第121話 日課
ここ数年、週に何日かとある日課が俺の日常に組み込まれていた。
「全く減ってませんね……」
「しかも、かなり強いな」
げんなりとしながら、目の前の光景に顔を顰めるトールとバルバン。
何をしているのか?
まあ、シンフォニア王国の未開の地へと俺たちは向かっていた。
シンフォニア王国の端の方、名義上シンフォニア王国の領土となっているその地は、海と山、砂漠の三方に面しており、なんとも不思議な立地だが、たどり着くためには陸路だと砂漠を進むしかなく、しかし、その付近の魔物や野生動物の凶暴さや難易度から無理ゲーに思われており、結果そこそこ良い立地でも放置という結果しか出せてないのだが、そんな場所へと向かっていた。
海の方からの侵入はもちろん、山の方も砂漠に居る魔物や野生動物並の難易度なので、どこから行っても結果的には同じなのだが、海や山に比べると砂漠の方がマシというのが何とも皮肉であった。
ここ数年、その地へとたどり着くために、週に何日かを使って魔物や野生動物を狩りながら進んでいるが、俺の護衛であるトールとバルバンもこれに巻き込まれており、二人は一向に減る気配のない魔物や野生動物にうんざりしてるようであった。
「殿下、この辺やっぱりおかしいですよ」
「ああ、普通の所と比べても難易度がケタ違いだ。未開の地とはいえ、この魔物と野生動物のレベルはおかしい」
砂漠での狩りの経験があるトールも、元冒険者のバルバンもこの付近の魔物や野生動物の異常さや異質さにかなり疑問を抱いているようだが……その原因は分かっていた。
「多分、この辺自体が、強力なパワースポットなんだろうね」
「パワースポット?」
「うん、もっと簡単に言えば、魔物や野生動物が強くなりやすいポイント……みたいなものかな?」
この付近だけではなく、俺たちが目指しているその地の周辺自体がそうなのではないかと俺は考えている。
実は様子見で、山と海方面から進んでみたことがあるのだが……結果として、どちらもかなり魔物や野生動物の妨害が凄くて、現地にたどり着くのも難しかった。
何らかの力場というか、地脈のようなもので強化でもされているのだろうと予想は出来たが……もし、そうなら、たどり着いてその地を開拓出来ればかなり安泰とも言えた。
何より、シンフォニア王国において海に近くなるというのはかなりメリットが高い。
難易度は高いけど、やる価値はある。
まあ、普通の人では難しいけど。
「……そんな所に住むんですか?」
「別荘くらいの感覚では住めるようにしたいかな……そんな訳で、好きなだけ狩っていい」
「無茶を言うなよ……」
ここ数年で、そこそこ距離的には進めているが、二人とも一向に減る気配のない魔物や野生動物に嫌気がさしてきたのだろう。
「殿下の魔法でどうにかならないんですか?」
「うーん、やれないことはないけど、この辺の魔物とか野生動物は珍しいのが多いし、素材が良いから俺の魔法だと、少し調整をミスると跡形もなく消し炭にしそうで怖くてね。せっかく高値で売れるのに勿体ないじゃん」
お金には困ってないが、良さげな毛皮や素材なんかもあるので、確保はしておきたいのだ。
それに、空間魔法で保存できるので、もしもの時に売れるようにストックしておくのも悪くない。
「そんな訳で、今日も頑張ろうか」
「はぁ……分かりましたよ」
渋々ながらも、傷つけないように倒しておくトール。
ここ数年で化け物具合が高まったことで、更に手加減も上手くなってきたらしい。
トールやバルバンの実力からしたら、難易度の高いこの地の魔物や野生動物なんて大した驚異ではないが……こうした手加減が面倒くさいのだろうと他人事ながら思う。
とはいえ、二人もこれらの価値が分かるしお金の重要性を理解しているのでその辺も考慮して倒していたりする。
「しかし、トールは益々強くなったな。もう、俺じゃ相手にならんか」
近くで狩りつつ、トールの様子を見て思わず呟くバルバン。
「これも時代の流れか」
「何を年寄りくさいことを言うのかね」
「とはいえ、事実だぜ?」
そう言いながらも、トールより上手いこと手加減をして倒していくバルバン。
確かに、本気のトールと打ち合える時間はそう長くはないが、この手の経験がものを言う技巧はやはりバルバンの方が上手かったりする。
「何にしても、良い騎士を持ったものだな」
「それには同感だよ」
少なくとも、空を飛んでいる魔物に対して、空気を蹴るように駆け上がって倒したり、剣を振った衝撃での斬撃を飛ばして遠距離攻撃とするようなアホな真似を出来るトールは控えめに言ってチートと言えた。
というか、トールさんガチでバトル漫画みたいな真似をしててウケるんですけど。
いつの間にこんなに脳筋に育ったのやら……見た目のイケメン具合や妹のアイリスの様子からは想像できないくらいに脳筋になったが、まあ、強くて悪いことはないし、気にしたら負けかな?
そうして、そんな感じで進むことしばらく……数年がかりではあったが、ようやくお目当ての地へと俺たちは到着するのであった。
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