第144話 アクセル義兄様お届け
「おー、これが転移魔法か。凄いね、本当に一瞬で城門まで来れちゃったよ」
話し終えると、転移が見たいとの御要望をアクセル義兄様より賜ったので、帰る前に王城まで転移したのだが……予想以上にお気に召したようで、アクセル義兄様は何とも楽しげだ。
「エルダート殿下、私の発言をお許し頂いてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます。先程の旧スラム街から王城まででも、かなりの魔力消費のはずですが……エルダート殿下の残りの魔力量はどの程度かお聞きしても?」
見慣れぬ魔法にはしゃぐアクセル義兄様とは対照的に、彼の最愛のメイドのレインはどこか恐る恐るそんな事を尋ねてくる。
別に、俺なんてなんちゃって王子だし、緊張しなくてもいいのだが……そういう訳にもいかないのが、王侯貴族というものなのだろうなぁ。
とはいえ、レインの場合はなんか別の理由で緊張させているみたいにも見えるが、それが何かまでは俺には分からなかった。
まあ、レインに何かすればアクセル義兄様と敵対することになるだろうし、出来ることならこの人は敵には回したくないので、余程の事でなければ寛容な心持ちで居られる俺だが、思わぬ質問に少し考えてから、無難に返すことにした。
「うーん、半分くらいかな?」
正直言えば、この程度の距離の転移なら、1%も消費して無いに等しいのだが……正直に答えると、引かれそうなのでそう答える。
「それは嘘だろうね。エルの様子だと半分どころか、2割も消費してないようにしか見えないよ」
……ところが、何故かすぐにアクセル義兄様に嘘がバレてしまう。
この人とはダウトみたいなゲームはしたくないなぁ……完全敗北の未来しか見えないし。
「そんな、空間魔法……しかも、転移の魔法ともなればかなりの魔力を使うはずです。あれだけの距離で2割というのは流石に……」
「あまり気にしない方がいいよ。エルは多分僕らの常識外の魔力量なんだろうし。調べた感じ、シンフォニア王国とダルテシア王国がスムーズに連携を取れるようになったのは、エルが頻繁に運び屋をしてるからみたいだしね」
確かに、トップ同士の会談なんかは俺がタクシーをすることで、前より更にスムーズになっているが、それを察しているアクセル義兄様はやはり凄いと思う。
「そうなのですか……やはり、エルダート殿下は凄まじい方のようですね」
「本当にね。さて、じゃあ、そろそろお城にお邪魔しようか」
「アクセル義兄様、少し待ってください」
スタスタと行こうとするアクセル義兄様に待ったをかける。
「どうしたんだい、エル?」
「そろそろ来ると思うので」
「来る?」
首を傾げるアクセル義兄様だが、数秒して門が開くと納得したような表情を浮かべる。
「もしかしてって思っていたけど、さっき使ってたのは通信の魔道具だったんだね。個人で持つ魔道具じゃないから、まさかとは思ったけど」
アクセル義兄様と出会った時に、少しだけ時間を貰って、アクセル義兄様との接触をダルテシア王国の国王陛下に直接電話のような魔道具で知らせたのだが、俺の転移に気づいて開門してくれたようだ。
エスコートのための人員まで来ているし、俺の役目もここまでかな?
「では、アクセル義兄様。本日はこの辺で失礼します」
「あれ?エルは一緒に来ないのかな?」
「ええ、そろそろ帰らないと婚約者達が心配するでしょうし、今日はアクセル義兄様のための宴なので、御遠慮しておきます」
「まあ、面倒なパーティーを避けたい気持ちはよく分かるよ」
帝国の第8皇子である、アクセル義兄様の訪問なので、歓迎パーティーはかなりの規模で行われるだろう。
夜会のような規模にもなるだろうし、俺はまだ子供という理由で御遠慮させて貰うことにする。
本音?
勿論、貴族達との面倒なパーティーとかごめん蒙りたいのだ。
「……分かったよ。じゃあ、時間ある時にでもアマリリスのことよろしくね。あと、お忍びの観光とかも連れてってよ」
「お忍びは今日したのでは?」
「エルの尾行で、あまり回れてないんだよ。それに、レインとエル同行ならうるさい連中も黙らせられるだろうしね」
レインはかなりの実力者で、プロという感じだが、俺はそこまででもないんだけどなぁ……魔法が少し使える程度の子供だし。
あ、でもトール連れてくれば何とかなるか。
バルバンという逸材も居るし、アイーシャとか、プログレム伯爵家の人にも頼めばなお磐石かな?
「分かりました。その時はお任せください」
「じゃあ、面倒なパーティーに行ってくるよ」
「ええ、お気をつけて」
さて、想定外の出来事とはいえ、アクセル義兄様のお相手もつつがなく終えられたし、俺もそろそろ帰るとしようかな。
「エルダート殿下。国王陛下がお呼びです」
……なんて、考えていると、何度か話したことのある、国王陛下直属の騎士様に声をかけられる。
まあ、向こうからしたら突然帝国の第8皇子とエンカウントして、そのままエスコートして来たのだから、気になる点もあるのだろう。
「分かりました。すぐに行きます」
その前に、アクセル義兄様と話してて少し緊張してたので、気持ちをリセットするために、オアシスの水を一杯飲んでおく。
この水こそ、故郷の味……うむ、割と復活してきた。
我ながら単純かもしれないが、やはり水こそ俺にとっての至高のパートナーなのだろうとしみじみ思う。
故郷のオアシスの味だと尚更そう感じるのだから、やはり奥が深いものだ。
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