第136話 モテる男も大変そう
「はぁ……まさか、殿下がケイトを拾ってくるとは思いませんでしたよ」
ケイトを受け入れたその日の夜のこと、楽しそうにケイトと話す俺の婚約者達を微笑ましく見守っていると、トールがそんなことを呟く。
「俺もトールに幼なじみが居たとは知らなかったよ」
「その……言いづらくて」
「それは、黙って出て行った負い目とか?」
「……まあ、そうです」
アイリスとトールの母親は幼いアイリスとトールを連れて、二人の父親から逃げるようにシンフォニア王国近くまで逃れた。
トールはその時に、ケイトに別れも告げられなかったので、どこかそれに罪悪感でも抱いていたのだろう。
向こうからしたら、ある日突然姿を消したことになるのだし、それにその後にトールは大切な母親を自身の父親に殺されて、その父親をトールが殺して、幼いアイリスを守ってきたという、何ともベリーハードな人生を送っているので、その話が出てこなかったのも仕方ないと言えた。
「何にしても、嫁さん増えそうで何よりだよ」
「まだ、嫁ではないです。それにご両親に許可を貰えるかどうか……」
「大丈夫じゃない?話を聞く限りでは」
ケイトの両親は、亜人絶対主義者とかではないらしいし、ケイトの話とトールの覚えてる通りなら、話して分からない相手でもなさそうだ。
それに、娘のことを心配していたし、第2王子の騎士ともなれば、そう悪い方向には行かないだろう。
「だといいですが」
「それよりも、妹に色々昔のこと話してるお前の幼なじみを止めなくていいの?」
惚気も混じった、ケイト目線で美化……というか、ある意味事実にも思える昔話をするケイトと、それを楽しそうに聞く俺の婚約者であり、その自慢の兄を持つアイリスさんは、俺の婚約者の中では一番、楽しげに過去の話を聞いているようであった。
なお、クレアを除いたのは、言うまでも無かったからだが……恐らく、クレアはショタトールを想像したのか何とも幸せそうな顔をしていた。
「知られても困る話はありませんからね」
「それは凄い」
「殿下は知られて困る話あるんですか?」
「まあ、人並みには」
前世のこととか、そちらは絶対言えないかな。
というか、優しい婚約者達にはとても聞かせられないよね……転生者ということを受け入れてくれたとしても、控えめに言っても決して明るい話にはならないし、そんな過去のことで優しい婚約者達の心を煩わせたくはないから、多分そのことは誰にも言わないだろう。
『私は知ってますけどね』
ドヤ顔気味なリーファの声。
繋がりから、その様子を知れるが……ドヤ顔が様になるのは美形の特権だよね。
「殿下の場合、何かしら後暗い過去とか持ってても違和感ないですよね。時々謎の負のオーラを感じますし」
「そう?というか、俺はこれでもそこそこ明るい無邪気な王子様だぜ?」
「いや、無邪気というのは無理があるような……というか、自分で言っておいて苦い顔しないでくださいよ」
すまん、自分で言ってて、何か虚しくなってね……にしても、トールのやつ、無駄に鋭いから困る。
「というか、トールよ。ケイトのご両親にご挨拶となると、俺がタクシーした方がいいかな?」
「ええ、出来ればお願いします。ちなみに殿下。前々から聞きたかったんですが、度々口にするタクシーとかいう単語はどんな意味なんですか?移動手段のような意味合いに使ってるようですが……」
そういえば、トール達の前ではたまに口にしてしまっていたな。
当然、自動車なんてものがこの異世界にある事もないので、タクシーという乗り物自体存在しないのだが……俺の転移の空間魔法での行き来をタクシーと呼ぶのは便利だし、心の中ではそう呼び続ける事になるだろう。
「意味的にはそれであってるよ。しかしご両親に挨拶か……中々楽しそ……ごほん、大変そうなイベントだこと」
「ガッツリ本音が出てますが、殿下だってそのうち他にも女性を妻にした時にやるかもしれませんよ?」
「ははは、そうそう増えないって」
「だといいんですがね」
そんな不穏な事を言うものでは無いよ。
「むしろ、トールこそようやく二人だしこれからじゃない?」
「怖いこと言わないで下さいよ……これ以上増えたら僕が僕で無くなるような……」
「ふむ、ファイト」
トール的には、夜の相手が辛いのだろう、その瞳は何とも暗くなっており、その様子からもトールには一夫多妻が重荷なのは明らかだが……まあ、モテる男の宿命という事で仕方ないと割り切れ。
俺は、まあ、立場的なもののブーストが強いだけでトールのように生粋のモテ男ではないので、そこだけは救いなのかな?
これで元からモテ要素の塊だったら今頃もっと婚約者が押しかけて来て大変になってそうだし……それに、俺はアイリスやレイナやセリィみたいな和む人達の方が有難いので無理にモテようとかそんな気持ちは微塵もなかった。
相続とか面倒事も増えるしね。
何にしても、大変そうな親友の肩をぽんぽんと叩いてエールを送っておく。
そんな俺とトールのなんとも言えない空気の近く、そちらでは俺の婚約者とトールの嫁が楽しそうに話しており、そういう意味でも今のメンバーがベストなのかもしれないと思えた。
まあ、なるようになるよね。
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