
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