第126話 特殊令嬢
「それにしても、噂の殿下に抜け出した先でお知り合いになれるとは思いませんでした。人気者の殿下がこんな所に居ていいんですか?」
少し話していると、そんなことを尋ねてくるアイーシャ。
「まあね、今日の主役はポリエントだし。必要な挨拶回りは済ませたから、多少サボってもバレないよ」
「殿下は目立つので、バレてそうですけどね」
「そう?」
「ええ。そんなに珍しい髪色と真っ白な肌だと、目立っても不思議ではないでしょうけど」
まあ、自国だけではなく、他国でも俺と同系統の髪色は見たことないが……肌に関しては、白い人もいる気がするし、そう目立ってないと思うが、そんな俺の予測とは裏腹に、アイーシャから見れば目立っているらしい。
「アイーシャも目立ってそうな容姿だけどね」
あまり見たことのない紫の髪色で短いショートヘア、整った容姿、そして伯爵家の令嬢ともなれば、かなり目立ってもおかしくはないが……今日挨拶した覚えすら無いのが不思議だ。
「私は家の事情で目立たない振る舞い方をしてますから」
曰く、色々な家の教育で、自然と普段から、印象を薄くするように動けてしまうらしい。
普通の令嬢がそんな真似を出来る訳ないのだが……プログレム伯爵家の人間ということなら分からなくもない。
「……その様子だと、殿下は私の家のことをご存知なのですね」
「まあね」
プログレム伯爵家は、裏の仕事……諜報や暗殺などの仕事を生業としている、異端な貴族家らしい。
とはいえ、表向きは普通の伯爵家であり、この事を知っているのはその雇い主でもある国と、一部の高位貴族のみで、俺が知ってるのは、何度かダルテシア王国経由で裏の仕事を、プログレム伯爵家に頼んだことがあるからだ。
にしても、息子ならともかく、娘までその手の教育を受けてるとは思わなかったけど。
気配の消し方も、印象に残らない立ち振る舞いも見事すぎて凄い。
「普通の令嬢には要らないスキルですけど、私は目立つのが好きじゃないので重宝してます」
「会場にいるイケメンの王子や高位貴族では物足りなかったのかな?」
「私あんまり美形には興味無いので。地位も別に要りませんし」
貴族のご令嬢としては、何とも野心のない言葉だが、本心から言っているように思えた。
その辺は割と気が合いそうだが、彼女からすれば俺との縁もあまり欲しいとは思わないのだろうし、気軽に友人で居られそうで何より。
「そっか、でもこんな面倒な場所に来てるってことは、親から婚約者探しでも急かされてるんでしょ」
「ええ、まあ……」
そろそろ年頃だし、早めに婚約者を探せという意味も込めて、最近はこの手の催しに参加させられてるが、乗り気でないので、こうして抜け出しているらしい。
うむ、何とも親近感の湧く話だ。
「早く成人して家を出たいものです……」
「自由か……憧れはするかもね」
とはいえ、俺はこんなんでも立場もあるのである程度しかそれを手にすることは許されないが、それに関してはそこまで不満もない。
可愛い婚約者や優しい家族のために出来ることはしたいし、自由そのものをそこまで欲してやまない訳でもない。
その代わり水には妥協しないけど。
お風呂とか飲み水とか……その質を高めることこそ、生涯の目標と言えた。
「何だか、殿下とは気が合いそうですね」
「だね。今度ウチに遊びに来ない?俺の婚約者達とも話が合いそうだし」
「いいですね、是非伺わせて頂きます」
互いにその気がまるで無いので、久しぶりに貴族で友人を作れた気がする。
アイーシャはプログレム伯爵家の次女らしいが、長女は既に嫁いでおり、長男が家を継いで次男が支える体制が出来ており、自分はそこまで家に縛られるような立ち位置でもないので将来は冒険者でもして稼いでから、適当な人と結婚して普通に家庭を持って人生を終えたいと話していた。
俺も前世で少し夢見た、普通の人生というやつの異世界版とも言えそうなそれだが、アイーシャなら普通に達成できそうで羨ましい限りだ。
そうして、その日のお茶会で俺はアイーシャと友達になったのだが……この時は本当にただの友達だったということだけは覚えていて貰いたい。
下心なんてまるでなく、気が合う人と知り合えて仲良くなれそうなので交友を広げただけであり、自ら婚約者を増やそうとした訳では無いということだけは伝えておく。
……うん、この言い方から後の出来事は察して貰えると幸いだ。
無論、この時の俺には知る由もないことだが、人生とは何とも分からないものであるというのはこの件でも良く理解出来た。
まあ、前世から考えると俺が王族になって、複数の婚約者を持つこと自体、前世では想像の余地もなかったことなのだが、アイリスもレイナもセリィも、三者三様で魅力的な女の子達であり、俺が幸せにしたいと思ってしまったのだから仕方ないよね。
好きになるのに理由は要らない……とはいえ、可愛くて心根の優しい女の子に好かれて悪い気になる訳もなく、ちょろくあっさりと俺が三人に堕ちただけなのだが、そこはスルーで。
男ってそんなものだし、それに好みの女の子なのだから仕方ない。
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