第135話 再会
「これって、空間魔法の転移の魔法?エルくんって一体……」
突然屋敷に転移で飛んだので、驚いているケイトだが、そんなケイトを連れて俺は屋敷の庭で稽古をしているトールに声をかける。
「トール、新しいお嫁さん連れてきたよ」
「殿下ですか。それって、殿下の新しい婚約者って意味ですよね?」
「勿論違うさ。ほら、この子だよ」
「トールくん!」
感極まったようにトールに抱きつくケイト。
そんなケイトを見て、トールは少し考えてから驚いた表情を浮かべた。
「まさか、ケイト?なんでここに……」
「トールくんを探してたの。トールくん!私をお嫁さんにして!」
「えぇ?急にそんなこと言われても……」
どういう事だと言わんばかりに俺に視線を向けてくるトール。
巻き込まれたくはないが、事情は話すべきだろう。
「彼女は、トールに会いたい一心でシンフォニア王国まで来て行き倒れていたんだよ。幼なじみなんでしょ?結婚の約束をしてたらしいし、面倒見てあげたら?」
「いや、僕には既にクレアという嫁が居るのですが……」
「私、二番目でもいい!トールくんと一緒がいいの!」
……凄いな。ここまで想われるってそうそう無さそうだが、これがトールというイケメンの力か。
「いや、でも、クレアが……」
「説得する!それとも、トールくんは私がお嫁さんになるのは嫌なの……?」
「そんな事はないよ。ただ、僕の妻は独占欲が強いからあんまりいい顔はしないかなぁ、と」
ヘルプを求めるように俺に視線を向けてくるトールだが、俺はそんな奴にサムズアップしておいた。
大丈夫だよ、トール。
その嫁さんは密かに呼んでおいたから。
「ダーリン」
ギクリとトールが背を震わせる。
恐る恐る振り返った奴が見たのは、何とも穏やかな顔をしているが得体の知れないプレッシャーを纏うクレアであった。
「く、クレア。違うんだ。これはその……」
「殿下から事情は聞いてます」
「そ、そうなんだ……」
いつの間にという感じに視線を向けてくるトール。
俺くらいになると、トールに気づかれる前にクレアにチクる方法なんていくらでもあるのさ。
まあ、魔法を使ってのみ可能になるのだが……魔法が無いとただの子供なので、やはり魔法の存在は大きいよね。
さてと……大抵の事の成り行きをクレアには伝えてあるので、俺の仕事は終わりかな?
後は修羅場を離れて見守ろうかなぁと思っていると、クレアはトールのそばに居るケイトへと視線を移して尋ねる。
「そちらの子がケイトさんですね」
「初めまして。トールくんの幼なじみのケイトです。その……お願いします!私もトールくんのお嫁さんになる事をお許しください!」
肌で感じたのだろう、クレアとトールの力関係を的確に見抜いてそうなケイトは、先程のトールへのお願いの勢いをそのままにクレアに自分もトールの嫁になることを認めて欲しいと願う。
そんな何ともワクワク……じゃなくて、ドキドキしそうな修羅場のセリフだが、予想に反してクレアはそれに軽く頷いてみせた。
「分かりました。ですが、私がダーリンの正妻なのは譲りませんし、譲れません。それと、私が先にダーリンの子を生みます。それを受け入れるなら、私も貴女を認めましょう」
「受け入れます!」
「では、今日から私達は同士です。よろしくお願いしますね、ケイトさん」
「はい!こちらこそ、よろしくお願いします」
凄いな、このスピード解決は。
この展開は想定してなかったので、俺もトールも困惑するが、俺はまあ、第三者視点……他人事として親友の嫁増加を見れるけど、張本人のトールはそうは行かないようで、クレアに思わず尋ねていた。
「い、いいの?幼なじみとはいっても、いきなり……」
「ええ、ダーリンに近づく悪い虫という訳でもなさそうですし、殿下がここまで連れてきたってことは、信頼出来るくらいにダーリンのことを想ってくれてる女の子なのは分かりますから」
トールの嫁とはいえ、クレアは一応俺の部下でもあった。
そして、婚約者達の護衛を任せることも多いので、それなりには信頼されてるようだ。
「勿論、ダーリンが拒むならそれでも構いません。その時は益々私がダーリンを独占しますから」
その何とも言えない、捕食者の視線にトールが軽く身を震わせる。
きっと、ここで拒めば更にクレアからの夜の求めが増えると直感したのだろう。
それが如何程のものなのか……残念ながら俺には知る由もないが、さして好色でもないトール的には、これ以上夜が激しくなるのは避けたいところなのだろう。
それに……
「それに、ダーリンも満更でもないようですしね」
「それは……」
「トール、ここは男を見せるべき」
「殿下、他人事みたいに……」
他人事だもの。
というか、トールが本当に嫌なら俺もクレアもこうしてケイトの手助けなんてしてない。
突然の幼なじみの訪問だが、トール的にも思うところが無いわけでもないだろうし、ケイトの事情を思うと無碍にも出来ないだろう。
しばらく唸っていたトールだが、観念したように軽く息を吐くとケイトに視線を向けて言った。
「その……ケイト」
「は、はい……」
「ご両親への挨拶は後日でいいかな?」
「そ、それって……」
「少しだけ、互いの相性というか、様子見はしたいけど……前向きに検討させて欲しい」
「トールくん……!」
感極まったように抱きつくケイト。
即断即決とはいかないが、それなりにケイトとの昔の思い出もあるのだろう、そこには確かに覚悟も感じ取れた。
そうして、予想よりも穏やかにトールはケイトを受け入れたのだが……後に、ケイトもクレア並にトールを求めるようになるとは、この時のトールは知る由もないのであった。
しかし、クレア一人でも大変なのに二人目か……トールが絞り殺されないように、もっと上位の滋養強壮剤を作れるようにならないとな。
俺もお世話になるかもだし……うむ、そうしよう。
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