第134話 幼なじみ
「そっか、トールくん元気にやってるんだね」
色々と懸念もあるが、まずはトールの今を少し語るとケイトは何ともホッとしたように安堵の表情を浮かべていた。
それだけ想われているとは……幼い頃から微塵も想いが揺らがないその姿勢は凄いと思う。
「まあね。今は俺の騎士をしてもらってるよ」
「騎士……やっぱり、エルくんは貴族の子供なんだね」
「そんな所かな。エルダート・シンフォニア、それが本名だよ」
「シンフォニアってこの国の名前……まさかエルくん、王子様なの!?トールくん王子様の騎士になってるの!?」
めちゃくちゃ取り乱すが、確かに片思いの幼なじみがいつの間にか他国の王子の騎士になってるってびっくりだよね。
「え、えっと……エルくん、じゃなくて、エルダート殿下、その、無礼をお詫びしたく――」
「はい、ストップ。今はお忍びで来てるから、言葉使い変えることもないし、謝罪も必要ないよ。それよりもトールに会うなら一緒に来る?」
「え?えっと……いいの?」
その問いには、きっとこの話の真偽を確かめなくていいのかという問いも含まれてるのだろうが……それは最初から心配してない。
『純愛ですか、いいですねぇ〜』
俺に加護と契約をしている、植物の精霊のリーファ。
彼女は上位の精霊らしいというのか、俺を通して見た人間の本音や本心を感じ取ることが出来るのだが、そのリーファお墨付きで、片思いしてるようなので、疑う余地はなかった。
『この子からは、エルさんの婚約者さん達と、クレアさんと同じくらいの愛を感じます』
『それはまた、凄いね』
俺の婚約者達の俺への愛がどの程度かは不明だが、クレアレベルとなるとその数値は物凄く高いということになる。
まあ、確かにこの子にもクレアに通じるようなものを感じなくはないが……トールと同年代みたいだし、俺とアイリス、レイナ辺りと似たような感じもあったりするのかな?
ともあれ、そんな訳で、ケイトのことは信じてもいいだろうし、トールの元に連れていくという選択に迷いはないのだが……あとは、連れてった時のクレアとの修羅場を録画してみたいところだ。
もし、クレアが受け入れた場合、トールはただでさえクレア1人でも大変なのに、もう一人追加で夜の相手をすることになるだろう。
うむ、本気でリーファと最強の滋養強壮剤を作ることにしてみようかしら。
俺がそんなに激しく求められるかは分からないが、トールのためには必要だろうし……なんと言うか、トールの奴はきっと思ってもない所で嫁が増えたと嘆きそうだなぁと思った。
好色ではないし、クレアだけでも手一杯なのに、これだけ想ってくれる幼なじみの女の子を拒むわけも、ましてやクレアが受け入れた場合にはトールの合意なんて必要なしで嫁になるだろうし、奴も大変なことだ。
他人事だと笑って見られるものだが……まあ、俺も気をつけないと。
「その辺は信じるよ。それに会わせるのはトール本人だし、心配の必要もないからね」
「なんと言うか……エルくんは、トールくんのこと凄く信じてる感じなのかな?」
「まあ、そうかな?」
他人からそう尋ねられると何とも言い難いが、奴ともかれこれ長い付き合いになってきており、初期から不本意ながら以心伝心するような仲なので、信じてると言えば信じてるのかな?
「ふふ、男の子ってやっぱり素直じゃないよね」
「そう?」
「うん、トールくんも、昔私が迫ってた時には恥ずかしそうにしながらもぶっきらぼうに答えてたしね」
トールが何歳の頃の話なのかは不明だが……そんなトールの様子を容易に想像出来てしまうのが何とも言えない気持ちにさせられる。
そして、その時の奴の気持ちは、『嬉しいけど、恥ずかしいし、大人になってから……』というような気持ちだったことは明白。
覚えているかは知らないが、その当時の基準でいえば脈アリだったのだろう。
「何にしても、俺も用事を終えて帰るところだから、来るなら一緒に来なよ」
「うん、じゃあ、お願いします。でも、こんな所でトールくんの主様に助けられるなんて、やっぱり運命なのかもしれないね」
うっとりと、トールへの想いを馳せるその姿は、何とも年頃の乙女だが、その謎のプレッシャーはクレアの放つそれに近いものも感じなくない。
トールよ、これから俺が行うのは親切であって嫌がらせではないと言っておくよ。
イケメンである親友に片思いしていた幼なじみの女の子をトールと再会させる……何とも素敵な話じゃないか。
そう、俺は言わば二人の恋のキューピッド。
クレアとの時もそうだが、俺は何故か奴の恋を応援する宿命にあるようだし、無視も出来まい。
これが最後の嫁となるのかは不明だが、奴の主人公力を思うとこれで終わりとは思えないし、もう何回か似たようなことがありそうだと予想する。
やっぱりイケメンも大変なんだねぇ……俺には縁のない世界だけど、遠くから見守っておりますよ。
そんな感じで、俺はトールの幼なじみであるケイトを連れて、転移で屋敷に戻るのであった。
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