第132話 欲の在り方
「お、やっぱりマルクス兄様の情報通りだったみたいだね」
目的の遺跡付近に到着すると、そこには巣立った後と思われるようなこの砂漠には似つかわしくない鳥の巣のようなものがあり、お目当ての物も直ぐに発見できた。
鳥の巣……なんて可愛い規模ではないけど、そう形容するのが恐らく一番近いと思われる。
『サンドスワローですか、確かにこの時期が繁殖でしたね』
名前通り、砂漠のツバメなのだが……大きさはそれこそ小柄なドラゴンくらいゆうに越える程の巨体であり、その性格は温厚ながらも、敵対行動を取れば苛烈で、知らずに子育て中の巣に入った冒険者が食い殺されるなんて事も割とあるそうだが……まあ、それは自業自得なので気にしないでおく。
そんな異世界らしい動物のサンドスワロー本体の肉はそこそこ美味しいらしいが、それはまた別で食べればいいので、俺はお目当てのもの……巣に残っている雛の殻とサンドスワローの羽を回収して空間魔法の亜空間に収納する。
「しかし、この大きさは魔法無しだとキツイだろうなぁ……」
『そうですね、人間さんには少し大変かもしれませんね』
卵の殻でも俺の身長の倍以上の大きさがあって、羽に至ってはとてもじゃないけど素の力で持てるとは思えない代物だった。
しかも、ここは過酷な砂漠のど真ん中であり、これを輸送するには空間魔法か、もしくは余程の実力者と腕自慢を連れてくる手間が必要になってしまうが、それをしてでも欲しがられるのがサンドスワローという動物であった。
本体の価値も高いには高いが、そちらの狩りの難易度は桁違いであり、高位の冒険者でも面倒な上にリスクの方が高いのでその手の依頼は受けないらしい。
基本穏和なサンドスワローの場合、砂漠のど真ん中で助けられた……なんて話もチラホラ聞くせいもあってか、本体を狩ろうという気にはならないのだろう。
ただ、羽は高級素材で僅かだけど魔法への抵抗の力があるのでかなりいい物で、その需要は増えることはあっても減ることはなく、王侯貴族では取り合いになるレベルの代物らしい。
卵の殻も、潰して混ぜると、様々な薬にできることから需要が高く、本来なら高価なお金を叩いてゲットするものだが……まあ、俺は転生してから巣立った時期に拝借することが何度かあった。
大体の場所をマルクス兄様が、自身のコネで導き出して、俺がそれを回収する……そんなサイクルがここ数年は多いが、俺としてはバトルもなく簡単なお使いと様子見程度のお仕事なので気楽に行っていた。
『ねえ、リーファ。サンドスワローって動物なの?魔物なの?』
『動物ですよ。若干魔力はありますが、基本的には動物で相違ありません。何より可愛いのであれは絶対動物です』
リーファの中では、可愛い=動物らしいが、植物の上位精霊であるリーファの言葉なので間違いはないだろう。
ちなみに、サンドスワローが動物なのか魔物なのかは、その手の学者達が議論を重ねており、まだ結果の出てない答えであるというのを俺が知ったのはこの仕事を更に数年重ねてからになるのだが……まあ、教える必要性もないし気にしないでおく。
「今年はアマリリス義姉様の為に張り切ってるみたいだし、もう何ヶ所か頑張るとしますか」
夫婦円満な我が兄であるマルクス兄様とアマリリス義姉様なのだが、アマリリス義姉様と、これから生まれてくれであろう子供のためにも出来るだけ多く素材が欲しいとマルクス兄様に催促されていたので、その後も転移を繰り返して何ヶ所か巡って回収する。
俺も、婚約者達のためにいくつか貰いたいし、多いに越したことはないだろう。
『私にも何かプレゼントしてくださいね』
『勿論。期待しててよ』
『ふふ、楽しみにしてます』
果たして植物の精霊にプレゼントをするのが普通なのか……謎の多い精霊だが、リーファは分身で受け取ることが出来るのでこういう時に贈り物を渡すくらいはしていた。
捧げ物とか、供物とかかと聞かれると近いけど違うような……まあ、プレゼントがやっぱり一番しっくり来るかも。
リーファには何気に世話になってるし、嬉しそうに受け取ってくれるのを見るのは悪くないので、アイリス達に贈る時は一緒に渡していた。
やっぱり、感謝の気持ちを伝えるのにプレゼントというのは分かりやすい形になって有難い。
物欲のない婚約者達なので、普段は滅多にオネダリなんてされない事からも、俺から贈り物を渡す機会はそこそこ多かった。
婚約者達の我儘……強いて言うなら、アイリスから強請られるのは大抵昼や夕飯のお代わり……それも、申し訳なさそうに控えめなオネダリをされたり、レイナの場合はデートのオネダリ(こちらも控えめなご様子)をされたり、セリィの場合は俺の血を飲んで満足してるので、本当に欲がないと思う。
俺なんて欲の塊なのになぁ……無欲な婚約者達を見えると自身の汚れがくっきりと見えるようだが、まあ、転生している時点で綺麗な中身を期待するのは間違ってるよね。
そんなことを思いながらお使いをこなすが……魔法で適温にしていても、ギラつく太陽と熱気は中々に凄いので早く戻って一息つきたいものだ。
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