第125話 変な令嬢

「ふぅ……やはり、疲れた時はオアシスの水がいいなぁ」


それとなく、お茶会の会場を抜け出すと、俺は庭園の近くでオアシスの水を飲んで一息つく。


流石に疲れてきたし、ポリエントに注目が集まっていたので抜け出したが……弟よ、頑張ってくれたまえとエールを送りつつ、のんびりとする。


綺麗に咲き誇っている花達と、庭園のにて定番とも言える、噴水なんかも地味にあるのだがこれがまた素晴らしい。


小さいエリアながらも、水という特別な存在を存在感を強調して場に確立させつつ、他の要素の魅力を引き立たせる存在。


綺麗に流れる水の音はどこまでも澄んでおり、鳥の鳴き声と共に日常を色鮮やかに染めていく。


ふむ、やはり水は素晴らしい。


それを見ながら、この地から遠い異国である俺の故郷の命の水である、オアシスの水を飲むのだが、このオアシスの水こそ俺にとって原点とも言えた。


シンフォニア王国の王城にある俺の部屋……そこから一望できるオアシスの素晴らしい景色だが、あの部屋は俺が成人しても専用に使わせて貰えるように家族にお願いしたので、転移で行けばいつでも見れたりする。


何だかんだと、婚約者達と共にいるのにダルテシア王国の方が都合はいいが、シンフォニア王国のオアシスも俺は好きなので時々は帰りたくなる。


まあ、それでも婚約者達と一緒は楽しいし、こちらの水も素晴らしいので甲乙つけがたいが……水信者と婚約者達の魅力、どちらも素晴らしいので一概には判断できなかった。


つい先日、ようやくシンフォニア王国の未開の地である海のある地へとたどり着いたが、海の水と山の湧き水、井戸水に泉、雨にオアシスの水と、思えば様々な水を俺はこれまで見てきたものだ。


そのどれもが素晴らしく、尊いものだが……空間魔法にストックしてあるだけでなく、現地に向かって飲むのも醍醐味と言えた。


前世に比べると凄く贅沢だよね?


でも、この程度は許して欲しいかも。


ガサガサ。


「ん?」


水を飲んで落ち着いていると、何やら近くの木の上が揺れたような気がした。


視線を向けると、そこには何故か俺と同い年くらいの女の子がおり、お茶会に参加していたのか、ドレス姿で木の上で猫のように丸まっていた。


……ドレス姿で木登り?


どうやって登ったのやら。


しかし、感知魔法を常時発動していたのに、音がするまで反応に気づけなかったが……ただのご令嬢とは思えなかった。


「……そんな所で何を?」

「にゃ……にゃーん」


猫の泣き真似をして誤魔化そうとするご令嬢。


いや、思いっきり見えてるし、無意味じゃない?


「……もしかして、降りれないとか?」


その言葉に思いっきりドキリとしたのかギクッという表情を浮かべる女の子。


アホっぽいけど……嫌いなタイプではないかな。


「えっと……その……助けてください」

「はいはい」


素直に助けを乞われたので、植物の精霊魔法で少しだけ木を活性化させて枝を伸びして降りれるようにする。


この数年で、魔法に関してもかなり腕を上げているつもりだが、植物の精霊魔法もリーファのアドバイスを受けつつ上達していた。


リーファ曰く『今まで契約した中で一番上手く使えてる』そうだが、感覚的には普通に魔法を使うよりも少し難易度が高めという程度なので俺としてはそこまで大変でもなかった。


この植物の精霊魔法のお陰で、砂漠の緑化プロジェクトも進めるし、まだ出会えてない水の上位精霊にも早く会いたいものだ。


なお、ご令嬢を下ろすために活性化させて伸ばした植物は、後で元の状態に戻せるのだが……これも精霊魔法だから出来ることと言えた。


凄いね、魔法の上位互換というのも頷けるよ。


「ほら、これで降りれる?」


女の子は恐る恐るといった様子で降りてくると、地面に足が付いた瞬間にホッとした表情を浮かべた。


「ありがとうございました」

「気にしなくていいよ。でも、なんであんな所に居たの?」

「その……人の気配を感じて思わず隠れようとして……」


ご令嬢曰く、お茶会から抜け出して一人で落ち着いていた所に、俺がやってきて思わず木の上に登って隠れたが、自身が高いところが苦手なのを忘れており、降りれなくなったことに途中で気が付き、つい気配を出してしまったらしい。


……うむ、色々おかしい。


というか、俺の感知魔法に反応が無いくらいに気配などを断ち、かつ、結構高い木に音もなく登るなんて、トールみたいな超人にしか思えない。


ただの貴族のご令嬢ではなさそうだが……まあ、それはともかく、面白い人とは仲良くしておきたいものだ。


「俺はエルダート・シンフォニア。エルって呼んでよ。君の名前は?」

「私は、アイーシャ・プログレム。プログレム伯爵家の次女です」


こうして、俺はその日アイーシャという少女と出会うのだが……果たしてこれが良き出会いだったのかと聞かれればなんとも言えない。


ただ、面倒なお茶会で友達になれそうなご令嬢が出来たのは喜ばしいことかな?


超人的な動きが出来るのに、高いところが苦手なのを忘れていたというのは、控えめに言ってかなり面白いとも言えた。


うん、なんか仲良くなれそうだ。






















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