第124話 お茶会にて

「付き合ってもらって、すみません。エル兄さん」

「気にしなくていいよ」


申し訳なさそうに俺に謝るのは、レイナの義理の弟で、ダルテシア王国の第10王子のポリエントだ。


俺を実の兄のように慕ってくれる美少年だが、いつもの晴れやかな笑顔ではなく、今は少し申し訳なさそうにその表情を微妙に曇らせている。


その理由はと聞かれれば、今日の催しに関わってきていたりする。


「にしても、ポリエントは人気者だね」

「エル兄さんには負けますよ」

「今日の主役程には目立ってないと思うけどね」


本日は、ダルテシア王国の第10王子である、ポリエント主催のお茶会に参加していた。


レイナとの婚約から、ダルテシア王国の王族……まあ、レイナの家族とも交流が深くなったのだが、たまにこうして、王族主催の催しには参加していたが、本日もお呼ばれしたので来ていた。


あまりこの手の貴族的な行儀は好きではないのだが、親しい人からのお誘いを無下に断ることも出来ないし、少し付き合えば帰れるのでこうして出席するのだが……中々、普段表に出ないからか、この手の行事では俺に人が集まってくることも多々あり、貴族家の当主なんかはグイグイ来て恐ろしいものだ。


今回は子供限定のお茶会なので、子息やご令嬢ばかりで気楽ではあるが、親から言われてるのか俺や主賓のポリエントに向けられる視線には獲物を見るような肉食系の気配を感じなくもない。


子供とはいえ、貴族は貴族なんだねぇ。


ちなみに、レイナやアイリス、セリィは今回は連れてきていない。


別に予定があったのと……あとは、この国には亜人や障害に偏見はなくても、やはり良くも悪くも目立ってしまう三人に嫌な思いはして欲しくないので、この手の面倒事は極力俺が引き受けて、やむを得ない場合や婚約者同伴の場合にのみ連れてきていた。


それに、三人ともその手の行事は苦手だしね。


「それで?気になるご令嬢は居たの?」

「うーん、あんまりその気にはなれませんね」


苦笑しながら、ポリエントは答えるが、本日のお茶会の趣旨の中には、ポリエントの婚約者探しも含まれており、ご令嬢達はいつも以上に着飾っているようであった。


あとは、俺の婚約者の席を狙うご令嬢達も居るようだが……あんまり婚約者が増えてもねぇ……俺には既に3人も素敵な婚約者が居るし、それにあんまりギラギラした視線を向けられてもその気にはなれそうになかった。


ポリエントも俺と同じような気持ちなのか、挨拶回りを終えると俺に近づいてきて、一息つくことにしたようだ。


俺と話している間は、向こうから話しかけるのは難しいだろうし、ようやく少し落ち着いてきたのかホッとしており、余程大変だったのだろうと想像が出来た。


「それじゃあ、気になる子息は居たかな?」

「そちらも難しいですね」


そして、ポリエントの婚約者を狙うご令嬢に対して、子息達の行動は大きく分けると二つになる。


一つは、妹や姉をポリエントに進めるようにグイグイ来る子息達。


もう一つは、ポリエントの側近としての地位を狙う子息達だ。


ポリエントは大国であるダルテシア王国の第10王子なのだが、大国になると第10王子でも地位としてはかなりのもので、是非とも縁を繋ぎたいと考えるのが貴族という生き物のようだ。


そんな訳で、男女共に一番の標的はポリエントであったが、その次に狙われるのが俺で、そして高位の貴族の子息がその後に続くようだが、やはり主賓のポリエントと他国の王子であり、爵位もある俺にそれぞれの目が集まるのは必然と言えた。


嬉しくない注目だけど。


「エル兄さんは、婚約者増やす気はないんですか?」

「俺は既に3人も居るしね。とはいえ、これでも少ないとか言われるんだけど……」

「でしょうね」


富める者は貧しい者に施しを……というのは、誰の言葉だったかな?


貴族自身の度量や、経済力といった要素もそうだが、何かあった時のためにお家を残すために、また、確実に子孫を残すために大貴族は多くの嫁を娶るらしい。


特に、俺のような異端な存在こそ、多くの妻を娶るのが当然と世間では考えられるらしい。


なんとも嬉しくない常識だが、世界が違うので否定しても無意味と分かっているので特に異論は挟まないが、出来ることなら心穏やかに婚約者達と過ごしたいものだ。


俺の場合は、領地は未確定ではあるが、シンフォニア王国とダルテシア王国の両国で爵位を貰っており、それを継がせる子供と、あとは俺の子供と縁を繋ぎたい貴族たちからしたら俺が多く嫁を娶るか、子供に多く嫁がせるか……まあ、子供のことを考えると俺が娶らないと行けないが、その辺は上手いこと子供と共に交わして、平穏に過ごせるようにしたいと思っている。


異端な存在、イレギュラーなのだから、多少常識を知らなくても仕方ないと言い訳をしつつね。


「何にしても、レイナ姉さん達と仲良くなれそうなご令嬢は少なそうですね」

「それね」


思わず二人で苦笑してしまうが、俺の婚約者達は皆清いというか、無垢なので、汚れた大人の考えが少しづつうつされているであろう、ご令嬢達とレイナ達が仲良くなるとは思えなかった。


何にしても、貴族というのも大変だなぁと思いながら、少しの時間ポリエントと話して息抜きするが……まだまだお茶会は始まったばかりなので、気張らないと。


うむ、早く帰りたい。














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