第122話 海とは凄い

「おおー!海だー!」


数年がかりとはいえ、念願の海へと到着した俺たち。


まあ、本当はダルテシアの近くの海辺の国に行きたかったのだが……そちらに行く時間が無くて、こちらの方が初めての海になってしまったが、海は海なので喜んでおく。


本当に不思議な土地で、砂漠、海、山とそれらの中心に僅かではあっても普通の土地まであるので、移住さえ出来ればかなり良い地と言えた。


まあ、砂漠の魔物や凶暴な野生動物は粗方片付いてきたが、残りの海と山は未着手なので、今後もトールとバルバンには活躍してもらうことになるだろうが……今は、久しぶりの海を楽しむことにする。


思い起こせば、前世において最初で最後の海となったあそこよりも、澄んだ色をしており、汚染が全く進んでないことが分かる素晴らしい透明度であった。


「テンション高いですね」


お疲れ気味のトールは謎のテンションの俺に懐疑的な視線を向けていたが、いつもの事と割り切ったのか落ち着くように腰の鞘に剣を戻していた。


「なるほど、目当ては海だったのか」

「バルバンは海は来たことある?」

「ああ、何度か海辺の街には行ったな。海産物が美味かったな」


流石は冒険者というか、やはり海にも来たことはあるようだ。


バルバンはいかにも熟練といった感じだし分かっていても、頼もしいものだ。


「にしても、やっぱりここら辺は何かあるな」

「ええ、殿下の言う通り、この地自体に何か加護でもあるようですよね」


海、山、砂漠と三方に面していながらも中間の平地の気温は快適そのもの。


海辺は少し暖かいくらいで、山は涼しく、そして砂漠が激熱という矛盾している環境だが、恐らく俺に加護を授けているリーファのように、何かしらの強い力が働いているのでこんな摩訶不思議な土地になっていると考えられるだろう。


まあ、その辺はいいとして……


俺は海の水へと手を入れてみる。


少し冷たいくらいの水は、なんとも心地よく、前世で最後に味わったあの心地良さとは比べ物にならないほどの良さがあった。


あの時は息苦しさとか死にかけとかで色々あったからなぁ……なんにしても、こうして海に触れられるとは素晴らしいものだ。


「で?昼飯時だが、どうするんだ?」


バルバンのその一言で、現実に戻される。


「そうだね……とりあえず今日は帰ろうか。本当は今すぐアイリス達を連れてきたいけど、安全を確保するまではお預けにしておいて、海は改めてかな」


水着姿の婚約者達を見たい気持ちもあるが、それは今後プライベートビーチでも作ってそこで堪能するとして、今日はとりあえず転移先の設置が出来たのでお昼に戻るのがいいだろう。


「あ、でも海産物お土産にするのもいいかも」

「そんなこと出来るのか?俺には漁師みたいな真似は出来ないが」

「僕もですが」

「まあ、見てれば分かるよ」


俺だって、その手の知識はそんなにないけど、魔法があれば出来なくはない。


魔力の糸で網を作ると、気づかれないように海に沈めて……そして、感知魔法である程度集まっている所を目星をつけてすくい上げれば……なんと、大量の魚が海から上がってきた。


「……殿下って、相変わらずおかしいですよね」

「おいおい、そんなに褒めるなよ」

「はぁ……」


トールくんや、そのため息は何なのかね?


「かなり取れたな」


一方、バルバンは今更驚くのも面倒になったのか陸に上がってきた魚を見ていた。


……最近、騎士と護衛が冷たい件について。


「もう少し確保しておきたいかな」

「もっとか?これだけでもかなりの数だが……」

「空間魔法のストック用と……アイリスとトールが結構食べるからね」

「ああ、なるほどな」


亜人であるアイリスとトールは、昔でもかなり食べていたが、年々更に食べるようになったのでこの程度の数では足りないだろう。


特に成長著しいトールは、その分燃費も上がっており、必要なエネルギーもかなりのものなのか、めちゃくちゃ食べる。


その割には二人とも太る気配はなく、むしろ上手いこと栄養が行き渡るように成長しているが……亜人というのは凄いものだ。


「お、タコもある。これでたこ焼きも作れそうだ」

「……殿下、その変なの食べるんですか?」

「トール、こんな見た目でも美味しいものは美味しいんだよ」

「はぁ……」


あまりタコを食べる習慣のないこの世界の人達だったら、こういう反応は普通のようだ。


まあ、見た目的に食べたいビジュアルではないから仕方ないけど……刺身とかたこ焼きとかで食べたいので、俺としては有難い。


他にもカニやイカなんかも入っており、色々と海鮮料理やそれに準ずるものを作れるようになって俺としてはホクホクであった。


まあ、ダルテシア王国の隣国の海辺の国の方が圧倒的に近いのでわざわざここに来る意味は無かったのだが……漁師の仕事を奪うのもあれだし、そっちは後日でいいなぁと思いつつも、時間が空いたら是非とも行こうと思うであった。


場所によっても、海にも違いがあるし、何より本物の海辺で育った人たちの料理とか楽しみすぎるしね。


ちなみに、お土産で持ち帰った海産物で、特に好評だったのはカニであった。


カニってどこでも強いなぁ……。










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