第130話 アイーシャ訪問

「すみません、昨日はウチのアホ親父がご迷惑かけたようで」


翌日、予定通り訪問してきたアイーシャから、会うなりそんな謝罪を受ける俺だが……アイーシャのアホ親父という言い方が地味にツボだったのは秘密にしておこう。


「気にしなくていいよ。プログレム伯爵とカリオンとは仲良くなれそうだし」

「兄とですか?それは凄いですね」

「凄い?」

「ええ、あの通り無愛想な兄は面倒事を嫌ってますからね。そんな兄と仲良くなれるなんて、殿下は凄いですよ」


その辺は兄妹そっくりなのかな?


まあ、確かにカリオンの場合、あの様子で黙り込んでいたら大抵の人が勘違いして近寄らないか、異性ならその寡黙な様子に、ミステリアスな魅力を見出して惹かれることなんかは容易に想像出来るが……やはり、美形は得だねぇ。


まあ、今更妬みはしないけど、トールとか見てると大変そうだし今くらいがいいのだろうと、自身のルックスに納得しておく。


「カリオンもアイーシャも父親よりも母親の血筋が濃かったりするの?」

「私と兄は比較的母親似ですかね。まあ、普段からあの様子の父親が側に居ればそうなるのも必然と言えますが」

「楽しそうな家庭だけどね」

「煩いだけですよ?」


なお、プログレム伯爵は奥さんが1人だけらしく、アイーシャとカリオンは貴族には珍しく両親が同じの兄妹であるらしい。


まあ、俺もそうなんだけど……俺は突然変異種だから別とする。


転生の影響かと思ったが、それなら祖母も転生者じゃないとおかしいし、それに何度か会った祖母はほぼ間違いなくこの世界の人だと分かる感じだったので違うだろう。


「何にしても、よく来てくれたよ」

「殿下と話すのは楽しいですから。それで、そちらが噂の婚約者さん達ですか?」


しばらく話してから、アイーシャは室内で俺達の様子を見ていたアイリス、レイナ、セリィに視線を向けてから俺に問いかけてくる。


「うん、俺の可愛い婚約者達だよ。レイナとアイリス、そしてセリィの三人になります」

「初めまして。エルダート様の婚約者のレイナです。このような姿で失礼します」

「あ、アイリスです……」

「……セリィ」


車椅子のレイナはそれで居ながら相変わらず上品に挨拶をして、アイリスは少し緊張気味に、そしてセリィは簡潔に自己紹介をするが、それだけでも個性があって面白い。


「初めまして、レイナ様、アイリス様、セリィ様。アイーシャと申します。噂には聞いてましたが、皆さん見目麗しいですね」

「ふふ、ありがとうございます。アイーシャさんも素敵ですね」

「私は普通ですよ」


ここ数年で、車椅子の存在は大分有名になっていたからか、それとも生来のものなのか、アイーシャは特にレイナの車椅子には触れずに話をする。


無論、ここで触れるようなアホを俺は婚約者達に会わせる気はないので、予想通りだがその様子には少しホッとした。


「あの……アイーシャ様。私は平民の出なので、様はちょっと……」

「……私も」


会話を弾ませていると、様付けで呼ばれるのが少し気恥ずかしくなったのか、そんなことを言うアイリスと、それに続くセリィ。


同じ内容でも、前者は恐縮と気恥しさ、後者は面倒なのでラフにという違いがあるが、らしいと言えばらしいかな。


「分かりました。私のことも様は要りませんのでアイーシャと呼んでください」

「それなら私も……」

「レイナ様は、王族ですしそれに殿下の正妻様なのでこの口調でご勘弁願いたく」

「……仕方ないですね」


素直に頷くレイナだが、仕方ないという気持ちなのは俺としてもよく分かる。


俺とレイナの共通の悩みというか、ちょっとした違和感なのだが、立場的に俺やレイナには基本的にタメ口や敬語なんて早々ないので、どうしても敬称付きで呼ばれるのだが、まあ、それは王族に生まれた定めなので諦めている。


別に敬称が付いたところで、仲良くできない訳では無いし、立場を常日頃から気をつけることも悪いことはないしね。


ただ、もう少し砕けて話してもいいとは思うが……トールにそれを許すとオブラート包まずに俺の心をクラッシュすることをストレートに言いそうなので遠慮しておく。


うむ、心は大切だしね。


「時に、3人は殿下とどんな出会いを?」

「それはですね……」


そこから、俺の婚約者三人とアイーシャが仲良くなるのに時間はほとんどかからず、気がつくと4人で楽しそうに話していて安堵する。


うむ、俺の予想通りアイーシャなら俺の婚約者達とも友人になれそうで良かったよ。


俺も時折気を使わせない程度に会話に混ざるが……内容が、俺との惚気というか、俺のことばかりで入るのもなんかむず痒いというか、恥ずかしいので、程々に邪魔しないように存在感を出しておくが、それさえ気にせずに惚気ける三人は凄いと思う。


俺もこれくらい婚約者ラブを全面に押し出すべきか……うむ、好色なんて噂が立たないように婚約者三人への純愛を示せばいいのか。


我ながらナイス名案だよね。


……三人もいて純愛も何もない気もするが、そこはスルーで。


まあ、もう少し婚約者ラブアピールはしてもいいかもしれないとは思ったので、今後はもう少しそのキャラを意識ておくとしよう。


ちなみに後日トールにこの事を話したら、『いえ、今でも十分ですから』と呆れられたのだが……何故?









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