第131話 この距離の心地良さ

「相変わらず砂漠は暑いなぁ」


数日後、早速仲良くなったアイーシャと出掛けた婚約者達を見送ると俺は所用でシンフォニア王国のとある遺跡へと向かっていた。


まあ、とある情報を掴んだマルクス兄様に頼まれての軽い様子見程度のお仕事なのだが、護衛であるトールやバルバンは連れずに息抜きに一人で来ていた。


魔法以外非力な俺がそれをして大丈夫なのかと問われると絶対はないが、困った時には植物の精霊であるリーファさんが居られるので不都合は無かった。


『ふふ、期待しててくださいね』

『まずそんな目には合わないだろうけどね』


そう心の中で会話をするのは、その頼れる相棒であるリーファ。


加護と契約の関係で俺とリーファの間には特別な繋がりがあって、ここ数年でそれは更に強くなっていた。


『にしても、エルさんは婚約者さん達と出掛けなくて良かったのですか?誘われてましたよね?』

『まあ、マルクス兄様の先約があったしね』


婚約者達は無論大切だが、同じように今世で初めて出来た家族も俺にとっては掛け替えのないものである。


多少、婚約者達にウエイトがかかっていても、今世の優しい家族の頼みを断るようなことはまずしないし、余程変なことでない限りは役に立ちたいものだしね。


『前世ですか……人間さんも大変そうですね』

『精霊には生まれ変わりとかはないの?』


実は今世で唯一、俺が転生者であることを知るのがこのリーファであった。


お互いに契約や加護を通して互いのことを知ることが出来るようになったのだが、その繋がりの深さから既に俺が転生者であることはリーファも承知していた。


俺の前世も断片的には記憶を読み取ったのか察してるらしいが、その事で軽蔑や変な同情なんかをしない所が精霊らしくて好きであった。


『精霊には死という概念はありませんからね。何らかの理由でその身を失ったとしても、また数百年、数千年後には復活しますから。まあ、とはいえ例外もあるにはありますが』


下位の精霊は意思もなくその場に存在するだけなので、基本的には死という概念は存在しない。


まあ、意思もないので何らかの理由で消滅してもまたそのうち復活するそうだ。


意志を持つ上位の精霊もその辺の事情はそう変わらず、というか、そもそも精霊に手を出せる存在の方が稀なのだが……何事にも例外というものはあったりするらしい。


『まあ、それはそれとして、エルさんはもう一度生まれ変わることになったら何かなりたいものとかあるのですか?』

『うーん、今が幸せだから想像出来ないかなぁ……リーファはどうなの?』

『私は……そうですね、もう少し小さくなりたいですね』


何処をとか聞いたらセクハラになりそうだが、リーファ曰く、全体的な意味らしい。


リーファの人型の姿は、最初にあったスタイルのいい美人さんで固定らしく、少し背丈の高さや胸の大きさが気に入らないらしい。


まあ、確かにボンキュッボンって言葉が使われても不思議無いくらいではあったが……まあ、そういう人にも悩みはあるのだろう。


『セリィさんみたいな、小柄な女の子になって好きな殿方に抱きしめられたいですね』

『リーファの好みか……中々ハードル高そうだね』

『その点で言えば、エルさんは合格ですけどね』

『それは光栄だ』


俺としてもリーファのような女性は好みだし、悪くないが、互いに知りすぎていて幼馴染とのラブコメを脇に置いてるような気分にさせられる。


異性としてよりも、パートナーとしての気持ちの強さ……それ故に、お互いに今の距離感が気に入っているのだろう。


ちなみに、精霊と人間で恋をすることは別におかしい事ではないらしい。


リーファはそういう上位精霊に心当たりがあるらしく、その子孫は精霊の血を受け継いで普通に人間社会に紛れてひっそりと暮らしているそうだ。


何とも凄い話だが、俺もリーファとそういう関係になったら子供達にはそんな風に穏やかに生きて欲しいものだ。


まあ、過程の話だけど。


今は本当に相棒とかパートナー気分が心地よいし、リーファもそうらしいのでその気はない。


未来は分からないが……その時はアイリス達にも正直に話すつもりはある。


土下座の覚悟は出来ているのだが……まあ、アイリスやレイナ、セリィは俺を尻に敷くタイプではないので不要かもだが、婚約者達に許可を貰うことを忘れるような薄情者ではないとだけ言っておく。


あんまり心配かけたくもないし、それに俺は婚約者達には嘘が付けないようだから仕方ない。


可愛い婚約者達には弱いのだろう。


あの向けられる優しさと俺の好意で余計に補正がかかってそうだが……何にしても、それぞれ個性的で一緒に居て凄く楽しいものだ。


本日は1人だけど……。


『ふふ、違いますよ。私が居ますから。今日は私がエルさんを独占です』


そんな風に、心の中で思っていると心を当然のように読んだらしいリーファにそんなことを言われるが……確かにある意味2人きりなのかもしれないと納得する。


とはいえ、リーファとはいつでもに心の中で話せるし、そばに居るので今更感はあるが……何にしても、こうして1人の息抜きの時は普段より会話をしてしまうのは、やはり俺もリーファのことを気に入っているからだろうと思う。
















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