第145話 国王陛下の密かな望み
「わざわざすまないな」
執務室に行くと、アクセル義兄様と挨拶を済ませた直後なのか、少し慌ただしくしていたようで、ダルテシア王国の国王陛下が落ち着くために席へと腰を降ろしていた所であった。
何とも、国王というのは大変そうだが、この人もうちの父様と同じように国王としての才能がカンストしてるからか、それぞれの跡継ぎの息子達ほどの大変さは感じなかった。
これが貫禄というものなのだろう。
「いえ、アクセル義兄様……ではなく、アクセル様と出会った経緯についてですよね?」
「呼び方はそのままでもいいぞ。今ここには私の信頼する者しか居ないのだし、私は君の義父でもあるのだからな」
正妻のレイナの父親でもあるので、俺も確かにこの人の義息子になるのだが、立場的にどうしても畏まってしまうのは仕方ないと言えた。
とはいえ、この人はこの人で俺としては尊敬してるし、理想の姿の1つでもあるので、それ故の緊張も多少はあるのかも。
父様やマルクス義兄様なんかは、血の繋がった家族でもあるので、その辺はもう少し砕けているが、立場もあってダルテシア国王には畏まってしまうが……でも、一応私的空間のようだし、お言葉には甘えるとしようかな。
「分かりました。アクセル義兄様は俺に興味があったようで、今日一日様子を伺ってたみたいです」
「ふむ、まあ、あの者ならそれも有り得るか。して、話してみてどうだった?」
「とても聡明なお方のようですね。それだけでなく、底知れない部分もありましたが、円満な関係は築けるかと」
レインに手を出したり、レインとのスローライフを妨害すると恐らく敵となるが、俺にはそれをするメリットもないので、仲良く出来ると思えた。
「それならばいい。にしても、えらく仲良くなったようだな。シュゲルトなんかは若干、苦手意識を持っているようであったが……エルダートはそうでもなさそうだ」
あら、我が義兄のシュゲルト義兄様はアクセル義兄様が少し苦手なのか。
ダルテシア王国の王太子なので、他国の上層部と仲良くなりやすい社交的なシュゲルト義兄様に苦手意識を持たせるアクセル義兄様……うむ、まあ、確かにレインへのそこの知れない愛情の片鱗を見れば躊躇う気持ちも分からなくはないが、俺としてはそこにさえ踏み込まなければ、比較的話しやすい良い人だと思ったが……まあ、その辺は個性によるかな。
「多分、マルクス兄様に嫁いだアマリリス義姉様に似てるから、話しやすいのだと思います」
「そういえば、帝国の姫君が嫁いだのであったな。あちらも義家族関係が大変そうだが……我々は出来ることなら仲良くしたいものだ」
王侯貴族なので、親戚付き合いにも作法やしきたりなんかが入ったり、力関係などで色々と大変なことが多いらしいが、俺は幸いというか、その辺は今のところ苦労は少なかった。
レイナの父親のダルテシア国王はこの通り、良い人な上に、色々と気遣ってくれるし、レイナの本当の母親は既にこの世を去ってしまっているが、レイナを可愛がってくれている、義母である王妃様とも関係は良好と言えた。
アイリスの場合は、トールが唯一の親戚だが、こちらは語るまでもなく、純度100%のシスコンのはずのトールが俺を嫉妬でいびることもなく、むしろ妹の幸せには俺が必要だろうという寛容な心なので、アイツは心底イケメンなのだろうと思う今日この頃。
まあ、やつのイケメンぶりは今更か。
そして、最後のセリィは、色々と過去に謎めいた部分もありつつも、本人曰く家族は既に居ないらしいので、実質的には俺はそこまで婿姑問題(嫁姑問題の逆バージョン)も特になく、平和な日々であった。
「何はともあれ、アクセル殿の滞在中は出来るだけ相手をしてくれると助かる」
「それは勿論です」
「うむ……時に、エルダートよ」
「はい」
「……そのだな、プライベートな席では婿殿と呼ぶが構わないか?」
「え?えっと、構いませんが……」
何故に急にと思っていると、少し恥ずかしげに顔を逸らしつつもダルテシア国王は言葉を続ける。
「……親友の息子であり、私の愛する愛娘のレイナの婿にはそなたしか居ないだろうと確信している。だからこそ、もう少し円滑な義家族とのコミニュケーションも必要かと思ってな。そなたも、プライベートでは義父と呼んで貰って構わない」
立場的に判断には悩んでしまうが……せっかく心を開いてくれているのに無碍にするのは俺には出来そうになかった。
それなりの付き合いにもなってきたし、ダルテシア国王が良いなら拒否する理由もないか。
「では、義父様とお呼びしても?」
「うむ……構わぬよ、婿殿」
「ありがとうございます。レイナのことはお任せください」
「期待しているぞ」
そうして、俺はこの日からダルテシア国王のことをプライベートな場と心中では義父様と呼ぶようになるのだが……まあ、本当に些細な変化なので、気にすることもないかな。
にしても、それだけ俺の事を気に入ってくれて、信頼してくれたのなら、より一層、俺はレイナを幸せにしたいものだ。
無論、それだけでなく、元から好きな人を幸せにしたい気持ちは強かったが……レイナ、アイリス、そしてセリィの三人を必ず幸せにしてみせると、心の中で固く誓うのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます